Loading...

think south for the next
THE NORTH FACE

think south for the next
THE NORTH FACE

過去から現在、そして未来へと
受け継がれるメッセージ

Trans Antarctica Parka ¥79200 by THE NORTH FACE

 

『think south』
南極を考える

 

『THINK SOUTH FOR THE NEXT』という言葉をご存知だろうか。これは次世代の人々へ世界平和の大切さや自然環境の保護を伝えていくべく、2019年から始まった活動の名称である。このプロジェクトの背景には、今から33年前、地球の自然環境の保護や世界平和などのあくなき挑戦を命題に掲げ、世界各国が協力し合い実現された一世一代のプロジェクトの存在があった。日本、アメリカ、フランス、ソ連、中国、イギリスの6カ国から選出された6名の冒険家や科学者による犬ぞりでの南極大陸の横断だ。最低気温はマイナス40°Cを優に超える世界で、7ヶ月超の時間をかけて横断をするという前代未聞のチャレンジとなった。そんな過酷な挑戦を支えたのは、THE NORTH FACEのウエア群であった。当時の米国THE NORTH FACEが全面バックアップし、隊員ひとりひとりの要望に耳を傾け過酷な環境を生き抜くためのプロダクトを生み出したのだ。隊員たちから実際に出た要望としては、分厚い手袋をしていてもポケットの開閉をしやすくするため、フラップの部分に硬い材質の板を入れてめくりやすくするなど、個人の要望に寄り添ったディテールが多かったのだという。また当時ではまだゴアテックスが新技術として開発されたばかりで世間に普及する前であったため、画期的な技術としてプロダクトに取り入れられていたそう。そんな技術面でのTHE NORTH FACEの貢献と、隊員たちのチャレンジスピリットによって前代未聞の過酷な挑戦は成功によって幕を閉じた。挑戦終了から30年が経った2019年。

 

当時の想いや願いを現在、そして次世代の未来へと繋いでいくべく『THINK SOUTH FOR THE NEXT』というプロジェクトが発足。以来環境の保護や世界平和の理念を広めるハブとして毎年さまざまなイベントが開催されている。プロジェクトの開催時期には、THE NORTH FACEが過去の使命やチャレンジングスピリットを現代へ伝える象徴として、当時南極横断の隊員が着用していたウエアをベースにデザインした、フード付き防水シェルジャケット、Trans Antarctica Parkaをはじめとしたコレクションをリリースしている。左胸と背面には、南極大陸横断隊に参加した各国の国旗、左腕には「Trans Antarctica Expedition(南極大陸横断隊)」のシリコンワッペンを配置。各国が手を取り合い達成した世界平和の先駆けとなる偉業の片鱗を感じ取ることができる。今年で4年目となる本プロジェクトでは、環境、平和、チャレンジングスピリットの3つのカテゴリーにおいて、学者や建築家、活動家たちがそれぞれの議題について自らの知見を披露し公開トークセッションを行うなど、当時を知らない次世代の人々に向けてさまざまなコンテンツが用意されている。残念ながら本誌発売時にはイベントは終了してしまっているが、こうした活動に本気で取り組んでいる大人たちがいることを知って欲しい。そして少しでも興味を持ってみて欲しい。そうすることで南極大陸横断から脈々と受け継がれてきた環境や平和への想いや願いは時代を超えその先の未来まで受け継がれ続けていくのだから。

GORE-TEX PRODUCTS 2層構造を採用し、耐久性に優れる200デニールのリサイクルナイロンの表地を採用。フロントはダブルフラップ仕様で防水性を向上し、脇下にはベンチレーションを備え、衣服内のムレを効率的に放出。左胸と背面には、南極横断隊に参加した各国の国旗、左腕には「Trans Antarctica Expedition」のシリコンワッペンを配置した。

 

THINK SOUTH FOR THE NEXT 2022 特設サイト
think-south.com

Interview with Keizo Funatsu

南極大陸横断の際の写真群。当時南極大陸には厳しくも美しい、壮大な氷の世界が広がっていたことがわかる。

 
 

