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The Places worth the effort 03
Wolf & Wolff (Aoyama, Tokyo)

The Places worth the effort 03
Wolf & Wolff (Aoyama, Tokyo)

世界基準の珍奇なモノを通して
時代の新しい潮流に出会える場所
ウルフアンドウォルフ


 
 

サプライズのあるお店作り

 
“孤独という切符を買ってでも、自由な旅人でいたい”。かの有名な日本の推理作家、戸川昌子の格言にそんな言葉があるが、Wolf & Wolff代表の石崎は、まさにそんな人物。彼は、18歳の頃に単身アメリカで古着の買い付けをはじめ、24歳の若さで外苑前にセレクトショップATELIERをオープン。グレッグ・ローレンの取り扱いやマルタン・マルジェラのアーカイブを大量に集めた展示をいち早く行うなど、様々なムーブメントの火付け役としても知られる洒落者。2021年にATELIERから移転する形で、青山にWolf & Wolffをオープン。このお店では、国内外問わず旅先で出会った珍奇なプロダクトや、買い付けの物語を通して、”新しい時代の波”を体験することができる。そして、彼のパーソナルな魅力に取り憑かれたWolf & Wolff信者も後を絶たない。そんなWolf & Wolffはどのようなお店作りを目指しているのか?まずは、店名の由来から触れておこう。
 
「wolfを直訳すると狼。そして、群れないイメージがありますよね。日本のファッションシーンに正直うんざりしている部分があって、1人で地道にやっていこうという気持ちがありました。ここ数年コラボレーションや、誰かと誰かの繋がりによってビジネスが展開される風潮がありますよね。それがちょっと性に合わなくて。ここのビルを最初に見に来た時、廃墟一歩手前という印象でした。ほとんどのテナントが空室で。ぽつんと1人でここでやってる自分を想像して、この店名にしました」。
 
時代を重ねるごとに、単体で創造するクリエイティブはどうしても難しくなってしまうもの。ただ、コラボレーションを重ね、それが主流になっていくと、ファッションラバーとしては確かに寂しい気持ちになってしまう。石崎は作り手自身の真のスピリットを常に見ていたいのだろう。空間作りについてはこう話す。
 
「その時代ごとの空気感が表現出来たらいいなと思っていて、今は冷たさを意識していたり、凶器的なディテールを持つ家具を扱って時代を表現しています。最近では、アート性を意識したプロダクトを扱うことが増えてきているので、そことの相性も良いのかなと思っています。ファッションビジネスをやっている感覚はなく、僕の部屋にお客さんが遊びにくる感覚というか。そういう意味でプライベートセラーという名前でやっていますね。なのでお店の営業日に固定はなく、SNSやWEBサイトで営業日を告知しています。接客に関しては、ファッションってやっぱり自由であるべきだと思うので、解釈は見た人に委ねるように心掛けています。昨今では、掘り下げて作っている洋服や、ディテールにこだわっている=特別で高価なモノという先入観をもっている人が多いような気がしていて。必ずしもそうではないと思うので、お客さんに説明するときにも気をつけていますね。あと、梱包された届きたての商品の開封を物によってはお客さん自身にやってもらったり、店頭にないスペシャルなモノを裏から出したりして、お店だからこそ味わえる“サプライズ”を楽しんでもらえるようにしています」。
 
プライベートセラーと聞くと、店舗経営だけに特化している印象を受けるが、Wolf & Wolffは決してそうではない。WEBサイトにも力を入れ、1つのプロダクトを買い付けるまでに至った物語を、自身の言葉でしっかりと綴っている。
 
「昔から物を書くのが好きで。2010年頃からブログをやっているのですが、その延長線ですね。インスタグラムは入り口としてやっていますが、本当はブログを見てほしいという気持ちがありますね。買い付けのストーリーや日々の思いをストレートに書いているので、賛同してもらえたら嬉しいです。心掛けていることは写真の撮り方です。昔はライカのカメラでカッコ良く撮ることを意識していましたが、今は主体をあくまでプロダクトにしたいので、あえて生っぽい写真を撮るようにしています。というのも、カッコ良く写真を撮ってしまうと、実物の方が必ず劣ってしまいますよね。それってお客さんにとって良いことではないような気がしてて。根本的なマインドとして、自分がしてもらって嬉しいことを、お客さんにも提供できるように心掛けていますね」。

