A Simple Line “S.T,N.E.” by TRUCK FURNITURE

TRUCK FURNITUREによる 新しく、シンプルなライン

素材を活かしたオリジナル家具で知られるTRUCK FURNITURE (トラックファニチャー)の新たなライン「S.T,N.E.」がこの秋東京のイベントでお披露目された。S.T,N.E.とは、“Same TRUCK, New Engine”を略した言葉。長年愛されてきたTRUCKらしさはそのままに、代表である黄瀬徳彦の今の気分と生活感覚をのせた「大人トラック」とも言えるコレクションだ。S.T,N.E.の家具が配置されたイベント会場の空間の中で、黄瀬に話を聞いた。

TRUCKに新しいエンジンを乗せて

黄瀬徳彦
大阪出身の家具職人・デザイナー、TRUCK 代表。1991年に独立し1997年パートナーの唐津裕美とブランドを設立。木材の節や割れなど“欠点”とされる素材の表情をあえて残し、一点物の家具として手仕事で生み出す。2009年には大阪・旭区にショップ兼工場を構え、家具を「暮らしの道具」と捉えた空間づくりにも挑み、国内外で高く評価されている。

いつしか、ディテールをどんどん“足していく”方向に進んでいたという黄瀬。TRUCKを始めて30年弱が経過する中、心のどこかで「TRUCKを始めた頃の、シンプルな家具に戻ってみたい」という気持ちが芽生え始めていた。
この10年の間にロサンゼルスの天井高5、6メートルのロフトで過ごした経験も大きい。広々とした空間や、街に漂う“抜け感”に触れるうちに、ますます“スコーンと抜けた”インテリアやそこに合う家具への欲求が強くなっていった。
そんなタイミングで大阪で理想の土地に出会い、自邸を一から建てることに。建築家ではないものの、頭の中では常に3Dの動画のように空間をイメージしながら、そこで使いたい家具を同時に考えていく。こうして生まれたのが、S.T,N.E.の家具だ。
「一見まっ白で何もない家なんですけど、よく見ると変態なくらい真鍮のパーツが散りばめられていたり、左官の壁に微妙なテクスチャーがあったり。家具も同じで、ぱっと見は主張しないけれど、よく見ると奥行きがあるものにしたかったんです」。

何もしない勇気から生まれた「PLACE」シリーズ

TRUCK流のシンプルさで展開されるS.T,N.E.の中でも特に象徴的な存在が「PLACE」シリーズだ。厚さ30ミリの板で構成されたシェルフやスツールは、一見するとDIYで作れそうなほどシンプルに見える。
「今回のテーマは“何もしない”。棚板の厚みやディテールで散々遊んできた自分にとって、これは一番のチャレンジでした。正直、商品として成立するのかドキドキでした」。
工場で見たときは「まあまあやな」くらいの印象だったが、作りかけのS.T,N.E.の空間に運び、シェルフにものを一つ、二つと置いて写真を撮ってみると、途端に良さが現れた。写真に収めると、なおさら手応えがあったという。そこからサイズ違いやテーブル、ベンチへと徐々に展開していった。
編集者や来場者からも「一番見たいのはこのPLACEのシェルフ」と言ってもらえたことが嬉しかった。
S.T,N.E.のコレクションは長年TRUCKを愛用してきたファンたちにはどう写るのか。
「どのテーブルもソファも、何もしていないようでいて、ちゃんとTRUCKらしい力強さを感じる、と見た人たちから言ってもらえて。作り手は僕ひとりで、トレンドではなく“一人称”で作っているから、結局はにじみ出てしまうんですかね」。

バンクーバーのデザインスタジオ[studio faculty]と手を組み制作をした作品集。自宅にS.T,N.E.の家具を運び込み、黄瀬自らがスタイリングと撮影を行い、1作品ごとにテキストも書かれており、ブランドの哲学を堪能できる1冊だ。
徹底的に「暮らして」検証する

S.T,N.E.の家具は、TRUCK同様に使い心地は検証を重ね徹底的に拘っている。
ステンレスのスタッキングチェアは、とある会議室で見かけた椅子が着想源。よくある形を、できるだけすっきりさせて籐を張ってみたらどうだろう……、そんなアイディアからスケッチを起こし、試作を重ねた。強度のための補強を入れれば見た目が崩れ、細くすれば横揺れが出る。そのギリギリのバランスを職人と探りながら、3度目の試作でようやく納得の形になった。

完成まで2年以上かかった「MORGAN SOFA」も象徴的だ。工場や店での試し座りだけではなく、自宅に持ち帰ってソファに座りながら何時間も映画を観てみる。そこで少しでも違和感があれば、中身の構造からやり直しを重ねた。

「ある日、3時間超の映画を観てたら、だんだん体勢がずれて頭が当たってきて。『あかんやん』って、展示も受注も始まっているタイミングにも関わらず、一部を改良したりと実際に使うことでの気付きを反映していきました」。
高さを抑えたプロポーションは、日本の住宅事情にも相性がいい。視線が抜けることで部屋が広く見え、なおかつ座り心地の良い形を探った。張地には、奥行きのある色合いと10年保証という安心感から、これまでの約3倍の価格の生地であるクヴァドラ社のものを採用しているという。

「大人トラック」を楽しむ人たちへ

S.T,N.E.は、誰に向けた家具なのか。
「正直、ターゲットのことなんて考えたことありません。ただ、自分自身がそうであるように、服や音楽、家具の好みも、歳を重ねることで
基本の好みは変わっていない。あえて言うなら広がっている。その広がりを楽しめる人には、きっと今のS.T,N.E.がしっくりくると思います」。
かつてTRUCKのソファを選んだ人が、生活や価値観の変化とともにS.T,N.E.に惹かれることもあれば、TRUCKをよく知らない若い世代が、最初の一脚としてS.T,N.E.を選ぶこともある。黄瀬は、その両方を嬉しそうに受け止める。
TRUCKとS.T,N.E.の関係を、「サザンオールスターズでいえば、桑田佳祐のソロ活動みたいなもの」と表現する黄瀬。
日本の住居環境に相性よく、様々なライフスタイルにも寄り添ってくれるようなシンプルで温かみのあるS.T,N.E.の家具は、これからの新しい選択肢として多くの人々に愛されていくのだろう。

音楽家haruka nakamuraとのコラボレーションも生まれた。自邸と家具の構想を練る日々のBGMが、彼のアルバム『スティルライフ』だったことがきっかけだ。京都のレストランで偶然出会い、互いにTRUCKの家具と音楽のファンだったことがわかる。そこからS.T,N.E.のために3曲を書き下ろしてもらい、黄瀬がライカで撮影した写真とともにLPとして形になった。

S.T,N.E. Web
https://www.stne.jp/

Photo  Kei Sakakura Interview & Text  Takayasu Yamada

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