人と人との繋がりの中で
手をとり未来を考えていく

 

『THINK SOUTH FOR THE NEXT』プロジェクトの原点である、1989年から1990年にかけて行われた犬ぞりによる南極大陸の横断。自然との共存や、世界平和のメッセージを広く世界に届けるために行われたこのプロジェクトに、日本代表として参加したのが舟津圭三だ。この過酷なプロジェクトに、各国の名だたる探検家のメンバーらとともに、最年少かつ南極未経験の状態で参加したのだというから驚く。実際に当時のことについて話を聞いた。

 

「南極大陸はどこの国にも属しておらず、世界で唯一領有権が凍結されている場所。だから人類共有の財産であり、平和な大陸でもあります。南極条約で軍事利用は禁止されてますし、国際協調による科学調査の推進も謳われていて、1990年がその条約の見直しの時期だったんです。この世界で唯一平和な条約がこれからもずっと存続されていくことを世界にアピールしようということがこのプロジェクトの核となる趣旨でした。南極はこれからの世界の在り方を示すひとつの指標になるというか、人類ひとつとなって地球の環境を良くしてかないとならないし、平和な世の中を築いていかないといけない。平和な大陸・南極をもう一度考えてみようということで『Think South』という目標を作ったんです。行程としては達成まで7ヶ月半という長丁場ですから、もちろん良い事、悪い事さまざまな局面がありました。南極半島からスタートしてすぐは、毎日のように吹雪だったんです。朝起きるとまわりすべてが雪で埋まっていて、そりや装備類、犬たちも掘り出してから出発という日々が2ヶ月ほど続きました。果たして3000キロ先の南極点までたどり着けるのだろうかと、精神的にも肉体的にも疲労困憊の日々が続きかなりこたえましたね。中でも最も過酷なエピソードとしては、横断完遂まであとわずか26kmに差し掛かった時、行程的には次の日がゴールという時だったのですが、その日の夕刻、犬たちのケアのためにテントを出た際、続いていた地吹雪が一層ひどくなり、ホワイトアウトの状態で何も見えなくなってテントに戻れなくなってしまいました。気温はマイナス15度とマイナス40度-50度に慣れていた体は、比較的暖かく感じていました。ただ風が毎秒30mと台風の強さで、体温を奪われることが怖かったです。生き延びるには風から身を守るしかないと、穴を掘って吹雪を耐え凌ぎました。このまま死んでしまうかもしれないという極限の精神状態の中で仲間からの救出を待ち続けるしかなかったわけです。一晩夜を明かした頃、本当に運良く仲間が発見してくれて、事なきを得たんです。その時が本当にすごい感動というか、7ヶ月半もの間行動をともにしてきた仲間と泣きながら喜び合ったんです。最後にドラマチックにそういうことが起こりましたね」。想像を絶するような過酷なエピソードから、遠征隊たちが命をかけて世界平和や地球環境を守るべくメッセージを発信しようとしていたことがわかる。そんな過酷な経験の中でも、時折り見せる壮大な地球の表情が隊員たちの心を大きく動かしたのだという。「吹雪ばかりの日常の中でも、南極氷床へと続く氷河を上りきったとき、天気がすごく良くなった瞬間がありました。後ろを振り返ると大小様々な氷河があちこちから流れてきていて、とても言葉では言い表せないような素晴らしい光景が目の前に広がったんです。この景色を見たときは、南極というのは本当に世界一美しい場所なんだという感動を覚えました。ただ、南極の内陸に入ると、一切の生命の存在が許されない厳しい世界になる。そういった命のない寂しさ、私たちが普段何気なく接している、例えば土だとか花だとか木の香りなどがまったくないんですよね。隊員6人と犬たち以外その周囲には一切の生命が存在しないなと思うとすごく寂しい気持ちになったんです。住むことは絶対できないし、やはり人間っていうのはさまざまな命に囲まれて初めて生きていけるんだなということを強く実感したんです」。南極という極地において感じる、命のつながりの大切さ。世界平和を紐解いていくと、人と人とのつながりであったり命の大切さにつながってくる。隊員たちは身をもって体感したメッセージを世界へ発信したのだ。

