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CROSS TALK PHAETON 坂矢悠詞人 × Silver 千葉琢也

CROSS TALK PHAETON 坂矢悠詞人 × Silver 千葉琢也

目に見えないものにこそ価値がある

3月19日、石川県加賀市にある名店“PHAETON(フェートン)”にて、同店のオーナーである坂矢悠詞人と、Silverの編集長である千葉琢也によるクロストークをおこなった。この日は、寒の戻りに加え雨が降り注ぐ、そんな天候にもかかわらず、満員の観客の中行われたクロストーク。その一部始終をここに記録する。
 
その前に、このフェートンでトークイベントをすることになったきっかけを書くとこうだ。昨年9月に発売したSilver no13は「Modern + Craftsmanship」をテーマに、モダンなデザインでつくりの良いクラフツマンシップのあるものを特集した。その特集内で、かねてから気になっていたセレクトショップ、フェートンとそのオーナー坂矢悠詞人を取材しようと、お店がある石川県加賀市まで伺ったのだが、当初6ページくらいで考えていたその取材も最終的には10ページという大ボリュームでの掲載となった。というのも、インタビューの話が非常に面白く、この坂矢悠詞人という人間が考えるその号のテーマ「Modern + Craftsmanship」を伝えるには、聞いた話を削ることなくなるべくそのまま伝えたいと思ったからだ。
 
東京に戻り、編集長の千葉に対して興奮気味にページを増やしたいと熱望すると、千葉もフェートンと坂矢に興味を持ち、増ページが叶ったことはもちろんだが、「このお店に行ってみたい」と私にそう伝えた。
 
◯ Interview with Yoshihito Sakaya (PHAETON)
https://silver-mag.jp/fashion/interview-with-yoshihito-sakaya/
 
そして、今年の1月。Silverでも馴染み深いイタリアのブランド、C.P. COMPANYの日本支社の代表から連絡があり、「フェートンで2022年春夏コレクションのローンチイベントをするので、Silverでも何かやりませんか?」という話を頂く。それから話は進み、3月19日フェートンとその隣にある紅茶のお店TEATON(ティートン)でイベントを開催することになった。イベントの内容は、坂矢悠詞人とSilver編集長である千葉琢也とのクロストーク。そして、ヴィンテージオーディオで1曲1曲を最初から最後までかけるレコードトレース。坂矢は言う。「ひそひそ話のようなクロストーク」。ご堪能あれ。

 
千葉 「今日は皆さま、お集まり頂いてありがとうございます。坂矢さんとお話をするということで、ここ数日どんなお話をしようかと考えていました。私は編集者という仕事をやっていまして、インタビューをすることが基本的な仕事です。今日はインタビューをするような気持ちでお互いお話ができればと思っています。昨年、Silver magazineで坂矢さんのお話を掲載し、その時は直接、私がお話をお伺いした訳ではないのですが、坂矢さんの話を編集部員から聞いてとても興味を持ちました。今、私の興味の対象である坂矢さんとお話をしながら、皆さんの前で公開取材をする。そういう進め方で今回は行わせて頂きます。
まずは、この場所、ティートンに関してですが、東京にもあまりない紅茶の専門店というコンセプトが面白いと思ったのですが、なぜ紅茶専門のお店をやっているのですか?」。
 
坂矢「紅茶にハマったのは6年くらい前。ネパールの紅茶にハマりました。1日20杯以上飲んでいたコーヒーも紅茶にハマったその日にやめて、それからは紅茶しか飲まなくなったんです。今日の話に全部繋がってくると思うんですけど、僕は趣味しか仕事にしないんですよ。紅茶が趣味になり、自然とこういう風にお店へとなっていきました」。


 
千葉「元々、紅茶にピンときたのは何だったのでしょうか?」
 
坂矢「ブラックネパールという茶葉の紅茶を飲んだ時です。僕は、一目惚れの一歩先である「瞬目惚れ」という言葉を使うのですが、まさにそれでした。気付いたらハマってしまう訳です。あと、(いろいろな要素を)混ぜたくないんですよ。紅茶のお店にコーヒーを置いてカフェにはしたくない」。
 
千葉「今、混ぜたくないという話がありましたが、 “何事にもピュアであること”、“プリミティブで原始的なマインドを大事にすること”。そういうお話を坂矢さんとよくしていて、今日はそんなお話になればと思っています。もう1つ、紅茶と同じようなテーマで香水のお店もされていますよね。これについてもお話をお聞かせください」。
 
坂矢「これも“好き”なんですよね。中学1年生の時から香水をつけているんですけど、とにかく香りが好きなんですよ。香りの元となる分子は地球上に約40万種類存在すると言われていて、そのうち人間が感知できるのは400種。感知できない香りの方が多い訳です。『今日はなんか春の匂いがするな』なんてことをよく言いますが、そういうものは全て香りの元のせいなんじゃないかなと思ったりもします」。
 
