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Only in Hiroshima

ただそこにいるだけでいい
谷尻誠が薦める広島

Only in Hiroshima

ただそこにいるだけでいい
谷尻誠が薦める広島

ONOMICHI [Onomichi]
 
しまなみ海道の玄関口
尾道だからこその複合施設
オノミチ ユーツー


 
建築家、谷尻誠。広島県出身の彼は活動の幅を全国に広げ、日々多数のプロジェクトを抱えながら各地を飛び回っている。仕事のほとんどを東京で行う谷尻だが、今でも広島との2拠点生活をずっと続けている。「働く人はみんな多忙な日常を送っているからこそ、ぼーっと過ごすだけの時間が必要なんです(谷尻)」。そこでこの企画では、一度立ち止まり、自分を見つめ直す時間を過ごせる広島の場所を教えてもらった。
 
 

懐かしさと新鮮さ
海運倉庫を改装した空間

 
島と里山と町の要素がぎゅっと集まり、どこか懐かしく感じられる町の空気感から「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」として日本遺産認定もされている広島県尾道市。文豪・志賀直哉はこの地に移り住んで代表作『暗夜行路』を執筆し、世界に誇る映画界の巨匠・小津安二郎は代表作『東京物語』のロケ地とするなど、日本の名作の発祥地として多くの人々を魅了してきた。そんな尾道は昔から造船業が盛え、本土と瀬戸内海の島々を結ぶ港町としての顔ももつ。その地域性を捉えつつ、新たな尾道のスポットして注目を集めるのが、谷尻誠と吉田愛が率いるSUPPOSE DESIGN OFFICEが手がけた「ONOMICHI U2」だ。
 
「ONOMICHI U2は戦時中に建てられた海運倉庫をリノベーションした複合施設です。普通だと外観も含め全てを作り変えると思います。でもそうやって綺麗にしてしまうと、過去や歴史が消えてしまう気がして。だから既存の倉庫には手を加えず、その大枠の中にレストランやショップ、路地を作り込んで小さな尾道の町並みのような施設をイメージしました。地元の人には見慣れた外観だけど、中に入ると新しい世界が広がっている。新旧の対比構造が生まれて、懐かしさと新鮮さを一度に体験ができる空間を目指しました(谷尻)」。
 
様々な商業施設が入った複合施設は日本各地にあり、地元の人が買い物に出かける場として重要だ。しかし観光客はわざわざ足を運ばなくても、という場所が少なくない。だがこのONOMICHI U2は、地元の人はもちろん、観光客こそ足を運びたくなる場所として町を盛り上げている。それはこの建築だけに限った話ではない。例えばレストランでは瀬戸内海で取れる新鮮な食材を炭火でグリルした料理が味わえるし、ショップでは瀬戸内海での生活を豊かにするアイテムや特産品が並んでいる。全てONOMICHI U2のスタッフ自身がアイディアを出して運営するオリジナルショップばかりで、一切テナント貸しをせずにこの小さな町は成り立っている。広島県尾道市という場所にある必然性を徹底的に追求している空間 作りには、地域活性のヒントを求めて全国 各地から視察に訪れる人も多いようだ。
 
 

自転車ごと泊まれるホテル

 
地の利を生かした施設として注目される最大の理由は、日本初の自転車を持ち込んだまま宿泊でき「HOTEL CYCLE」にある。なぜなら、“海を渡れるサイクリングロード”として広島県尾道市と愛媛県今治市を繋ぐしまなみ海道の本州側の玄関口に位置するからだ。自転車に乗り、瀬戸内海の海や島々をしまなみ海道を通って走り抜ける体験を求めて日本各地だけでなく、世界中からも多くの人が集まってくる。そのベースとしての役割をHOTEL CYCLEは果たしているのだ。谷尻自身も広島出身かつ自転車乗りであったことから、この建築プロジェクトに抜擢されたという経緯もあるこの場所。尾道だからこそのストーリーに溢れた施設や体験があるからこそ、時間をかけてでも行きたいと思わせられる。

HOTEL CYCLEの客室。部屋の中に自転車を持ち込み、そのまま壁に掛けておくことができる。しまなみ海道を渡る多くのサイクリストがこの宿で体力を回復させるのだ。もちろんサイクリスト以外の宿泊者も多く、尾道や広島県内の観光へ出かける拠点としても便利な立地にある。