 

そんな壮絶な犬ぞりによる南極大陸横断からはや33年。当時と比べ、環境を始めとした世界の情勢は大きく変貌を遂げた。『THINK SOUTH FOR THE NEXT』プロジェクトはこれからの時代を担う人々に向けて、当時の精神を絶やさず伝えるために発足されたものであるが、舟津は今の状況をどうみているのか。「当時はインターネットの普及もほとんどなかったですが、今やデジタル化が進み、世界の誰とでもすぐにコミュニケーション取れるようになった。いま南極を横断しようとしたらGPSで自分のロケーションはすぐにわかるし、メッセージなども衛星電話を使ってすぐに送れてしまう。便利は便利ですが、便利は不便という言葉もあるように、人々の自然との関わりが希薄になってるんじゃないかという印象があります。今の世界に最も必要なのは、自分の足で世界に飛び出して行って、そこでさまざまな実体験をすること。実際に自分で一歩飛び出してみて、自然の怖さ・辛さ・美しさを実体験の中から体感してもらいたいっていう、そういうこともすごく大事な世の中になっていくと思うんですよね。そういうことも『THINK SOUTH FOR THE NEXT』で謳っているチャレンジングスピリットにつながっているんだと思います。子供や若い世代のチャレンジ精神や、情熱を持って何かに取り組むこと。そんな未来を考える活動が世界を支えていきます。地球に生きる我々が一つになって、次の世代にいい世の中を作っていくというのは我々の責務でもあるし、若い世代の方達は知恵を絞って自分達でいい世界を作り出していくっていう気持ちが重要。それこそがプロジェクトの真意なのだと思います」。

 

舟津圭三
1956年生まれ。探検家として1989年から1990年にかけて行われた犬ぞりによる世界初の南極大陸横断に参加。現在は米国アラスカ州から北海道仁木町に拠点を移しNIKI Hillsワイナリーの総支配人を務めるほか、さまざまな活動を行なっている。

 

Comment from Naoki Ishikawa

 

「僕は22歳の時から南極をはじめ、北極やヒマラヤなどの極地に行っていますが、当時の写真を今見返してみると、地球温暖化の影響で氷河なども確実に後退していますし、違いがはっきりとわかるくらい自然環境が変化しています。この写真は南極半島の海から少し上がって、小高い丘に登った時に撮ったもの。南極と聞くと白い雪や氷の大地を想像するかもしれませんが、沿岸部では地球温暖化の影響もあって、雨が降ったり地面がむき出しのところもあるということがわかると思います。写真を撮ったのが2011年なので今はこれよりも更に変わっていると思います。

 

『THINK SOUTH FOR THE NEXT』プ ロジェクトに関して言えば、南極大陸は、唯一どこの国にも属していない大陸なので、そういった場所がこの地球上に存在するということを少しでも想起させるプロジェクトになっているとしたら、すごく意義のあることだと思います。紛争や世界の歪みがある時代に、どこの国にも属していない大陸で、各国の冒険家が集まって力を合わせて大きなことを成し遂げた。それをまた現代に広く周知させていくことや、それをもとにいろんなことを考えていくということは重要だと思います。南極の風景が頭の片隅にあることで、多様な世界に思いを馳せるきっかけになるのではないでしょうか」。

 
石川直樹
1977年生まれ。写真家。人類学や民俗学に興味を持ち、学生の頃から辺境から都市まであらゆる場所を旅し、風土や文化を記録し続ける。写真のほか、ノンフィクション、写真絵本などその表現方法は多岐にわたる。

 
 
 

Photo Taijun Hiramoto Text & Edit Shohei Kawamura
This article is included in

Silver N°18 Winter 2022-23

Buy on Amazon

Related article