Car with Style by Fumio Ogawa Aston Martin DB5
ストーリーを持った スタイルある車
「ストーリーを持ったスタイルある車」と題し、人と車に焦点を当て、スタイルを解き明かす本企画。すぐに着替えることのできる洋服と違い、車はすぐにアップデートができない。そこにはよりその人らしさが見えてくるのではないだろうか。歴史的な偉人たちと彼らの愛車の関係を、ライター・小川フミオとイラストから紐解いていく。

よく話題になるのが、ジェン・ズィーアーズのファッションだ。1990年代後半から2010年代に生まれた世代のことで、英語だとGen Zers。Z世代ともいう。
このひとたちの着こなしの特徴について、「いままで服を着たことがないようなかんじ」と、2026年夏に「ザ・ニューヨークタイムズ」は記事で書いている。すごい言われよう。おもしろいのは、そんな彼らが、時としてオーセンティックなアイテムに手を出すということだ。
たとえば、革製のドレスシューズが必要になったら、パラブーツとかドクターマーチンでなく、いきなりジョンロブを買ったりするそうだ。そんな話をこのあいだ聞いた。
ジョンロブは、1849年創業で、1900年代初頭にはパリ支店を開業している。76年にパリの事業はエルメスに買収され、日本でジョンロブというと、後者を指すことが多い。
英国の本家ジョンロブ(John Lobb Ltd.)のドレスシューズといえば、ショーン・コネリー扮するジェイムズ・ボンドが「007/ダイヤモンドは永遠に」(1971年)でも履いていた。このときは、ロンドンのセントジェイムズ・ストリートのビスポーク部門が担当したと、米国のボンドマニアの著述家マット・スペイサーが著書「From Tailor With Love: An Evolution Of Menswear Through the Bond Films」(2021年刊)で書いている。
この本のなかで興味ぶかかったのは、 「ボンドのファッションの原則は、彼がトラディショナルでありつつ、それでいて時代遅れでないこと」(訳・筆者)という記述。
映画中で、靴の見せ場がないのが残念なのだけれど、ボンドはどんなところでも、サヴィルロウ仕立てのスーツとジョンロブのシューズで飛び込んでいくので、観ているほうが“もったいない”とハラハラするぐらいだった。
ボンドとジョンロブの関係が独特なのは、さらにそこにアストンマーティンが加わるからだ。
ボンドビークルとしてもっとも有名なアストンマーティンDB5(1963-65年)は、4リッター6気筒エンジンを搭載のスポーツカーで、フェラーリやマセラティの競合だった。この時代のスポーツカーの特徴として、あげられるのは、運転のしにくさ(笑)。フットウェル(ペダルが並んでいるところ)が狭く、さらにめちゃくちゃブレーキが効かない。なので、アッパーもソールも柔軟性にやや乏しいジョンロブは相性がいまひとつよろしくない。でもだからこそ、アストンマーティンからジョンロブを履いて降りてくる姿は、とてもスタイリッシュなのだ。
プライベートでも生涯DB5を愛したというショーン・コネリー。『ダイヤモンドは永遠に』のために「たくさん製作した」とされるジョンロブのシューズも彼のひとつのワードローブに収まっていたかは定かでない。ダンディズムを映画を通して体得したというコネリーだけに、きっとジョンロブのビスポークシューズを愛用したのではないか。そう想像するとたのしい。
小川フミオ
グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を経て、現在はフリーランスのジャーナリストとして活躍中。雑誌やウェブなど寄稿媒体多数。
| Text Fumio Ogawa | Illustration Kazuma Mikami | Edit Samuel Pattison |












