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Living with Sound
Toshiya Kawasaki Owner of STUDIO MULE

気持ちいい音と
毎日を共にする

音楽は私たちの生活を彩る大切な要素だ。楽しい時や嬉しい時、悲しい時や辛い時。音楽は誰にでも平等で、聴いているだけで気分を高めてくれたり、和ませてくれる。だからこそ自分にとって“良い”音を日々の生活のそばに置くことで、私達のライフスタイルは今よりももっと豊かになることは間違いない。それはこだわり抜いたオーディオから、あるいは音楽を楽しむために作られた特別な空間から聴く音かもしれない。無数にある選択肢の中から、自分なりの“良い”音を日常の中に見出すヒントを探っていく。

Living with Sound
Toshiya Kawasaki Owner of STUDIO MULE

気持ちいい音と
毎日を共にする

音楽は私たちの生活を彩る大切な要素だ。楽しい時や嬉しい時、悲しい時や辛い時。音楽は誰にでも平等で、聴いているだけで気分を高めてくれたり、和ませてくれる。だからこそ自分にとって“良い”音を日々の生活のそばに置くことで、私達のライフスタイルは今よりももっと豊かになることは間違いない。それはこだわり抜いたオーディオから、あるいは音楽を楽しむために作られた特別な空間から聴く音かもしれない。無数にある選択肢の中から、自分なりの“良い”音を日常の中に見出すヒントを探っていく。

当時の空気感を含んだ音を 空間とともに体感してほしい
河崎俊哉
オーディオ、音源、空間、ワイン全てにおいて高水準を目指して

 
今年の8月に渋谷神山町にオープンしたミュージックバー、スタジオ・ミュール。オーナーを務める河崎俊哉は、今年で16年目となるヨーロッパを拠点とするMULE MUSIQというレーベルを運営する傍ら、人々が日常の中でより身近に音楽を楽しめる空間を持ちたいというかねてからの構想によってSTUDIO MULEをオープンさせた。
 
「自分の中では音楽と同じくらい食べることやワインが好きなので、それと音楽を絡めたことをやりたいなという構想はずっと持っていました。自身のレーベルでは、テクノやハウス、ダンスミュージックなどを多く取り扱っています。常日頃からそういったジャンルの音楽を聴いたり考えているので、お客さんにもそういった音楽に触れてもらえるような場所を作りたかったんです。ワインやレコードって、いざお店を始めるとなってからは良いものを揃えることが出来ないので、10年以上前から少しずつ準備はしていました。ワインに至ってはショーケースの中にあるものは全て手に入りにくいものになっています。ヴィンテージということや人気の醸造家さんだったり、分類で言うとナチュールワインが100%です。音源もワインも厳密に精査しているので、クオリティの高いものを揃えている自信があります」。
 
洗練された空間と選りすぐりのナチュールワインとともに嗜む良質な音楽は瞬く間に人々を心を捉え、STUDIO MULEは毎夜様々な職種の人々が集う渋谷の新たなナイトスポットとなった。店を訪れた際に人々がまず目にするのは、ブラジル産の御影石を削り出した重厚感のあるバーカウンター、そして配線類が何一つ見えない洗練された什器類だろう。壁に埋めるような形で配置されているスピーカーも、まるで壁と一体化したように空間に溶け込んでいる。そんな統一された店舗の空間を手掛けたのは、オーナー河崎の兼ねてからの友人でもあるという、空間・プロダクトデザイナーの二俣公一だ。オーディオとレコードが見事に調和する空間は、両者の美学が反映されている。
 
「店の空間を構築していく際に特に気を付けたことは、何かひとつに特化している空間ではなくて、全てがハイスタンダードかつタイムレスな空間づくりという点です。置いてあるオーディオもきちんと吟味されていて、揃っているレコードもいわゆる普通のミュージックバーにはないモノが中心。飲物も本当に良いワインのみ。空間も無駄な部分を削ぎ落としミニマルに構築していく。店舗のコンセプトやワインの仕入れなどを含めかれこれ10年以上プランしてきた店舗になるので、小さなお店ではありますが、本当に自分の中では可能な限り100点を目指した空間になっています。何が一番というわけではなくて、トータルで居心地が良いと感じることができるハイスタンダードな空間ですね」。
 
