AO CHOCHIN [恵比寿]

音楽呑兵衛は 青ちょうちんに集う

出汁の香りと
特大スピーカー

恵比寿ガーデンプレイスの端にある一風変わった酒場が立ち並ぶ、洒落た大人の呑兵衛横丁。その一つに、赤提灯ならぬ青提灯が光る店がある。美味しいお酒と肴を求めて吸い込まれるように扉を開くと、カウンター越しに目に飛び込んでくるWestern Electric16A HORN(ウェスタンエレクトリック 16A ホーン)に度肝を抜かれる。そして漂うのは出汁の香り。ここはおでんを中心にする日本酒バー、〈青ちょうちん〉。店主を務めるのは、白金高輪にある割烹料理〈あき山〉を営む秋山英登だ。ミシュランで星を獲得するほどの料理人である秋山は、以前はミュージシャンを目指していたほどの音楽好きでもある。「〈あき山〉は割烹料理店なのでどうしても敷居を高く感じさせてしまいます。だからもっとカジュアルに料理やお酒、音楽を楽しんでもらえる空間を別で作りたかったんです。いい音を聴き、美味しい料理を食べ、うまいお酒を飲む。いい音が聴こえた瞬間と、美味しいものを口にしたときの喜びは同じだと思うんです。だからそれらが揃うと至福だと僕は感じます。料理も和食であろうが中華であろうが、音楽もロックであろうがジャズであろうが関係なくて、“いいものはいい”を体感してもらいたいんです。
お店で流す曲はジャズが多いですね。Western Electric 16A HORNは1930年前後に製造された初期トーキー映画時代の映画館用スピーカーで、サックスやトランペットの相性がよく、特大ホーンから気持ちのいい鳴りが出てきます。空間の広さに対してキャパオーバーなのは分かっていつつも、どうせだったらシンボリックな音響機器を置きたかったんです。一番最初に流したレコードはニーナ・シモンの[Pastel Blue]なのですが、鳴り出したあの瞬間の感動は忘れられないですね。もちろん音楽はジャンルを問わないので、ロックだと大好きなレディオヘッドをよく流します。日によってはBluetoothを繋いで、お客さんに好きな曲を自由に流してもらったりもします。お酒を飲んで心地良くなり、それぞれが好きな曲を回していく。そういう友達の家みたいな遊びをできる空間にしたかったんです。そんなお店の雰囲気をおもしろがってくれて、いろいろなジャンルの人たちがお店に夜な夜な寄ってくれるようになりました。サロンとは言わないですけど、新しい出会いが僕はもちろんお客さん同士でも生まれています」。

Bottom Left 店の看板にはグラフィックアーティスト内田洋一朗によるメッセージ「MEMORIES. IT’S A DAY DREAMING.」が直筆されている。
Bottom Middle 食材の味を最大限に引き出した名物おでん。この日は聖護院大根と海老芋、香箱蟹で、どれも滅多に口にすることのできない季節ものだ。
Bottom Right ターンテーブルはGarrard 401(ガラード 401)。重厚感あるデザインはWestern Electric 16A HORNとも相性がいい。

ついついスピーカーと音に気を取られてしまうが、名物のおでんにこそ料理人 秋山の本領が発揮されている。「季節の食材を使うのですが、素材本来の味を楽しんでもらうために出汁は薄味にして、砂糖は使っていません。今日は京都の聖護院大根や海老芋、香箱蟹を具材にしました。どれも季節もので、高級割烹料理店などでしかあまり目にしないものです。でもそんなことを大々的に言うつもりもなくて、口にしたときに、“いつもの大根となにか違うな”と先入観なしに感じてもらえればいい」。本物の音と料理をカジュアルに楽しませてくれる青ちょうちん。聞けば秋山はジャイルス・ ピーターソンのDJスタイルが好きなようで、青ちょうちんに通ずるものを感じる。「ジャイルスのDJはかっこつけずに、いつもハッピーで音楽の素晴らしさを伝えてくれます。それが一番かっこいいスタイルだと思います。そんな感覚を大切にしていきたいです」。

青ちょうちん
東京都目黒区三田1-13-4 恵比寿ガーデンプレイス
BRICK END 070-8524-8827
@ao_chochin

Photo Asuka ItoInterview & Text Yutaro Okamoto

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