SASAZUKA BOWL [笹塚]
新たなカルチャーを紡ぎ続ける 創業51年のボウリング場
ミュージックバーの特集でなぜボウリング場?と思うかもしれないが、ここはれっきとした音楽の場。1973年の創業以降、笹塚周辺に住む人々の健康をボウリングで活性化する場として世代を問わず愛されてきた〈笹塚ボウル〉だが、アップデートを繰り返し、今では数々のアーティストや文化人など、あらゆる音楽好きたちが集まるイベントスペースという位置付けだ。カルチャーの最前線にいる人々が集まるここで、51年の歴史の中で新たな文化が生まれたことも少なくないだろう。
2007年のリニューアルオープンを皮切りにオーディオが進化し、2年前の改装でほとんど完成形になったというこの場所は、今号で取り上げている名だたるミュージックバーたちにも引けを取らない上質なオーディオを完備している。ボウリング場として歴史を重ねながら、ここまでオーディオのクオリティにこだわりを持つ理由を、オーナーの財津宜史に聞いた。「もともと音楽イベントは好きだったので創業当時からサウンドシステムを入れていましたが、ここまでこだわるきっかけになったのは村田大造さん(Global Hearts 代表)の存在です。2年前の改装の時に“せっかくだからもっと音を良くしなよ”と言ってくれて、スピーカーやアンプ、レコード針、あらゆるメーカーの機材をずっと同じ盤で聴き比べさせてもらいました。一日5時間ほど同じ曲を機材を変えて聴き続けるのを2年ほど続けると、耳が少しずつ慣れていって音の違いが分かるようになったんです。そこからは箱の作り方を大造さんと一緒に半年かけて考えました」。もともとイベントスペースとしての貸し出しは行っていたが、オーディオのレベルが数段上がったことで音箱としても申し分のない場に仕上がった。村田大造との会話、信頼関係から、トップオーディオで音楽を聴く贅沢な体験を身近な場所でも実現可能にした存在が〈笹塚ボウル〉だ。ボウリング場としてだけでなく、音楽好きも納得の上質な空間に生まれ変わったのである。そしてそのアップデートは現在に至るまで止まることはない。
「今はスピーカーのセットが3パターンあり、イベントの形態に合わせてセットチェンジをしています。クラブミュージックを流すイベントにはパワフルな音を出せるMeyer Sound(メイヤー サウンド)、レコードでアナログな音を流すイベントではALTEC(アルテック)社のスピーカーを使います。イベントによってスピーカーが変わるのはもちろんですが、客層も全く違うのでそこに合わせて演出にも変化が生まれます。照明の色やプロジェクターの使い方、イベントによってはVJが入ることもあるので用途に合わせて柔軟に使い分けています」。20年前の改装時は“ボウリング場の中にあるレストラン”をコンセプトに食事メニューをアップデート。そこから忘年会やイベントの場所貸し依頼が増え、2年前の改装ではより食事と音楽を楽しめる空間作りを目指したのだという。
「たくさんの人に集まってもらうには食事が美味しいことは欠かせない。レストランとしてはしっかりこだわるようになってファンが増えたようには感じます。ちなみにあの、ファレル・ウィリアムスは“ここのチキンナゲットが世界で一番美味しい!”と言っていました(笑)」。
ドリンクメニューにも、レストランやバーに勝るとも劣らないラインナップが揃う。ナチュラルワインや、万珍酒店とコラボしたオリジナルのビール、昨今のナイトライフには欠かせないメスカルなど、豊富な種類のお酒がイベントを盛り上げる。オーディオと食事、お酒へのこだわりが、カルチャーの最前線にいる人々の心を掴んでいるのだろうが、人々が集まる理由はそれだけではない。
「サウンドシステムに惹かれて来てくれる方は大勢いますが、根本的には接客業としての基本をしっかりやり続けたいと思っています。場内が清潔に保たれていることや、笑顔で接客すること。いいイベントやパーティを作るための基本のことをいつも心がけています」。
夜の音楽イベントのイメージが強い〈笹塚ボウル〉だが、朝から夕方までは貸切のイベントスペースとしてお年寄りの憩いの場になっている。レストランスペースのステージで子どもたちがダンスの発表会をしたり、お年寄りのカラオケ大会が開かれることもあるんだとか。“ウェルネスな社会を作る”というモットーのもと、街の人々の心身の健康を支える運動施設として、そして文化が生まれる場所として、〈笹塚ボウル〉は平日も休日も、昼夜を通して街を盛り上げ続けている。
笹塚ボウル
東京都渋谷区笹塚1-57-10 笹塚駅前ビル3F
03-3374-1301
@sasazukabowl
Photo Asuka Ito | Interview & Text Aya Sato |