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The Places worth the effort 02
T.T (Gion, Kyoto) 考古遺物を現代に蘇らせる
総合芸術空間作品

The Places worth the effort 02
T.T (Gion, Kyoto) 考古遺物を現代に蘇らせる
総合芸術空間作品

考古遺物を現代に蘇らせる総合芸術空間作品
タイガ タカハシ


 
わざわざ足を運びたくなる場所とは、手間を惜しまずこだわり抜いた場所と言っても間違いないだろう。デザイナーや店主が自分のアイディアにこだわって実現させた結果、デジタルでは再現できない三次元での体験ができる。今年12月に若き日本人デザイナーで現代美術作家の高橋大雅が京都の祇園でオープンした総合芸術空間作品の”T.T”(タイガタカハシ)がそれだ。一年半かけて建てられたこの空間では高橋の服作りのコンセプトである「過去の遺物を蘇らせることで、未来の考古物を発掘する」を再現。彫刻、建築、茶の湯などの複合的な要素にまで広げることによって総合芸術が生まれる。彼にT.Tの空間へのこだわりについて話を聞いた。
 
「海外で人生の半分近くを生活してきた中で、日本のものづくりとは何かという疑問がありました。アートやファッションといった西洋発祥の文化を今まで学んできましたが、日本人としての自己表現が必要だと常に意識をしてきました。考えれば、日本のものづくりは何か既にあるものをもとに、より発展させ独自のかたちにすることに長けていると気づいたんです。」
 
そんな日本のものづくりを自分なりに表現する上で、高橋は考古学的な視点から日本の伝統文化や歴史と向き合い、T.Tを制作した。1階は彼が制作を手掛けた服のコレクションと彫刻の作品が並ぶブティックとギャラリースペースがあり、2階には彼がキュレーションする茶菓子コースが体験できる茶室の「祇園茶寮然美」がある。それらは単体として存在するのではなく、彼の服作りの意図によって紐付けられた一つの作品である。それらを制作する過程の中で、「服にしても、空間にしても、彫刻にしても色々な深い歴史や文化を解剖している感覚に近いと思います。」と語る。
 
「作品そのものにそれぞれタイムカプセルのように失われつつある文化や伝統を閉じ込めて、時間を経て、未来に残すことで、過去の記憶を追体験できると考えています」。彼の言葉には時空を超えたスケールを感じる。歴史を研究することで新しい日本の美意識を作り出し、それを100年先まで経験してもらえるように制作しているのだ。

2階の「然美(さび)」の内装。あらゆるところに職人の手が関わった空間そのものが工藝品のように感じる。「然美」の名前は時間と共に美しくなる「綺麗さび」という美意識と金属の「錆」に基づいている。

1階の入り口付近。T.Tの中へ入ると高橋が制作した彫刻作品、「無限門」に迎えられる。茶室に入る前につくばいで身を清めてから入るという文化を元に制作したこの作品は室礼の伝統に敬意を払っている。

 
 

茶室で経験できる
現代における「茶の湯」の瞬間芸術

 
時間軸を過去へと遡ると、T.Tが在る町屋は築100年以上のものであり、当時も今と同じく1階は呉服屋で2階は茶室だったそうだ。日本の美意識の歴史を研究する中で、その元素は茶の湯に在るということに高橋は気づいたという。
 
「日本芸術の源流を辿ると千利休に行きつくんですね。彼がやっていたことは今でいうクリエイティブディレクターのようなもので、職人に自分のヴィジョンを伝えて作らせて、そこから空間や魅せ方をキュレーションしていました。自分の取り組みもそれに近く、私の思考を様々な職人の技が衣服や作品として形にすることで、総合芸術空間が形作られています」。
 