時代ごとのムードを空間で表現しているという石崎。現在は、冷たさを感じる空間と、凶器的なディテールを持つプロダクトとのコントラストを楽しんでいるそうだ。上は、フィリップ・スタルクのチェア。下は、カリフォルニアの陶芸家による作品。主にファッションを扱うお店だが、ラックを置かないというのも、Wolf & Wolffならではのこだわり。

 
 

ワールド・スタンダードになり得るか

 
「セレクトの基準は、ワールド・スタンダードな要素を持っているかどうかですね。レジェンドと呼ばれる素晴らしい作り手が世界中に沢山いるなかで、その横に立てるかどうか。今は無名でも、何かの拍子にすごい有名ブランドになるポテンシャルを持っている人が好きなんですよね。根底にあるのが、皆が知っているようなブランドよりも、時代ごとの面白い人やプロダクトを紹介したいという気持ち。だから長年継続して取り扱っているブランドは1つもないんですよ。海外で買い付けることも多いのですが、その時は勘を頼りに行動したいという信条があって。もちろんミスをした時のリスクは高いですが、そういう環境の中だからこそ閃くことがあるし、そこに人生のエキサイティングさを感じているんですよね。それに海外に行くと時代ごとのアンサーを聞けたり、新しい発見が楽しくて。そこを疎かにしてしまうと、僕自身がその辺のブランドで良くなってきて、結果的に誰の為にもならないと思うので、定期的に海外へ行くことだけは心掛けています」。
 
石崎は、旅をしながら遊びの延長線で買い付けをする。そのマインドでいることで、自然と面白い人が周りに集まってくるんだと話してくれた。ワールド・スタンダードというキーワードが出たが、その基準は一体どこにあるのか。
 
「単純な話ですが、“ものすごく個性的”かどうかですかね。語弊があるかもしれませんが、モノって究極なんでも良いのかなと思っているんですよ。そこに誰とも被らない個性さえあれば、それだけで素晴らしいことだと思うんですよね」。
 
これからの時代、全く新しいモノは生まれにくいと言われ、更にものすごく個性的となると、かなりのハードルがあるように感じるが、石崎はどう見えているのだろうか。
 
「それが生まれてるんですよね。新しいモノ。去年は、買い付けでフランスばかりに行っていたのですが、今はアメリカのカリフォルニア周辺がとにかく面白くて。今年2回行きましたが、出会った作り手たちから、動物的なエネルギーと新しい時代の波を感じました。何といいますか……目がとにかくギラギラしていて、野獣というか、勢いやスピード感が全然違う。そういう人たちが逆にこれからのデジタルと相性が良くなると思っていて、NFTやメタバースの話を彼らの口からもよく聞くんですよね。取引きをしていても、仮想通貨で支払えないか?って普通に聞かれたり。本当に全く違う世界に来た感覚になりましたね。この周辺の人たちはライフスタイルのギャップも面白くて。スーパーに行った時、珍しい色のドレッドヘアをしていた人が水着姿でいたんです。いつもこういう格好で町を歩いているんだろうなと思ったら、買い物が終わると、見たことのない電気自動車に乗って颯爽と帰っていく光景を目の当たりにして。衝撃が走りましたね。ドレッドと電気自動車って普通は間逆なイメージじゃないですか(笑)。ライフスタイル全般がもの凄いスピードで進化しているんだなと思いましたね。そしてやっぱり、時代に淘汰されてしまった人が今回のパンデミックで大勢いて、その反対にそうならなかった人たちが逆にコロナをきっかけに、ものすごいサクセスの仕方をしていて。しかもその人たちは、今まで世に出てこなかった人たちだと思うんですよね。そう思うと、今まで売れてた人と売れてなかった人が完全にスイッチしたんだなというのを、肌で感じました。こういう時代こそ、昔でいうカート・コバーンや、ジョン・レノンみたいな本当にすごい人が出てくるんじゃないかなと感じますよ」。
 
コミュニティベースで“皆で一つのメッセージ”を掲げる風潮から、“個人で個人のメッセージ”を掲げる時代”への移り変わりが、カリフォルニアで今起こっているのかもしれないということ。WE(皆で)の時代から、ME(個人)の時代への突入だ。帰り際、こうして深く考えさせられるこの時間も、Wolf & Wolffならではの魅力なのだろう。そして石崎は、今の日本の物作りにも世界との強いギャップを感じているという。
 