剥き出しの鉄骨やコンクリートの屋根から、元は倉庫だったことが改めて見てとれる。リノベーションコンセプトとしては、「鉄(尾道の造船産業の象徴)、モルタル(尾道の山の手には巨石が点在することによる石のイメージ)、木(日本家屋の歴史的資材)」の三種類の素材をメインに使用している。

建物の外側には、尾道水道や対岸の島々を一望できるデッキスペースが設けられている。「カフェでコーヒーでも買って、ぼーっと景色を眺めるだけで良いんです。そうやって一度立ち止まり、自分を見つめ直す時間を過ごすことで気づくことがあるはずです」と谷尻は話す。

 
広島県尾道市西御所町5-11
0848-21-0550
@onomichi_u2
 
 

LOG [Onomichi]
 
建物を育て、
人の感受性が育つ場所
ログ



 
 

インドの建築集団
スタジオ・ムンバイとの出会い

 
尾道の千光寺へと続く100段の石階段を上がり、息を切らせながらも徒歩でしか辿り着くことのできない小高い山の中腹。その場所に門を構えるのがLOGだ。元々は昭和30年代に建てられ、新婚夫婦が憧れるアパートとして尾道で知られていた。そんな地元住民の生活の記憶が残る建物にインドの建築集団スタジオ・ムンバイが新たな命を吹き込んだ。
 
そもそもなぜインドのスタジオ・ムンバイが広島県尾道市でのプロジェクトに参加することになったのか。「街の中にどう建築を存在させるか。そして建物をどう持続再生させるか」というスタジオ・ムンバイの建築哲学は世界的に高い支持を集めており、同スタジオを率いるビジョイ・ジェイン氏の話を聞いてみたい、という若手スタッフの想いから始まった。ビジョイ氏とやり取りを進めていく中で、「ホテルを含めた複合施設を作り、この歴史あるアパートを再生させる」という目的でLOGのプロジェクトに参加してもらうことになったのだ。
 
 

時とともに育つ建築

 
”50年、100年を見据えた建築”としてLOGはスタートした。今はまだ生まれたてのような状態で、時間の経過と共にメンテナンスや工事を繰り返して建物が育っていく。例えば壁の塗料は、顔料と土に漆喰を混ぜ合わせたもの。100種類以上のカラーサンプルを試作し、光の変化による色味を何度も確かめている。経年による色の変化や建物の風化も考えられたデザインの一部。そうやって自然に朽ちていくことさえも美学とする価値観は、現代の大量生産、大量消費社会において学ぶべきものがある。客室には日本の伝統的な手漉きの和紙を用いた障子を使い、床や壁には和紙を貼り付けることで柔らかい光を演出。まるで繭に包まれたかのような空間になり、和紙を補修しながら丁寧に運営している(。和紙の部屋を手がけた作家ハタノワタルは、本誌P12-P13に掲載の工芸作品も制作している。和紙という素材の可能性をぜひ見比べてほしい)。
 
このLOGの空間にいることで、「育つ、育てる」ということに対する感受性が豊かになっていくのだ。ビジョイ氏は、「光」「風」「水」「大地」を大切な要素として考えている。現在は「水」の要素をLOGにさらに加えるべく、開放的に水に触れられる浴場を庭に設ける計画が進行中だという。数十年先を見据えたプロジェクトだからこそ、まずこれからの数年で何をすべきか。その一つ一つの課題を、ビジョイ氏とLOGのスタッフ、建設作業に関わる職人たち全員で話し合ってLOGを育てていっている。



 
 

感受性が育つ場所

 
LOGには徒歩でしか行けないため、100段ある石段を人力で建築資材を持って往復するなど作業は難航した。そのため荷物の運搬をできるだけ減らせるようにと、建設作業中に出てきた瓦は庭に敷いて利用するなどのアイディアが詰まっている。料理で使うハーブは庭で育て、地元の旬の食材を必要な分だけ仕入れ余すことなく使うよう工夫も凝らす。できるだけゴミを出さず、無駄なものを省きながら過ごすことを訪れる人に体験してもらうこともLOGが大切にしていることの一つだ。
 
「LOGを訪れる人の多くが、光や影、木々の揺らめきの写真を撮るんです」とスタッフの人が教えてくれた。確かに言われてみると、開放的な作りの建物にはさまざまな角度から光が差し込み、山の傾斜地という立地のせいか気持ちのいい風が常に吹き抜けている。そしてその風に乗ってくる鳥のさえずりや尾道の町の音、渡船の汽笛や電車の音が心地のいいBGMとしてLOGの空間を響かせる。日常では見落としがちな何気ない瞬間にじっくりと向き合い、昼はオリジナルブレンドのコーヒーや広島県産のレモンを使ったレモネードを、夜にはバーで広島県産原料を使った純国産クラフトジンなどのお酒を嗜む。特に何かをする必要はなく、ただただこの空間と時間を味わう。それがLOGの醍醐味ではないだろうか。
 