そんな上質で居心地の良い空間では、70-80年代後半にリリースされた約5000枚ものレコードを、音源と同年代に生産されたオーディオ類で楽しむことができる。
 
「ダンスミュージックの世界で、デビッド・マンキューソという著名なDJがいます。彼が生前よく使用していた音響のセットアップは業界ではすごく有名なのですが、この店舗は彼の音響システムを参考にしている部分が多いです。クリプシュのスピーカーやトーレンスのプレーヤーなど、70年代から80年代に生産されたものをセレクトしています。音源とオーディオの年代を揃えている最大の理由は、その時代の空気感というか、その時代のありのままの音を楽しんでもらいたいからです。中にはマスキングされた解像度の高い音が好きな方もいるとは思うんですけど、僕はあまりそういう音が好きではない。聴きながら当時に想いを馳せたり、耳で聴くだけでは終わらない特別な感覚を味わうことができるんですよね。この年代だとまだ世の中には音源の媒体がレコードしかなかったはずなので、当然その年代に作られたオーディオは、レコードを聴くように作られている。今では当時の音源でもCDやカセットなど様々に聞く手段がありますが、それだとやはり何かが違ってくる。とても繊細な部分ではありますが、自分が音楽を楽しむ上でも大切にしている価値観です」。

店舗の空間を形作る什器は、既製品はなく全てオリジナルで製作したもの。バーカウンターに配置されている椅子も特注して製作したもので、自身のレーベル名である「MULEMUSIQ」の頭文字であるMを模したデザインとなっている。

 
 

現行品には出せない
ヴィンテージ独自の魅力

 
パッケージで丸ごと楽しむ当時の空気感を反映した音。店に備わっているオーディオは、生産年代的にいわゆるヴィンテージと呼ばれる部類のものになるが、河崎が考えるヴィンテージオーディオの魅力とはどんなことなのだろうか。
 
「ヴィンテージオーディオは個体によって絶妙に音質などに違いがある。店に置いてあるものはどれも70-80年代頃に作られていたものなので、当時の技術水準的に同じ製品でも微妙に個体差があるんですよね。なおかつ生産されてからすでに半世紀近くもの時を経てきているわけですから、そもそもの個体数も少なくなってきています。ヴィンテージオーディオに魅力を感じる部分はもちろん音が大部分を占めていますが、見た目も重要です。お店で導入しているクリプシュやトーレンスは、とても歴史あるブランドで今も変わらずオーディオを作り続けていますが、やっぱり当時作られていたものと現行のものでは同じような加工をしていても綺麗すぎる印象を受けてしまう。これは完全に好みの問題ですが、このお店は音源とオーディオの時代の整合性を特に意識しているので、そこの部分はとても大切にしています。そいういった点を考えると、ヴィンテージの洋服と似たような感覚がありますね。今でも多くの歴史あるブランドがヴィンテージの復刻モデルをリリースしていますが、実際に当時に生産され今まで時を経てきたものと比べるとやっぱり雰囲気が違う。例えばリーバイスのデニムでも歴史の中で時を経てきた色落ちは、加工では再現出来ないじゃないですか。それと同じです。その時代にしか出せない雰囲気っていうのはすごく魅力的ですよね。オーディオにも時を経てきたからこそ出る質感だったり音質が必ずあると思っています。そこが現代の精密に作られるオーディオには出せない魅力ですね。その個性が好きか嫌いかは人によって違うと思いますけど」。
 
河崎の絶対的な価値観によってセレクトされたオーディオ類。ここまでこだわっていれば、当然オーディオを主役にした店内のレイアウトに落とし込みたくなる。しかしSTUDIO MULEのコンセプトは、あくまでトータルでハイスタンダードな空間。どれが特筆して良いかどうかではなく、店に立つ河崎自身とお客さんの双方が良い音と空間を楽しむことのできる居心地の良い場所を目指す。
 