「肌感だと180度違うのかなと思いますね。別にどっちが悪いとかではありませんが、日本だと今まで培った伝統や歴史を掘り下げていくような物作りに変わっていってるような気がしてて。所謂説明がつくようなプロダクトです。海外だと、言葉だけだと表現できないアーティスティックな物作りをされている人たちが多くいるんですよね。僕はそういったシックスセンス(第六感)で感じられるようなプロダクトが好きで。それと、マインドが海外の方がシンプルで、余計なことを考えずに、純粋に活動しているような人が多い気がしていますね。やっぱり、ここ1、2年は僕自身もすごく悩んだ年でしたが、カリフォルニアに行った時にそのもやもやが一気に晴れて、むしろ着いた瞬間に冷や汗がでましたね。今まで考えていたことが全く意味がなかったなというか。生活やビジネスのやり方も、自分が思うように正直にやれば良いと改めて気づかされました」。
 
情報過多の時代において、先に頭で考えてしまいがち。だが、そうして作られたモノで人のを感動させることは難しい。純粋、無垢。そんな心で作られたプロダクトこそ、我々の心をグッと鷲掴みにしてくれるのだろう。

表参道駅から徒歩8分。静寂な空気が流れるビルの2Fに、Wolf & Wolffがある。お店のドアにガムテープで店名が記されているが、このスタイルからもお店が目指すベクトルを感じることができる。





自身で撮影した旅先での買い付けの様子。「今の時代、モノは良くて当たり前で、それ以上に人が面白いか。そこが非常に大切な気がします」と語る石崎は、シティからローカルまで自ら足を運び、作り手の人となりまで見たうえで、買い付けを行う。

 
 

クラフトで終わらないモノ

 
「オンラインでも沢山モノを買えますが、それでもわざわざお店に行くっていうことは、時間を割くわけで。だからこそ商品とサービスだけではなく、大感動、大発見できるような、何かをお客さんに与えたいと常に思っています。だから、本当にスペシャルなプロダクトをうちではやっていけたらなと思っています」。
 
その1つが、鎌倉の古民家にアトリエを構える、刺繍アーティストの沖潤子さんの作品だ。
 
「彼女のメインワークはアート作品なのですが、バッグだけは昔から作り続けているんです。15年くらい前だったと思うのですが、当時影響力のあったカッコイイ業界人がこぞって青山で背負って歩いているのを見かけた時があったんです。あのバッグは一体なんだろうとずっと気になっていました。そしたらある日、お客さんが背負って来られてて、聞いたら沖さんの作品ということを知って。2014年に本人のギャラリーに行って、直接お話をしたのが取り扱いのきっかけになりました。スイス軍のバッグをベースに刺繍が施されているのですが、本人はお守りのような感覚で作っていて、真ん中にぐるぐるのデザインが入っているのが最大の特徴です。刺繍だっていうことを忘れてしまうくらいのモダンさとアート性を感じるんですよ。配色も美しくて、今年の作品は、嵐・海・太陽を連想させられる仕上がりになっていますね。その時の気分でデザインするらしく、完成図が分からないまま納品されるのですが、届く度に感動させられます。

ベルギーでの個展や金沢21世紀美術館での展示をはじめ、国内外で活躍する刺繍アーティスト、Junko Okiのバッグ。刺繍ワークの完成度はもちろん、古いカーテンの金具を再利用して装備された真鍮リングや、ドッキングされたレザーショルダーなど、随所にユニークなデザイン性も備える。

 
2つ目が、K BY KENSUKEという日本人の手掛けるコートです。彼とは、2019年にフランスで知り合いを介してランチに行ったのがきっかけで出会いました。誰もが知っている某メゾンブランドに現在進行系で所属していて、コレクションの設計やデザインを担当している人なんです。それ故に、カッティングが本当に素晴らしくて。1人でパターンもデザインも全部やっているんですよ。wolf & wolffで受注会をやったのですが、オーダーが付き過ぎてしまい、1年先の納品になってしまう人も出ていましたね。まだブランドを始めて1年くらいだと思うのですが、服のクオリティという部分では今、世界一注目しています。