天気や季節によって建物の表情が変わるだけでなく、数年単位で建物そのものが育ち、変化していく。だからこそ何度でもLOGを訪れ、その時々で新たな体験ができると期待に胸を躍らせられる「。本来建物って硬質ですけど、LOGはとても柔らかいんです。日本に昔からある伝統工芸を用いて、自然なものを自然に使い、この場所にある意味を突き詰めた結果として美しいものになっている。これからいろんなものを作っていく上での指標になるプロジェクトだと思います(谷尻)」。




 
 
広島県尾道市東土堂町11-12
0848-24-6669
@log_onomichi
 

Iwaso [Miyajima]
 
国立公園内に佇む、1854年創業の老舗
みやじまの宿 岩惣




 
 
広島市内から南西に約17km、対岸からフェリーに乗って瀬戸内海を渡った先にあるのが宮島だ。古くから島そのものが神として崇められ、まるで海に浮かんでいるかのような厳島神社は世界遺産に登録されている。ここでしか見ることのできないその美しい景観は「安芸の宮島」と称され、日本三景の一つとして数えられている。歴史的にも文化的にも高い価値を誇り、日本全国だけでなく世界中からも訪れる人が絶えない神秘的な宮島。実は日本で初めて登録された国立公園である瀬戸内海国立公園の一部でもある。今なお原生林など豊かな自然が残され、その中のもみじ谷と呼ばれるエリアの一角にあるのが今回の宿、岩惣(いわそう)だ。
 
「広島県のわざわざ行きたい場所」として建築家の谷尻誠に紹介してもらった三箇所目の岩惣。先に紹介したONOMICHI U2やLOGとは打って変わり、ここは170年近くの歴史を誇る老舗。その魅力を谷尻はこう話す。「とにかく美しいです。丁寧に作り、丁寧に使ってきたからこそ今も残っているわけですし、その積み重ねで歴史的な旅館となっているわけです。お寺や神社が長く残っているのは、手間暇をかけて丁寧に扱っているからですよね。それと同じことなんです。古いから価値があるのではなくて、古いものを丁寧に扱い残していることに価値がある。古くてダメになるものと、美しくなるものの違いはそこにあるのだと思います。安かろう早かろうがますます求められてしまっている現代だからこそ、岩惣の在り方を誰もが見習わないといけないのではないでしょうか」。



 
 

最上級の日本文化を体感する

 
明治時代に建てられた玄関母屋を抜け館内に入ると、そこには歴史に洗練された清々しい空気が漂っている。ロビーには伊藤博文が宿泊した際に使用した机が変わらず置かれ、隣にマルセル・ブロイヤーのワシリー・チェアを組み合わせるモダンな妙が光る(写真左下)。館内を進むと、過去に宿泊した歴代の皇族や首相のモノクロ写真が壁にかけられ、歴史と共に歩んできた岩惣の重厚さを改めて感じさせられる。
 
池波正太郎や白州正子、オノ・ヨーコをはじめとした文化人や芸術家も多く訪れており、現代美術家のリ・ウファンに関しては、彼の作品を館内で誰でも目にできるよう展示されているという驚きと贅沢もある。そして岩惣では、宮島では珍しい天然温泉に入ることもできる。なんでも先々代の女将が「ここの水は肌がツヤツヤになる」と話していたことをきっかけに調べてみると、ラドンを豊富に含む温泉と判明したのだという。ラドンを含む湯は美肌効果があるのだが、ここではそれを国立公園の自然に囲まれた露天風呂として楽しむことができる。温泉からの眺めには野生の鹿が歩いて通ることも多く、大自然を満喫できるこの上ない解放感ある名湯だ。
 
窓一面に広がる四季の移ろい現在の客室は、本館、新館、離れに設けられている。中でも5棟ある離れ(現在4棟のみ宿泊可)は、大正から昭和にかけて作られた平家建てを1室1棟で案内するという特別な部屋。欄間(らんま)や火灯窓(かとうまど)、独特の歪みが魅力の手延べガラスの窓など、日本の伝統的な職人技の美しさを存分に味わえる。撮影で訪ねた時には紅葉が色づきかけており、その赤い姿が丁寧に磨かれた机に反射する光景はとても貴重だと7代目女将が教えてくれた。春には山桜が咲き、夏には新緑が生い茂る。国立公園の四季折々の変化と小川のせせらぎが都会の喧騒を忘れさせてくれる唯一無二の空間だ。
 
