Electrik Jinja [六本木]

六本木の地下で楽しむ 音と酒、極上のグルーヴ

ロイ・ハーグローブやロバート・グラスパー、BIGYUKIから勢喜遊、石若駿など国内外のトッププレイヤーたちの演奏が見れると聞いてどんな場所を思い浮かべるだろうか。数々の有名ジャズクラブを想像するかもしれないが、このビッグネームたちが集う〈Electrik神社(エレクトリック神社)〉 というミュージックバーが六本木にある。 雑居ビルの地下1階に位置し、決して広くはないこの空間になぜ多くのアーティストが集い、セッションを行うのか。オーナーの板垣から話をきいた。

友人であり仕事仲間である
ミュージシャンとの関係性

「この店を始める前自分は西麻布にあったバーの責任者を務めていたんです。ミュージックバーではなかったのですが、そこのオーナーはロック系のミュージシャンと繋がりが深かったので、ライブなどをよく行っていました。僕が責任者になってからは知り合いのミュージシャンを呼んでジャズやラテンミュージックのライブも増えていきました。他のジャズクラブでライブを終えたミュージシャンがそのお店に流れてくるようになったんです。セッションも自然と行うようになっていき、それがきっかけでロイ・ハーグローブや、ロバート・グラスパーと出会ったんです。西麻布のお店が閉店し、〈Electrik神社〉をオープンした今でも通い続けてくれています。みんな義理堅いですよね(笑)。今のお店ではロイ・ハーグローブがフラっと入ってきてトランペットを吹きはじめたり、Bilal(ビラル)が朝まで歌い続けていて帰らなかったり、Casey Benjamin(ケイシー・ベンジャミン)がわがままを言うからわざわざ彼用にミキサーを購入したりと、かなりラフな関係性が続いていますね。そういう方達の紹介で徐々にお店に来てくれる国内外の方達が増えていき、石若駿や勢喜遊は10代の頃からここで腕を磨いていたんです。今や毎週火曜にやっているライブは若手たちの成長の場になっています」。

尊敬する石岡瑛子がアートディレクターを務めた『TUTU』のアートワークから、彼女が構成を行いレニ・リーフェンシュタールが撮影をした写真集「NUBA」、ディアンジェロまで板垣の趣向が棚に反映されている。
音楽とお店の相互作用

これだけのビッグネームたちとラフな関係を築くオーナーの板垣。なぜ引く手数多のミュージシャンたちがこの場所に惹かれるのか、取材を進めると板垣の人間性や音楽に対する考え方からくるものだとわかっていった。
「音楽は会話と一緒だと思うんです。静かに会話をしようと思うのに、大きな声で話されたら嫌な気持ちになるじゃないですか。それは音楽も同じでその空間に合った音量で演奏をしないと意味がないんです。音は空気の振動なので大き過ぎれば体全体が不快な気持ちになる事だってある。本当に良いグルーヴは音量ではなく、バンド全員が同じ方向に向かって進んだ時に起こる鳥肌が立つような音のうねりだと思うんです。それは音量でも音質でもない。だからこそ、その場にあったお客様との対話を意識しないといけない。例えそれが僕の師匠の五十嵐一生であっても、若手でも、ロバート・グラスパーであったとしても、空間とお客様にそぐわない音量であればしっかりと注意し、伝えるようにしています。それにミュージックバーやライブをやるお店だとしても音楽がお店の全てではないと思うんです。僕が求めているのは美味しい食事があって、良いお酒があって、楽しい会話がある。そういった瞬間の一片に音楽があるお店が理想なんです」。
話を進めていくと、彼がお店と音楽の関係性についてとても真摯に向き合っているのが伝わってくる。きっと音楽に対して真正面から向き合うミュージシャンだからこそ、板垣の気持ちに共鳴し自然と引き寄せられてくるのだろう。取材のために訪れた〈Electrik神社〉だったが、彼との会話を楽しみ、お勧めの食事に舌鼓を打ち、セッションライブに心を躍らせていると5時間超の時間が経過していた。きっとこのお店は人、食事とお酒、そして音楽が組み合わさり、来る人々を離さないグルーヴを生んでいるのだろう。

エレクトリック神社ではお酒だけでなく、フードも充実している。中でもフムスと自家製のピタパンはお店を代表するメニューで、イスラエル出身のベーシスト、アヴィシャイ・コーエンも日本で一番美味しいと太鼓判を押す。

Electrik神社
東京都港区六本木5-9-22 第二千陽ビルB1 03-5478-3363
@electrik_jinja

Photo Asuka ItoInterview & Text Katsuya Kondo

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