2階の「然美」はその日本美意識を研究し続ける為に作った茶室の空間であるそうだ。茶室で提供されるお菓子は老舗和菓子司二代目の職人の手によって作られ、お茶は創業1717年の京都の日本茶専門店に提供され、毎月ペアリングが変わる。また、陶器は現代の美術作家に高橋が特注し、彼が指定した大きさで作ってもらっているという。この要素が集まった茶室での体験は高橋は「瞬間芸術」と呼ぶ。
 
「所作や作法など、茶会の席においてさまざまなルールがあり、それ自体がある意味パフォーマンスアートであり、体験するということ自体も解釈によっては芸術になり得るのではではないかと頭の片隅で思っていました。京都・祇園は老舗の茶屋が集まっている場所でもあるので挑戦ではありましたが、私だからこそ、何か違うベクトルでできることがあるのではないかと思いました」。
 
目の前で特殊な技法で用意されるお茶はパフォーマンスアートでもあり、味覚で体験する茶菓子のペアリングは瞬間で消えてしまう芸術とも言える。このような高橋の解釈から彼の高い美意識とこだわりが感じられる。
 
そのように、お茶、お菓子、陶芸の職人や作家のこだわり以外にも空間を作り上げる際には職人の手が関わっていた。然美の和紙壁は京都の唐紙工房の「かみ添」の職人の手作業で一枚一枚完成され、出来上がっている。床は乱張りという手法で、一本一本の木の細さが異なっている為、パズルのように何度も並べ直してバラついた自然な柄が表れる。椅子はデザイナーのジョージ・ナカシマの家具も生産している、香川県の桜製作所に頼んだ。然美の木造建築の縦横の直線の構造が反映されているデザインに仕上がった椅子。
 
「様々なジャンルの職人たちが交流を深める場であってほしいと思います。そういう人たちを呼んで器を展示したり、また違う作家さんと自分たちが作る茶菓と合わせてインスタレーションの様な食を発表できたりしたら面白いと思います。衣服やアートとは別の土壌に立つ人たちともつながりが生まれるような場にしていきたいと思っています」。
 
様々な職人の手が関わっている空間の構築を通して、違う世代や分野の職人達が交差することもでき、新たな表現が総合的に仕上がった。また、茶の湯や衣服、建築など多数な切り口があるT.Tは、好みのものを求めて来れる場所でもあり、それによって新たな出会いもできる空間でもある。そんな思いが込められているこの場所はクリエイティブコミュニティーの発展の場だと感じる。

茶菓子コース4品目のピーカンナッツ入りの生チョコレート羊羹。お菓子にも彫刻的要素を意識している高橋は造形の幅と長さをミリ単位まで気遣っている。

5品目の和栗のモンブランとペアリングされた一保堂のいり番茶。独 特な銀彩の器は陶芸作家の福村隆太の作品。時間が経つことで、黒ずんで錆びていく経年変化の美しさが表されている。

1階と2階共に使用されている天井照明。照明があるかないかぐらい光を削ぎ落とした結果、然美で茶菓子を楽しんでいる際には視覚で取り入れる情報が少なくなるため、より味と質感に集中できる。

 
 

大量生産できない
ものづくり

 
「未来は過去にある」と確信している高橋はゼロから新しいものを作るのでなく、衣服を考古学の観点で研究し、タイガ・タカハシのコレクションとして発表している。
 
「本当のものづくりの価値は歴史の中にすでに存在しているのではないかという視点から、考古学者のように過去のものづくりの背景や性質を研究しています。一点一点の服の生地やパターン、縫製にいたるすべての要素にある歴史や服づくりを、どう自分が理解したかが僕の服には反映されています。生地ひとつとっても織り機そのものが残っているか、稼働できるかといった問題も含めロストテクノロジーはたくさんあります。約100年前の当時のスタンダードやハイテクが、今では非効率という理由などで失われつつあります。昔の技術ほど再現が難しいことにも気づきました。また、生活様式も違えば骨格も違いますから、快適という概念も違うので、パターンもまったく違います。そうした意味でも、考古学者のように“遺跡”を掘り下げていくうちに当時の人たちの思想、文化、伝統、時代背景などに触れられるような感覚があります」。
 