千葉「僕も実は今、香水にすごく興味があります。会った人の洋服は昨日何を着ていたか覚えていないこともありますが、香りだけは覚えているということがあります。あの人に会った記憶、あの時の記憶を呼び起こしてくれるのは香りだと思っていて。香りはとても歴史が深く、本来必要なものではないですが、一度も途絶えたことのない文化。それに、日本では香水を“つける”といいますが、英語では“wear (着る)”なんですよね。着るモノであるということや歴史の中でずっと続いていることがすごく面白いと思っています。しかも世の中にこんなにも多くの数がある。お洒落の本質をついているモノなんだと思います」。
 
坂矢「千葉さんが仰ったように、香水、そして香りはお洒落の本質をついているんですよ。フェートンで扱っているC.P. COMPANYもそうですし、Toogoodなど全部匂いを感じます。皆さんの家に匂いってあるじゃないですか。人の家に行った時の独特の匂い。そういった匂いを服が持っているんです」。
 
千葉「僕はシガーがすごく好きなんですが、坂矢さんも今は吸っていないにしろ、ものすごくお好きですよね? シガーも香りの話とすごく繋がっています。坂矢さんはそういう香りや感覚的なことを大事にされていますね」。
 
坂矢「ご飯を食べる前に、まず香りを食べているんです。香りで美味しいと判断して、食べれるとわかる。そういうことなんです」。
 
千葉「その人の品格やキャラクターが表れますよね。うちの編集が坂矢さんに話を聞いた時、すごく印象に残っている言葉があると話していました。『お洒落な人はいい匂いがしている』と。それがすごく本質をついていると思いました。お洒落な人、いい匂いしていますか?」
 
坂矢「確実にしています。サンダルウッドがどうとか、そういう成分の話ではなくて、もうちょっと深い匂い。お洒落なフェロモンの匂い」。

 
千葉「香水も人の肌へ乗せるので、誰が着けるかによって変わりますからね。自分カスタムなんですよね。それが自分の香りになっていく。そういう話を坂矢さんは雑誌、“大勉強”で行っている訳ですが、大勉強という言葉の意味も興味深いです」。
 
坂矢「これは、サインペインターのナッツ アート ワークスさんがある日看板を送ってきてくれたんです。そこに“大勉強の店 PHAETON”と書いてありました。『これは何ですか?』と聞くと、『坂矢さん勉強するじゃん。それで。』って。しばらく、その看板をお店の前に置いていた訳ですが、雑誌を始めるときにタイトルを考えていたところ、佐久間裕美子(※)さんに『大勉強でいいじゃない』と言われ、『そうですね』と決まりました」。
※佐久間裕美子 ニューヨーク在住のライター/プロデューサー。主な著書に“Weの市民革命”、“ヒップな生活革命”、“ピンヒールははかない”など。
 
千葉「今日お越し頂いたお客さんもそうですが、フェートンに来ると知らないことを知れるんですよね。まさに大勉強という名前に相応しいお店だと思いました。実際、私も一人のお客としてここに来たときにすごく多くの発見がありました。フェートンそのものが大勉強なんだなと。大勉強にも書いてあるんですが、常に本物探しをしているということはすごい印象に残っています。それはSilver magazineでもとても大事にしていて、“捨てられないものって何だろうか?”ということを探し続けていますよね。今、サステイナブルとよく言われてますが、本当の意味でのサステイナブルはゴミを出さないことです。世間には、サステイナブルと言われている偽物がいっぱいあります。ビジネス的に作られた表面だけのサステイナブルがいっぱいある。そんな中でも本物というモノは捨てられないじゃないですか。なので、本物を選ぶということが大切なのだと思います。そういう意味で、坂矢さんにとって本当の意味でのサステイナブルなものの条件はありますか?」。
 
坂矢「質問からちょっと逸れてしまうかもしれませんが、1つは言葉遣いなのかなって思うんです。例えば、『誰が何を言った』というよりも『仰いまして』という方が相手も気持ちがいいです。これが、まずは人間の根底。人と人が持続可能ということなのかなって僕は思うんですよね。個人だったら気にしなくていいのかもしれませんが、国レベルになると大変です。言葉遣いが大切なんだと思います」。
 
千葉「モノにはやはり人間性がある。人が作るモノなのでまさにそういう言葉遣いだったり、全てに品格があるということがものづくりにも繋がっていると思います。人の手によって作られたモノって重要だなと思います。坂矢さんが扱っているモノって人の手が見える気がします」。
 
坂矢「その通りです。実際に作っている人の手がめちゃくちゃ綺麗なんですよ。そこにある壺は、平安時代に作られているものですが、とても綺麗です」。
 
千葉「人の手でしかできないモノってすごくあって。工業的に作られた機能的なモノは便利なんですが、人が感動するかというと 全てがそうではない。僕は人の手によって作られたモノに心を動かされます」。
 