宮島には日帰りで訪れる人が多いが、夜の宮島や厳島神社の美しさもまた格別だと名高い。そのときには岩惣に宿泊して最上級の日本文化を体感し、物事を丁寧に扱うという和の心を学びたい。そうして日本の文化の魅力を改めて知り、未来へと継承するきっかけや人が増えることでまた歴史が積み重なっていくのだ。

 
 
広島県廿日市市宮島町もみじ谷
0829-44-2233
 

Hiroshima’s Local Dishes
谷尻誠おすすめの広島ご当地グルメ

 
旅行の醍醐味の一つといえば、その土地の名物を食べること。遠方から来る人を案内することが多いと話す谷尻自身も、「美味しいものを食べてほしい」という思いが強くあるようだ。そんな彼がおすすめする名店をいくつか教えてもらった。関西圏では外すことのできない粉物文化。B級グルメとして広島市内でも数多の店がしのぎを削る中で、「過去最高に美味しいお好み焼き屋さん」と谷尻を唸らせるのが「はぜや」だ。広島と東京の二拠点生活を送る谷尻だが、時間があれば必ずここを訪れ、「そば、肉、卵、イカ天」の組み合わせを注文するという。
 
季節によって水分量の違う野菜の焼き方を変えて中までしっかり火を通し、細めの生麺を合わせるのが店のこだわり。広島のオフィス街にあるため、日中には仕事でお腹を空かせた多くの人が集まり、夜にはビールのアテを求めた人たちでさらに盛り上がる地元色の強い名店だ。

 
はぜや
広島県広島市中区大手町 3-3-17
082-242-5080
 
 
そのままハシゴして訪れたい2軒目は、広島が生産量日本一を誇るレモンと牡蠣をメインに扱う「レモンスタンドヒロシマ」だ。自家製の割材とシロップを配合したレモンサワーが看板メニューで、レモンは全て無農薬。レモンサワーだけでも7種類ものレパートリーがあるが、まずは一番人気のスーパーレモンサワーから飲んでみてほしい。勇気があれば、1杯1万円のゴッドレモンサワーに挑戦することも思い出になるはずだ。
 
牡蠣は育てた年月の違いで食べ比べをする楽しみ方ができる。写真右が育てて半年、写真左が3年選手だ。半年だと産卵を一度もしていないため、味が凝縮されてクリーミーに。3年育てると産卵を何度も繰り返し、深い味わいや歯ごたえが出てくるのだ。他にも特製のカカオビネガーを使ったジンソーダや、ジビエソーセージに特製カレーなどこだわりが詰まった料理が揃う。
 
県内はもちろん、噂を聞きつけた県外のお客さんも多く足を運び、人の交流が盛り上がるオープンな店の雰囲気も味わいたい。今回訪れることはできなかったが、先のページで紹介したみやじまの宿・岩惣へ向かうフェリー乗り場の近くにある「あなごめしうえの」も谷尻のおすすめ。この店であなご弁当を買ってフェリーに乗り、宮島の千畳閣の近くで食べることが通なやり方なのだ。和食だと、広島市内にある「華ぶさ」もぜひ訪れたい。広島近辺で取れる極上の牡蠣や小イワシ、夜泣貝などの海鮮を味わうことができる。
 
谷尻が華ぶさを深く愛する理由としては、お酒をとても手頃な値段で飲むことができることにもある。それは、「料理屋だから料理で利益を取る。お酒は自分達で作ったものではないから、原価に近い値段で提供する」という店の心意気から。「そんなこと言われたら大好きになっちゃいますよね。街からちょっと離れた場所にあるんですけど、そのスタンスも含めて素敵です(谷尻)」。料理はもちろん、店員や店の雰囲気も味わいたい広島の名店ぜひを訪れてほしい。

 
LEMON STAND HIROSHIMA
広島県広島市中区袋町2-17 1F
090-2860-8868
@lemon.stand.hiroshima
 
 
 

Select Makoto Tanijiri Photo Yusuke Abe Interview & Text Yutaro Okamoto

 

This article is included in

Silver N°14 Winter 2021-22

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