衣類のスタンダードでもあるT.TのTシャツは発明された当時と同じループウィーラーマシンで作られている。この機械を取り扱っている工場は世界で2件しか残っておらず、1日に大体25枚ぐらいしか生地を織れない為、一枚ずつ丁寧に仕上げられている。また、化学染料を一切使わずに、服は全て手作業で自然染色されている。例えば、平安時代から続く着物を染色していた技法を用い、植物の葉、茎、根、果実などを沸騰させてその液体に服を浸けるのだ。
 
「大量生産ができないものづくりをしたいです。デザインに関しても、ゼロから何かを作り出すというよりは、今まで集めてきた物から、そのデザインをもう一度自分たちが生きている時代に蘇らせている。自分が主に蒐集している100年前の衣服は現代の様に時代の趣味を求めたデザインではなく、何かの特定な目的があり設計されているため、色褪せないのだと思います。だから今の時代にも通用する。それは建築にも共通していて、昔の人達の知恵はすごいと思います。自分の服も時間が経つことで価値が上がってほしいですし、蒐集した100年前の服が現代を生きる僕の手元にある様に、タイガ・タカハシの服も100年経っても生き残ってくれるといいなと思います」。

タイガ・タカハシの2021年秋冬のコレクションが並ぶ。服が掛かっているレールを隠すことで空間の中で服が浮いているように見える。こちらも一つの作品となる。

 
 
この空間に漂う歴史を経た時間の感覚は柱一本から床にまで感じられる。全ての木材は約100年前の古材であり、古い神社や町屋が解体されて余った木材を使用している。また、床は三和土(たたき)という土と石灰などを混ぜ合わせ、叩いて固める古来より伝わる技法によって作られている。日本のお寺で感じられる、室内と屋外の融合をT.Tでも再現したく、この三和土という屋外の素材を屋内で使用している。それによって、中と外の境線が消えて全てが一体になり、一つの空間として捉えられる。
 
また、「究極的に静寂な空間を作りたいというアイディアが元よりあり、一切の音を流していません。ここに来たら日常生活の雑音が全部消えるような空間であってほしいと思いました。神社に行く時に体験する、空気が変わる様な、崇高な感覚を持つ場であることも一つのコンセプトです」。と話す高橋。マインドをリセットできて日常生活にはないリズムを経験できるからこそ遠くても行く価値があるのではないか。
 
「物理的な体験は何にも代え難い経験だと思います。今の時代、手軽に得た情報は忘れるのも早く、自分の血肉となりません。例え行き着くまでに長い道のりがあるとしても、自分の糧となる経験を得るには目で見て何かを感じるしかありません」。

高橋の彫刻作品、「無限塔」。高橋がイサム・ノグチ日本財団理事長で石彫家である故和泉正敏氏と共に香川県の牟礼で制作したもの。

T.Tで使用されているハンガーは高橋の私物のコレクションで、アメリカのホテルやクリーニングサービスのアンティーク品。

T.Tの入り口。 元々の祇園町屋の玄関を保ちつつ、ロンドンのデザインスタジオOK-RMによって開発されたロゴが付着されているライトを 設置することで、伝統とモダンが交わる。

 
 

高橋大雅
1995年生まれ。10代に渡英し、セントラル・セント・マーチンズへ進学。アントワープやロンドンのメゾンブランドでアシスタントとして経験を積み、卒業後ニューヨークを拠点にブランド「タイガ・タカハシ」を設立。

 
京都市東山区祇園町南側 570-120
075-525-0402
(T.T) 075-525-4020
(祇園茶寮然美) @taigatakahashi @gionsaryosabi
 
◯Taiga Takahashi
https://taigatakahashi.com
 
 
 

Photo Yusuke Abe Interview & Text Mikuto Murayama
This article is included in

Silver N°14 Winter 2021-22

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