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The Aesthetics of Ageing

The Aesthetics of Ageing

経年変化の美学

モノは使われるほどに傷つき、色は褪せ、ついには輝きを失ってしまう。そうしてまた新しいモノが手に取られ、古いモノは捨てられるだけでなく、記憶の中からも消えてゆく。これは、消費社会と呼ばれる現代だからこそ生まれる不幸な価値観だ。そして、そこに対するアンチテーゼが経年変化という美学である。
経年変化とは、時を重ねるうちにモノの性質や性能に変化が起こることを指す。その不可逆な関係性に価値を見出し、自分と共にモノを育てることができれば、それは劣化するどころか新たな表情を見せ始める。それこそ、モノに対する愛情というものだ。そのことを意識したものづくりを行う4人に経年変化の美学を聞いた。

Hiroki Nakamura
visvim Designer

1 year of use
T.W.O. BOOTS-FOLK PROTOTYPE
ベジタブルタンニングを施した一枚革のホースハイドによるエンジニアブーツ。コードバンに発達し切っていない皮脂の残った革を爪先部分に使うことで、コントロールされていない自然なテクスチャーを生み出している。
Boots [Designer’s Own] by visvim
経年変化は生き様を映し出す
中村ヒロキ

3 months of use
FBT BEAR FOOT PROTOTYPE
ネイティブアメリカンの伝統的なモカシンからインスピレーションを得て、ブランド創設時からアップデートを繰り返し続けるFBTのプロトタイプ。ベジタブルタンニングで鞣した一枚革のエルクレザーは使い込んでいくほど柔らかく足に馴染み、透湿性が非常に高く、足が蒸れにくい構造となっている。
Sneaker [Designer’s Own] by visvim (F.I.L. TOKYO)
OLD VISVIM NEVER DIES

幸せと時を超えた美しさを探求したものづくりを続ける、ビズビム創設者でありデザイナーの中村ヒロキ。2000年のスタートから生み出し続けてきたプロダクトは、その機能性や品質の高さから世界中に支持を集めている。そんな彼がものづくりをする上で重要視しているのが、“長く使ってもらえるデザイン”であるということ。それを証明するため、ビズビムのプロダクトが時間と共にどう変わっていくのかを自ら観察した「OLD VISVIM NEVER DIES」というコンテンツを同ブランドのウェブにて公開している。これは経年変化の美しさに焦点を当て、彼の生み出したデザインが時の経過と共にどう表情を変えていくのかを紹介するというもの。これを始めたきっかけについて聞くと、「いろいろな角度のアプローチから長く使えるようなものづくりをしているけど、実際に経年変化したプロダクトに自分は愛着を持てているのかな?と思ったんです。自分たちがやっていることを検証する意味も込めて始めました」という答えが返ってきた。
 
実際にウェブを覗いてみると、4年間着込んだパーカや8年間使ったトートバッグ、子どもが履き続けたシューズなどが公開されている。それらはクタクタになったり、革が剥げたりしているが、ただの使い古されたモノという印象を全く与えない。むしろ、その変化がプロダクトに馴染み、より自然な姿となっているようにすら感じられる。「ビズビムのプロダクトはお店の商品棚に置かれてからが出発地点。
自分と一緒に育っていくようなデザインをしているので、時間が経つごとにもっと素敵な歳の取り方をしてほしいという思いを込めてます。僕みたいにホースで車を洗って靴を濡らしてしまう人もいれば、綺麗に手入れをして履く人もいる。人によってライフスタイルが全然違うから、それぞれのキャラクターや生き様を映し出すし、それでいて、そのモノがより輝いていくようなものづくりをしたいと思っています」。

1 year of use
UT.SATCHEL (L)
イタリアのリモンタ社による高密度なキャンバス生地に、フィッシュオイルで鞣したドイツ産のディアスキンを合わせたショルダーバック。元は黄色が強い発色だったが、中村が1年間ほど使用したことで、白っぽく褪せた落ち着きのある風合いに変化している。
Bag [Designer’s Own] by visvim (F.I.L. INDIGO CAMPING TRAILER)
ずっと好きで愛着を持てるデザイン