日本製のウール地を使用した、KBYKENSUKEのコート。一見すると、スタンダードなデザインに見えるが、実際に着てみるとエッジの効いたシルエットになっていて、ブランドの得意とするカッティング技術が随所に光る一品に仕上がっている。

 
続いて紹介したいのが、ロサンゼルスで僕の知り合いが勤めているお店のアイテム。そこのお店で働いているスタッフがとにかくユニーク。何かしらのアーティストだったり、ギャラリーを持っている人やハリウッドヒルズの豪邸に住んでいる主婦、さらに80歳のジプシーまで働いていたりと、皆とてもお洒落なんですよね。その中の1人、シーシーさんという人の作品です。彼の本職はパールのアーティストで、オブジェからアクセサリーまですべてハンドメイドで製作しているんですよね。このブレスレットはタヒチ産パールをシルク糸で繋ぎ合わせて、イギリスのリバティ生地と組み合わせたデザインになっています。始めはパールだけのキーチェーンになる予定でしたが、本人も僕もどこかしっくりこなくて。リバティ生地とパールをドッキングしたら面白いんじゃない?っていう提案をしたら賛同してくれて。共作のような形で出来上がったものです。彼らのコミュニティのなかで、このリバティ生地が流行っていて。女性だったら三編みの中に入れ込んだり、それも面白いなと思いました。

カリフォルニア在住のアーティスト、C.Cによる、タヒチ産パールをシルクの糸で丁寧に繋ぎ合わせたブレスレット。ジョイント部分の金具も含め、オールハンドメイドによる作品で心地よい温もりを感じる。ブレスレットとしての機能はもちろん、ネックレスとしても使用可能。

 
最後に、革靴職人の三澤則行さんによる、アトリエ・シューズ(写真右)です。ウディ・アレン監督の映画「それでも恋するバルセロナ」に登場する画家、アントニオの、奥さんと愛人がドロドロの関係であっても、アトリエで製作に没頭する姿勢からインスパイアされたものだそうです。特殊な形をしているシューホールが面白いのですが、これは三澤さんが過去にロンドンで立ち寄ったレストランで、壁一面ランダムに貼られた写真、絵画、鏡から影響を受けたデザインなんです。小判型の金具は今では殆ど見ることはないですが、宮内庁の仕事を通して使用することになったそうですね。フレンチリネン製で、型崩れを防止する芯が一切入っていないので、人それぞれの歩き方、足の形状によって表情が変わるのも魅力的です」。

三澤則行による、アトリエ・シューズ。2015年に日本革工芸展において「文部科学大臣賞」を受賞した経歴を持つ人物で、浅草とウィーンの靴メーカーで修行をした後、2011年から荒川区でブランドをスタートさせている。

 
話を聞いていると、プロダクトとしての魅力以上に、アート性があるかどうかを大切にしているように感じたが、何か基準はあるのか。
 
「クラフトで終わってしまうか、それともアートと呼べるモノになり得るか。そこですかね。沖さんの作品も、シーシーさんのブレスレットも、今回紹介したプロダクトに一貫して言えるのですが、多分同じものを誰かが作ろうとすると、ほとんどの人がクラフトになってしまうと思うんですよ。そこの違いはシビアに見ています。アート性という意味では、言葉が古いかもしれませんが、反骨・ロックンロール・ハングリーとか、その人ならではのスピリットを感じるかだと思います。最近このような言葉を聞かなくなったのですが、本当はファッションを作るうえでも1つの大事なキーだと感じています」。
 
ラインナップされるプロダクトは、”ワールド・スタンダードであり、アートと呼べる”こと。それが石崎のセレクトで重要視されるものだ。しかし、そうしたプロダクトを自分の足で買い付け、販売することが目的ではない。プロダクトを通して、お客さんに“新しい何か”を持ち帰ってもらうこと。それが真の目的であり、わざわざ行きたくなるお店の由縁とも言えるだろう。
 
東京都渋谷区渋谷2-3-3 青山Oビル 2F
@wolfandwolff
 
 
◯Wolf & Wolff
https://wolfandwolff.com/
 
 
 

Photo Kei Sakakura Text Tatsuya Yamashiro Edit Shohei Kawamura

 

This article is included in

Silver N°14 Winter 2021-22

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