Interview with Carlo Rivetti about 『STORIA: UPDATED』
ミスター ストーンアイランドが語る アーカイブ本『STORIA: UPDATED』
ストーンアイランドのアーカイブ本『STORIA』がアップデートされた。40年以上にわたってガーメントダイによる染色技術の可能性を追求し、ナイロンメタルやアイスジャケットなど革新的な衣類を生み出してきたストーンアイランド。そんな実験結果の数々や時代の空気を閉じ込めたビジュアルが344ページにまとめられたアーカイブ本は、ファンが読めば歓喜し、誰が読んでもストーンアイランドの実験精神を楽しめる仕上がりになっている。
再編集版の 『STORIA: UPDATED』には新章「コミュニティ」が加えられ、音楽やアート、映画、スポーツなど幅広いクリエイティブジャンルと育んできた繋がりを特集している。その出版を記念して来日していた現会長のカルロ・リヴェッティと、本誌制作のきっかけとなり寄稿もしているライターのユージーン・ラブキンに話を聞ける機会を得た。
ー 再編集版の出版おめでとうございます。“ミスター ストーンアイランド”と称されるカルロさんは、このアーカイブ本を一読者としてどう読まれましたか。
カルロ 編集はユージーンにお任せしました。私は服を作るのは得意ですけど、文章を書くのは得意ではないので。出来上がったこの一冊を読むと、ストーンアイランドの熱量が伝わってきます。私自身も新たな感銘を受けました。ブランドとしてマーケティング的な広告活動はほぼ行ってこなかったですし、活動を伝えるような本もありませんでした。だから私たちの活動が40年越しにまとめられたこの本は、ストーンアイランドが何を大切にしているかを知ってもらうために非常に重要なものになりました。
再編集版には、ストーンアイランドのコミュニティについて語るページが加えられてます。さまざまなジャンルの人たちと築き上げてきたコミュニティについてです。彼らとの関係は自然発生的に生まれてきたので、なぜそうなったのかは私自身もわかりません。でもこの本を読んでもらえば、ストーンアイランドがなぜ愛されるのかがわかってもらえると思います。
ー 特に好きなページを教えてください。
カルロ 「キッチン」と名付けられた章が特にお気に入りです。ストーンアイランドの核にある染色の舞台裏を特集したページです。文字通り料理をするように染色が進められていくのでキッチンというタイトルになっています。プロダクトを作り上げる工程をじっくりお見せし、読んでもらう人に情熱を感じてもらいたいです。私自身も、ストーンアイランドの42年間という歴史を改めて感慨深く受け止めています。
ー ユージーンさんがアーカイブ本を作ろうと思った理由を教えてください。
ユージーン ストーンアイランドはカテゴライズが難しいブランドです。テックブランドでもなければ、ストリートブランドでもない。でも全ての要素を兼ね備えている稀有な存在です。ストーンアイランドほど衣類やデザインの可能性を押し広げたブランドをほかに私は知らないです。私にとって“デザイン”の意味は、可能性の境界線を押し広げていくことであり、ストーンアイランドの服作りはまさにデザインです。
このブランドの強みは、プロダクト自体が私たちを魅了しているということです。ブランディングやストーリーテリングに力を入れているブランドもありますが、ストーンアイランドはプロダクト自体がストーリーテリングをしている。ものづくりの裏にある作り手の熱意や人生を感じられるプロダクトになっています。にも関わらず40年の間に活動をまとめた本が作られていないことが不思議でした。そこで知り合いのいる出版社リッゾーリ(ニューヨークを拠点とし、ファッションやアート、デザインなどの書籍出版で世界的に支持を得る)に話を持ちかけたんです。そして実際に本づくりが動き出したきっかけは、この東京のフラッグシップストアにあります。2018年のオープニングセレモニーに私は来ていたのですが、そこでカルロに本づくりの話をできるチャンスがあったんです。カルロが「イエス」と言ってくれた瞬間を今でも覚えていますし、この本を作り上げたことが今でも信じられません。
ー ユージーンさんから見たカルロさんの人間像を教えてください。
ユージーン カルロ自身がストーンアイランドですね。“ミスター ストーンアイランド”と呼ばれていますが、まさにその通りです。現代のブランドはオーセンティシティ(信頼がおけること)を求めていますが、ストーンアイランドには常にオーセンティシティがあります。なぜならカルロがそういう人だからです。だからこそチームが一丸となってカルロについていくのだと思いますね。
ー カルロさんは“ミスター ストーンアイランド”と称されますが、ストーンアイランドの魅力をどう考えていますか。
カルロ 唯一無二である、ということだと思います。美しい世界、楽しい世界というのは、多様性があるからこそ成り立つのだと思います。全てが同じでモノトーンの世界だとつまらないですからね。みんなが違ってこそ個性が際立ちますし、ストーンアイランドはまさにそういう差別化ができている。
私の家系は羊毛メーカーを経営していて、私は7代目でした。羊毛を取り扱う仕事で、服飾に携わる世界にファミリーとしてずっといたので、私は生まれながらに衣類の繊維に触れてきました。そしていつしか、繊維を染色することに興味が出てきたのです。そのバックボーンがストーンアイランドの今に繋がっています。ものを染める、布を染めるというのは、一見平たいものを染めるように思えますが、実は立体的な世界の話なんです。染料が素材に染み込んでいく時間や、染料と素材の化学反応など、その組み合わせは無限のようにあります。その仕組みを研究することが楽しいんです。車のボディを塗る染料からデザインの領域まで、ありとあらゆるジャンルをリサーチして染色のアイディアを日々考えています。
アーカイブ本 『STORIA: UPDATED』は、ストーンアイランドの歴史だけでなく、カルロ・リヴェッティの伝記のようにすら思える。最後のカルロの言葉から、ストーンアイランドの歴史はこれからも進化し続けていくことが確信できた。「新しいプロダクトのサンプルを作ると、最初は私自身が着て過ごし、クオリティをテストします。気温に合わせて色が変化するプロダクトを作ったときは、その服を着て一冬を山の別荘で過ごしました。冬の寒さで色がどう変化していくかを身をもって観察したのです。新しい実験サンプルができあがると、「カルロ、着てみませんか」とスタッフに言われるようになったので、喜んで着て楽しんでいます。
昔は毎日スーツを着て過ごしていた時期もあるのですが、自分がスーツに合わせているような窮屈さを今思えば感じます。現在は朝も夜も毎日ストーンアイランドを着ているのですが、とにかく楽ですね。着心地の良さや身体へ馴染んでくる感覚、機能性など、ストーンアイランドに包まれていることが本当に幸せです。これからも素材の研究と実験を続け、ストーンアイランドのDNAを守りながら進化していきます」。
Photo Ibuki | Interview & Text Yutaro Okamoto |