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Food for Thought
Selected by Kei Murayama

Food for Thought
Selected by Kei Murayama

時間と手間をかけても
訪れる自分自身を整える
飲食店

人生には自分を整える時間が必要だ。慌ただしく過ぎていく毎日でも、時には立ち止まり自分自身を見つめ直すことで見えてくる何かがきっとある。そんな自分の心を整える特別な時間は、豊かな人生を送るためにはなくてはならない要素だ。時間と手間をかけてもわざわざ訪れてみたい飲食店は、そんな毎日の狭間に特別な時間や彩りを与えてくれる場所ではないだろうか。
 
ここではそんな観点から、魅力的な飲食店を数多く知る村山圭(空間ディレクター/デザイナー)に全国から厳選した場所を紹介してもらった。お店を出る時には気持ちが前を向くような、心のギアチェンジとなる飲食店のヒントが見えてくるはずだ。

Maruta
[Jindaiji, Tokyo]
施設全体を“味わう”
ラボ的な体験型レストラン
マルタ

お店でのメインの調理場となる暖炉。薪で薫く炎によって食材たちは豊かな香りを纏う。

 
「最寄駅の三鷹・調布からバス・タクシーで15-20分かかる立地で、一軒家のような佇まいで営業されている深大寺のレストランがマルタです。周りにはお寺や植物園以外、これといってスポットがないような立地なので、マルタへはまさしくここだけを目指して来ることになります。そのためここでしか体験できないコト、食べられないモノといったコンセプトはすごく考えられているお店なんです。ディナータイムは夕暮れと共にオープンするのですが到着すると裏庭へと案内され、焚き火にあたりながら自家製のお茶を飲みウェイティングをします。
 
体と心が暖まった頃に店内へと移り、こだわり抜かれた食材を薪の火で調理されたコースを堪能できるんです。シェフが丁寧に仕立てた料理の質も高く、食材には自然派でピュアなものしか使っていないのも特徴ですね。”ファームから直接食卓に”というコンセプトの下、例えば裏庭で採れた野菜や、庭に生えている果樹で一品仕立てたり、ハーブティーやクラフト酒として楽しむこともできます。
 
『通常だと食材にならない野草のこの香りがいいなという部分だけをどうしたら抽出できるだろう』とか、『枝でもそのままだったら香らないけど、燃やしてみて煙になったら面白い香りがするから燻製に使ってみよう』とか、ラボ的な実験からメニューが産まれるんですよね。まるでマルタの敷地全体で体験や料理も含め、エコシステムが形成されているような面白い感覚があります。この地産地消がお店の最大の魅力であり、東京という場所にいながらも旅に来たかのような、ここでしか得ることができない経験とともに、食への探求が芽生えてくるかもしれません」。

日没後オープンを迎えるMaruta。お店では不定期にパワーオフイベントと称し、照明類などの電気機器も一切使用せずに薪の火で調理した料理をキャンドルの灯りの下で食すという実験的な試みも行なっている。




 
東京都調布市深大寺北町 1-20-1
042-444-3511
@restaurant_maruta
 

Daidoko Yaburegasa
[Tajimi, Gifu]
自然な会話から生まれる
居酒屋本来の楽しみ方
だいどこ やぶれ傘


 
「岐阜県の多治見といえば、美濃焼の窯が各所にあり陶芸が盛んな町としてご存知の方も多いと思います。
その多治見にある、個人的に全国でも一番好きと言っても過言ではない居酒屋が、だいどこやぶれ傘です。酒屋に居座ることで生まれたというのが居酒屋の由来ですが、まさにこのお店はそれを体現しているんです。店内のカウンターには魚、肉、野菜と色とりどりの食材やおばんざいが広がっていて、食べたい食材と希望の調理法を相談すると女将さんがうまく調理をしてくれます。お店にメニューがないことで自然と会話が生まれたり、カウンターに広がるさまざまな料理を眺めたりと、一緒にカウンターを囲むお客さんとコミュニケーションが自然と生まれてくるお店。
 
多治見の陶芸家や、ギャラリストなどに出くわすことも多く、気が付くといつも日本酒をたくさん飲んでしまっています(笑)。地元の食材をふんだんに使った料理や地酒が盛り付けられるのはもちろん多治見で作られた器です。常連の方にママと慕われる女将さんは、多治見で陶器を作る若いアーティストを育てたいと、積極的に作品を買ってお店で使用するなど、とても地元の文化を大切にされている方なんですよね。入口の小さな扉をあけ、その先に待ち受ける体験の豊かさは一度経験すると忘れられないです。一泊延泊してでも訪ねたい。時が経つとまた帰って来たい。そう思える数少ない場所のひとつですね」。