「例えばこのクリプシュのスピーカーは実はスピーカーを支える足が付属しています。普通のお店であれば、こだわりのスピーカーの全てを見せたいという感覚になると思うんです。でも僕は全くそういうのに興味がなくて、見えないように全て覆ってしまっています。スピーカーの下に天板で余った大理石をハウリング防止の目的でひいていて、さらにその上に硬い木のインシュレーターという吸音材を四隅に置いてスピーカーを置いているのですが、それが見えてしまうと空間全体のバランスが崩れてしまう。あくまで空間もトータルパッケージのなので見えないよう工夫しているんです。スピーカーの周りの余白も全部7mmで統一しているくらいですから(笑)。プリアンプやパワーアンプもお客さんの目線からは一切見えない位置に収納していますし、配線一個も見えない仕様にしています。そこはすごくこだわりましたね。無駄な要素を省くというか、純粋に音と空間を楽しめるような工夫を凝らしました。でもあまりに要素を省きすぎると殺風景になってしまうので、あえてハードリカーのボトルとかグラスだったりを見えるような位置においてバランスをとっているんです。お店の個性というか、ここがバーであるということをわかってもらえるような役割ですよね」。
 
人々が過ごす毎日の中で、お店に訪れる数時間。その短い時間の中で最大限に気持ち良く音楽を楽しんでもらいたいからこそ、音源・音響だけでなく空間も含めた全体のバランスにも妥協を許さないのだ。無駄を削ぎ落としたミニマルかつタイムレスな空間の中で、極上のワインに酔いしれながら体感する70-80年代の空気感を伝える音の数々。オーディオを所有することとはまた違う、実際に行くことでしか目にし耳にすることのできない音と空間の調和を体感、良い音を側に置きいつものライフスタイルを彩ってみてはいかがだろうか。

Player thorens td124 1970s
1883年にスイスで創業された音響メーカーのトーレンス。最初期はオルゴールの生産メーカーとしてキャリアをスタートさせたが、1957年に最初のレコードプレーヤーであるTD124を発売して以来、現在まで音響機器メーカーとして不動の地位を築いている。こちらのTD124は70年代初期に生産されたもの。EMT、ガラードなど歴史ある音響機器メーカーのプレーヤーと並び、世界中の愛好家から根強い人気を誇る型だ。

Speaker klipsch cornwall 1970s
1946年にアメリカで創業したクリプシュ。店舗のオーディオの参考にもしている伝説的DJのデビッド・マンキューソが好んで使用していたのは、同メーカーのクリプシュホーンと呼ばれる成人男性の背丈ほどの大きさもあるスピーカーだが、こちらはその技術を応用しサイズを小さく再構成したコーンウォールと呼ばれるモデル。生々しいライブ感のある音圧が特徴だ。今年の5月にはコーンウォールの第4世代となる「CORNWALL IV」が発売されるなど、当時の技術は進化を遂げながら今に受け継がれている。

Preamp & Power Amp
mark levinson ml-1 / Preamplifier
mark levinson no.27 / Amprlifier
both 1980s
1972年にアメリカで創業したマークレビンソンのプリアンプとパワーアンプを使用。高い再現能力と現場の空気感を伝えるような音質が特徴で、時代の空気感を重視するSTUDIO MULEのセットアップには最適と言える。70年代の初期のプリアンプは、まだ電源が内蔵型ではなく別駆動となっている。ハイエンド・オーディオという解像度の高い音質が特徴の新しいジャンルを確立したブランドとしても知られ、現在でも多くのファンを持つ。


STUDIO MULE
住所 東京都渋谷区神山町16-4
営業時間 20:00 – 24:00
定休日 土日祝
@studiomule_musicanddrinks
 
 
 

Photo Naoto Usami Interview & Text Shohei Kawamura

 

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