BAROOM [南青山]
風街のミュージックバーには 世にも珍しい円形ホール
日本を代表する作詞家、松本隆は自身が生まれ育った青山を基点とした一帯を“風街”と呼ぶ。この円形ホールを備えた一風変わったミュージックバーの〈BAROOM(バルーム)〉は3年前のオープン時、松本隆と雑誌編集者の西田善太、クリエイティブディレクターの嶋浩一郎の三者による“歌詞”についてのトークショーをこけら落としとしてはじまった。〈BAROOM〉がある南青山のエリアはまさに風街の中心地だ。
店に入りまず驚くことといえば、円形のイベントホールはもちろんだが、膨大な数の希少なレコードコレクションの棚。陳列されたレコードの背に書かれたタイトルを見ると日本語が並ぶ。中には放送用チャイムから落語などのレコードも。ちあきなおみが1973年に[喝采]でレコード大賞を受賞した時の楯もある。これらは、日本最古のレコード会社“日本コロムビア”によるもので、このバルームは親会社であるフェイスが運営していることから、ほかとは一線を画す体験ができる場であるのだ。
演奏を終えたミュージシャンが
バーで一緒になって飲むことも
通常、イベントホールというと前方にステージがあり、向き合う形で観客席がある、というのが基本だが、日本では珍しい円形ホールがこのお店の1番の特徴となっている。最近では、ロンドンのキーボードプレイヤー、ジョー・アーモン・ジョーンズやBIGYUKIなどジャズシーンのキーマンたちのライブが行われた円形ホール。その時行われたBIGYUKIの演奏は〈BAROOM〉と日本コロムビアの南麻布スタジオを繋いでダイレクトカッティングという手法により録音されBAROOM RECORDSからリリースをするなど、〈BAROOM〉だからこそできる実験的な試みを行っている。円形ホールとミュージックバーのスペースを揃えた施設だからこそ生まれる面白さとして「演奏後にミュージシャンがバーに来てお客様と一緒に音楽を聴き、お酒を飲むことも。酔っ払って、店内にあるピアノで演奏したり、レコードをかけたりという突然の出来事もこのお店ならでは」と同店のクリエイティブ・プロデューサーを務める石井りかは話す。
円形ホールの周囲を囲むようなデザインのバーのスペースは、まるで洞窟のような店内。ALTEC(アルテック)のスピーカーの上には見慣れない青いホーンがあるが、これは世に出ていないプロトタイプのようだ。ヴィンテージオーディオを通したレコードの音が特殊なこの空間を心地よく包む。円形ホールと同様に、一般的な空間作りではないからこそレベルの高い音響管理が必要そうだが、バルームのサウンドはかつて西麻布にあった伝説的なクラブ〈Space Lab YELLOW(スペースラボ イエロー)〉を担当していた須藤健志が音響を監修している。生の音を聴かせる円形ホールと、ヴィンテージオーディオでアナログレコードを聴かせるバーのスペースはどういう風に音響面を考えたのか。
最新とアナログを分けた
両極端なサウンドシステム
「〈BAROOM〉の円形ホールは、ステージだけではなく客席の壁も円形になっています。つまり、トンネルのような空間なんです。そうなるとどうしても反響がネックになってしまい、従来通りのサウンドシステムを組むと壁から跳ね返ってきた音がステージに集まり音圧が高くなって、ミュージシャンには演奏しづらい環境になってしまい、音もどんどん濁っていきます。ステージの負担を下げながら、観客にいい音を届ける。そのためかなり頭を使いました。円形ホールの優れている面を上げるとすると、一般的なライブ会場だと観客は前方にいるミュージシャンを観ながら、両脇にあるスピーカーからの音を聴くことになります。ですが、ここではステージから放射状にスピーカーを配置しているため、ミュージシャンの方向から音が来るようになり没入感を得られるのです。使っている機材もd&b audiotechnikのスピーカーやプロセッサーなど最新の機材、技術を使っていますが、対してバーの方はアナログです。ホールの方は生の音なのでお客様も神経を使うと思います。そのため、バーの方はホッとしてもらえたり、ゆっくりとライブを振り返ったりする心地良さを提供したいという思いで構築していきました。スピーカーもALTECのヴィンテージなのでアナログの良さを最大限引き出すことを目的として構成にしています。ターンテーブルと針はDENONを使用していますが、日本コロムビアとDENONはかつて同じグループだった歴史があるので、このストーリーを汲んだ音空間にしたいと思い採用しています」と須藤は〈BAROOM〉の音響について話す。DJブースの奥にあるレコード棚を見るとサインが描かれたレコードが揃うところに同店がミュージシャンたちから愛されているのがわかる。近くにはブルーノートもあり、演奏を終えたミュージシャンが一息つきにバルームに訪れることも少なくないようだ。最近では、バーでライブセットを組んで営業も行ったという。お客さんもミュージシャンが多いから、飛び入り参加してセッションを楽しむなんて瞬間もあったようだ。普通のバーでは起きない〈BAROOM〉だからこその体験がここでは起きる。今の東京らしい新しい風を感じられるはずだ。
BAROOM
東京都港区南青山6-10-12 フェイス南青山1F
03-6892-1577
AUDIO DATA
Bar Space
SPEAKER : ALTEC 718A + HORN(ORIGINAL)
TURNTABLE : DENON DP-1300MKII
ROTARY MIXERr : E&S DJR400FX
CARTRIDGES : DENON DL-103
Event Hall
SPEAKER & WOOFER : d&b audiotechnik
ESSENTIAL MUSIC
BAROOMを象徴する10曲
01 BIGYUKI [Theiā]
02 Yasuaki Shimizu [DOLL PLAY I]
03 Ryuichi Sakamoto [THOUSAND KNIVES (2016 remaster)]
04 Akiko Yano [ 達者でナ (LIVE)]
05 Makoto Kubota & The Sunset Gang [ ROOCHOO GUMBO ~ HOODOO CHUNKO ]
06 United Future Organization [Happy Birthday ]
07 Nana Vasconcelos [Ondas (No ólhos de Petronila)]
08 Fabiano do Nascimento & ShinSasakubo [Após a Tempestade]
09 Banksia Trio · Sugawa Takashi Banksia Trio · Takashi Sugawa · Masaki Hayashi · Shun Ishiwaka [Bird Flew By]
10 Dizzy Gillespie Quintet [Kush]
Photo Yota Hoshi | Interview & Text Takayasu Yamada |