カウンターにはつい目移りをしてしまう程に色とりどりの食材が並ぶ。地元の食材を中心に丁寧に作られた小鉢の数々は、珍しい『ながらみ』という貝を使った逸品から漬物、煮物まで豊富な品数を楽しむことができる。岐阜県中津川市の酒造で作られた地酒を美濃焼の陶器でできた升で楽しむことができるのも多治見ならではの体験。

 
岐阜県多治見市本町 2-43-3
0572-23-7408
 

belk
[Kurashiki, Okayama]
カフェでの体験を引き上げる
圧倒的なランドスケープ
ベルク

小高い山の上に位置するbelk。カフェからは時間を問わず美しい景色が顔を覗かせる。丘の上のテラス席はイベント時など特別な時にしか案内していないが、店内から見える景色でも十分すぎる絶景を味わえる。岡山で焙煎されたコーヒーに加え、フードメニューもデザートを中心に充実。時間を忘れてつい長居をしてしまいそう。

 
「都会で仕事をしたり活動をしていると、時間や人の流れが早くふと疲れてしまうことってありますよね。そんな時には壮大な自然の中で流れる時間に身を任せて自分を見つめ直すことが大切だったりします。ここ岡山県倉敷のカフェ、ベルクは本当に唯一無二の場所なのではないかと思える山の上に位置しています。日常とはかけ離れた景色の中でゆっくりとコーヒーを飲む時間によって、自分の中の失われたリズムが自然と整ってくるんです。眩しいくらいの日差しの先には瀬戸内海のパノラマが広がっていて、直島やしまなみ海道を一望できます。夕暮れから暗くなっていく空の表情もより近くで感じられ、この場所での時間の流れ方はなんと贅沢な体験なのかと心が躍ります。
 
コーヒーは武蔵野珈琲、木下商店といった岡山県ならではの焙煎の豆を使っていて、店主のこだわりを感じるポイントでもありますね。自然と向き合う時間を大切にしながら時の移ろいを眺めるという、カフェの体験をここまで広げられる風景は素晴らしい。普段の生活の中で息継ぎとなる場所というか、ここに来ることで呼吸を整え、次へと繋げていく、頑張ろうと思える機会を与えてくれる場所だと思います。カフェという気軽さがまた、自分のスイッチを入れ替えるには丁度いい。一度は訪れてみて欲しい場所です」。

 
岡山県倉敷市児島唐琴町 7
0551-22-8228
@_belk_
 

Japanese Restaurant Waka
[Nirasaki, Yamanashi]
旬を肌で感じとり季節を掴みに行く
和食おすし若

店内は40年以上の歴史がある寿司屋であることを感じさせない作り。天井吊りされたlistudeのスピーカーから発する優しい音楽が店内を包む。

 
「山梨県の甲府からほど近い韮崎の田園風景の中にある40年以上続く老舗のお寿司屋さんなのですが、ここはお寿司ももちろんですが、なんと言ってもきのこがとても象徴的なお店なんです。お店を営むご夫婦が早朝に山へ採集にいき、その時々に収穫したきのこは贅沢な天ぷらやさまざまな調理法で堪能することができます。今まで自分が食べてきたきのこのレパートリーとはなんだったのだろうと思うほど、知らなかったきのこの名前に触れ、それらの味わいが口の中でふくらんでいくのがとても楽しいですね。春・夏・秋とそれぞれ収穫できるきのこも違うので、季節をつかみに行くような気持ちで定期的に訪れたくなる魅力があります。
 
またワイン好きにとっても嬉しい豊富なナチュールワインのレパートリーやノンアルコールドリンクも充実していて、その日の気分で様々な楽しみ方ができるのも嬉しいですよね。店内は老舗のお寿司屋さんというイメージではなく、クリーンなウッド調の空間にまとめられています。僕も空間を作るときによく使っている奈良県にあるlistudeというメーカーが製作しているスピーカーからは自然を感じさせる料理にマッチする柔らかな音楽が流れていて、ずっと滞在していたくなるような気分になります。今のオーナーが2代目なのですが、先代からお店を引き継いだ際に新しくきのこのメニューをはじめ、空間を見つめ直したそうです。今ではここでしか味わえないその空間や食材を求めて全国からお客さんが訪れるようになっています。ゆっくりと流れる時間の中で、視覚と味覚の双方から噛みしめる、森林浴。電車とタクシーを乗り継いででも行きたくなるお店です」。

毎朝きのこを収穫する裏山。店舗のすぐそばにこうした大自然が広がっている。

収穫されたきのこは天ぷらをはじめローストや煮付け、さまざまな調理法でお寿司とともに堪能することができる。

お店の裏山で毎朝収穫される色とりどりの豊富な種類のきのこ。9月の終わり頃から11月にかけてが最も収穫できるシーズンであるという。

 
山梨県韮崎市大草町若尾1190
0551-22-8228
@waka_japanese_restaurant
 
 
 

Select Kei Murayama Edit & Text Shohei Kawamura
Mikuto Murayama
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