坂矢「良いモノは調べなくてもわかりますね」。
 
千葉「モノが違う。モノが語っているというやつですね」。
 
坂矢「そうですね。すぐわかります。調べる必要がないんです。検索をする必要がない。3秒とかで調べられるようなものって無意味だと思うので、僕も普段検索をすることは少ないです。大切なのは、感ですよ。匂いがあるんです」。
 
千葉「捨てられないっていう話で言うと、坂矢さんと一致したのは今回のイベントの告知をしようとした時。何かフライヤー的なものを作ろうかという話になったんですけど、ゴミを作りたくないという話になりましたよね。紙はゴミになるということで、石だったら良いんじゃないか、となりました。石を今回のチケットとして大切に残してもらえるようなモノにしようと。それで、3月上旬にフェートンの近くにある海岸まで行き坂矢さんと2人で石を拾ったんですよね。そうやって、時間をかけることが大切で、それが心に残るもの。モノを超えた価値になる。このお話をすることで少し大切にしようとなってもらえたら嬉しいです」。


 
千葉「石といえば、フェートンのお店の前にも石が置いてありますね」。
 
坂矢「お店の外に置いてあるのは、奈良時代の元興寺の礎石です。大黒柱の沈下を防ぐために据えられる礎石。その礎石を見極められる人って今いないんですよ。昔はいたんです。礎石は3000年や4000年で割れては駄目です。だからこそ美しい。そんなものをそっと置いているんです。礎石というのは僕のテーマでもあるんです。誰にも言っていないのですが」。
 

 
千葉「直感的に何か違うものを感じますよね。3000年、4000年も割れない石なんて……」。
 
坂矢「僕も5年くらい前だったら、礎石を買えたとしても置くことが出来なかった。置き方が大切なんです。壺もそうですが、顔をちゃんと見せるという置き方がとても難しいんです」。
 
千葉「礎石が持っている顔をちゃんと見せる。プリミティブというキーワードは僕と坂矢さん、お互いがテーマとして持っているんですが、石のように原始的なモノの大切さってすごく感じますよね。このクロストークの後に、レコードトレースを行いますが、そこでかける曲は、人間だからこそできた音楽、その場の空気を収録した演奏。そういった曲をかけたいと思っています。僕はレコードで音楽をかけることに拘っているのですが、レコードもプリミティブなことに近い。レコード盤があって、針があり、信号ではなく振動で音が伝わっているんですよね。つまり、皆さんが歩くとその振動がレコードにも伝わっていきます。その場の振動が伝わっていくので、その場に曲が馴染んでいくんです。そして、レコードトレースという名前には、好きな曲を最初から最後までかけるという意味があるんです。通常クラブなどでDJをするDJ Mixとは別のもの。混ぜないということですね。本当に良いものは混ぜられないと思っていて。無駄なモノを混ぜてはいけないんです。そこは、坂矢さんと紅茶の話に繋がっていくんですが、ピュアなものはピュアでなければ伝わらないというのはありますね」。
 


 
坂矢「紅茶は今でも手積みなんですよ。農薬も最も少ないと言われています。つまり、人が近い飲み物なんです」。
 
千葉「人の手によって作られたモノは、見えない価値や感覚に訴えかける強さがありますよね」。
 
坂矢「人類(の感覚)が上昇しているので、見えないモノを掴み取れるようになってきています。それによって、ニッチフレグランスを生み出せる調香師たちが誕生しています。近年、信じられないようなクオリティの作品が生まれているんですよ。来月、新しく香水のお店をオープンするんです。そこでは、ポーランド、ワルシャワの香水を紹介しています。パリじゃなくて、ついにワルシャワか……となるくらい世界に広がってきています」。
 
千葉「広がっていますね。もはや目に見えないモノ、感じられないモノって触れないし、わからないようなモノなんですけど、それが心の贅沢だったり記憶に残っていきます。そういうことが本当に価値があるし、贅沢だと思うんです」。
 
坂矢「最近、三次元は幻想なんだということに気がつきました。三次元のモノは火がついたら消えてしまいます。でも記憶だったり思いというのは消えません。物質の方が幻想なんですよ」。
 
千葉「人の気持ちは物質が消えても残りますからね。それに、人の手によって作られるモノには、そういった気持ちが込められているから価値がある。C.P. COMPANYのお話になりますが、このブランドは色がすごく独特です。湿度などに合わせて毎日違う調合をして、職人が染色をしている。感覚で染めているので、服によって若干の違いが表れます」。
 
坂矢「そうですね。カラーオブパッションです。お店でお客様に洋服を紹介する時によくある会話で、商品を手に取った時に『ですよね』と僕は言うんです。お客様も『ですよね』と返す。ずっと、『ですよね』と言っているんです。匂いがわかるから、それ以上、もう言葉が要らないということなんです」。
 
◯ PHAETON
https://www.phaeton-co.com/

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Silver N°15 Spring 2022

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