BAR MEIJIU [飯田橋]
メロウな音楽とともに味わう 実験的なオリジナルカクテル
ミュージックバーとひと口に言っても、音楽を楽しむだけでなく最高のお酒に出会えることもある。中国語で「美酒」を意味する店名の通り、店主の松本圭祐が日々試行錯誤を重ねて生み出した至高のオリジナルカクテルを嗜むことのできるバーが飯田橋に店を構えている。カクテルを看板に掲げるバーは幾多にも存在するが、ここで提供されるカクテルにはクリエイティビティを感じる味わいの厚みがある。「メニューは店内のキッチンでアレンジしたお酒を使ったシグネチャーカクテルが12種類と、クラシックカクテルが数種類。最近は和の食材を取り入れてカクテルを作っています」。松本がカクテルを作るために具体的にどのような作業を行っているのか話を聞くと、それはほとんど理科の実験に近いような、知識と技術の両方が必要とされるものだった。「作りたい味が思い浮かんだときに、既製品だけで作るのではなく構成を一から考えます。グローバルでトレンドになっているようなミクソロジーの手法を取り入れています」。そう語り、季節の人気メニューの作り方を教えてくれた。
「京都の季の美ジンと柚子酒、それからスーズというハーブリキュールを合わせ、ヨーグルトとミルクを使って液体をウォッシングし、トニックで割ったカクテルです」。ミルクウォッシングとは、主に乳製品をつかって液体を清澄(せいちょう)し、ミルクのまろやかな風味をまとわせるもの。ウォッシングというのはカクテル作りでは欠かせない技術で、〈BAR MEIJIU(バー メイジュ)〉の看板メニューにも頻繁に用いられている手法だ。「いまおすすめしているもう一種類のカクテルは、ほうじ茶を抽出したジンと、カカオバターでファットウォッシングしたラムに、ベルモットのお酒を合わせた重厚感のあるカクテルです。チョコレート自体は使っていないのですが、カカオバターから濃厚な香りが移ります」。香りと味を計算し尽くしたカクテルは、酒のガストロノミーと形容したくなるほど自由度が高くアイディアに溢れている。決まった分量のリキュールを混ぜ合わせ、ステアの回数やお酒を保存する温度に至るまで、できる限り忠実に作る、という古のカクテルに対するイメージが完全に覆されるようだった。レシピを聞くだけでも心が躍るようなカクテルは、〈BAR MEIJIU〉だから生み出せるものだ。
Middle 氷は一つひとつ包丁で削りシャープに仕上げる。
Right 人気メニューの一つである柚子とジンのカクテル。繊細で伸びやかな味わいに飲む手が止まらなくなってしまい危険。
カクテルへのストイックなこだわり方に対して、かかっている音楽は自由度の高いラインナップになっているのも興味深い。ジャンルを絞らずに、店主の好みと店に流れる空気に合わせて選曲される曲たちが、居心地の良い空間を作り上げる。「ジャズを中心に、古い曲から新譜まで幅広くレコードをセレクトしています。オープンしてすぐの時間はソロピアノなど静かな曲を中心に流し、盛り上がっている時間はグルーヴ感のある曲を選びます。時間の流れによってかける曲に違いはありますが、基本的にはメロウなリズムのものが好き。ジャズの中でも編成の多いものは選ばず、主役になりすぎない音楽をかけています」。あくまでも主役はお酒。幅広い音楽をかけることで間口を広げ、辿り着いた客たちに、味覚だけでなく心までも満たされる驚きのカクテルを振る舞っている。
BAR MEIJIU
東京都千代田区富士見2-7-2 プラーノモール103 Cゾーン
03-6272-6969
@barmeijiu
Photo Asuka Ito | Interview & Text Aya Sato |