中村は経年変化の魅力についてこうも語る。「経年変化って、かっこいい、綺麗、パティーナ(ラテン語で経年変化の味わいの意)でしょ。でも、経年劣化の場合だと品質が低下していく。紙一重の違いなんだけど、僕の中ではしっかりした定義ができているんです。作り方も違えばプロセスも違う。作っていくうちに色々な発見があります」。
中村が話すその違いは、プロダクトの素材選びや革の鞣し方からも見て取れる。「レザーから薬品的なピグメントを除くと、透湿性と通気性が高まることに気付きました。つまり、いわゆるクロームではなくて、樹木や植物などから抽出した天然の渋を用いて革を鞣す“ベジタブルタンニン鞣し”をするということ。そうやって限りなくシンセティック(合成)ではない、動物の皮膚に近いレザーを作っていくと、裸足で履いても蒸れないし臭くもなりにくい。でも現実には、市場の需要の99%はクロームタンニングのレザーが主流で、ベジタブルタンニングは1%もない。クロームだと均一に鞣せて同じモノを大量生産できるから効率的なんですね。だけど、使っていくごとに劣化していくのも事実。でも僕は、ナチュラルな素材によって生まれる個体差が好きで。左右でちょっと違う柄になっても、そこにその人らしいチャーミングな内面が見えることに惹かれたり、美しさを感じます。僕はナチュラルなモノが好きだから使うのではなくて、いろいろと試していった結果、ナチュラルな素材に自然と行き着いたところがあります」。好きだからではなく、本当に良い素材だからこそ使う。この理に適った考え方が、ビズビムらしさのあるプロダクトとしてデザイン性を高め、時を経て使い続けられる品質に繋がるのだ。

1 year of use
BRIGADIER BOOTS MID-FOLK (VEGGIE SUEDE)
馬や自転車のサドルのレザーを作るスウェーデンのタンナーに別注し、ベジタブルタンニングを施したスウェードを使用している。一枚革を使用することで透湿性を高めている。ヒールカウンターのシワ感が、共にした時間の積み重ねを感じさせる。
Boots [Designer’s Own] by visvim

 
いかに長くプロダクトと付き合うことができるかを考え抜いたそのデザインには、国や時代をも超越して受け継がれてきた衣服やファブリックからアイデアを得たものも多く見受けられる。それらは、江戸時代の火消し半纏や、チベットの天然染色ブランケット、アルザス地方の羊飼いの傘など、古今東西の土着文化を中村自身が再解釈したもの。「昔ながらのコンストラクションや革の鞣し方という伝統的な手法や、そのデザインが生まれてきた背景にインスピレーションを受けます。それらの要素を現代のものづくりにつなげられるような役目をしたいと考えています。伝統を活かした素敵な手法やものづくりのやり方に需要が生まれるようにもしたいですね」。
 
 

愛着あるものを長く使える喜び

中村の経年変化に対する姿勢は、子を育てる感覚に近いのかもしれない。だからこそ、どれほどの愛情と心血を注いだものづくりをしているかがそのプロダクトから伝わってくる。時間と共に経年変化していくビズビムが、未来の伝統となることは明らかだ。「今年でビズビムをスタートさせて20年目になりますが、最初にコンセプトを考えた時に、長い間使えることに自分は喜びを感じているんだと気づきました。だから、一時期の流行に左右されず、ずっと好きだったり、愛着があって常に置いておきたいものをデザインしたいなと思っています。それぞれのライフスタイルを映し出すようなアイテムを作っていきたいです」。

1 year of use
SOCIAL SCULPTURE 01 SLIM RAW
インディゴ100%で、糸の設計や紡績、スラブの長さ、ロープ染色までオリジナルで開発。縦糸と横糸のバランスを変えることで、生デニムだが柔らかい履き心地を生んでいる。リジットから1年間でここまで育て上げている。
Denim Pants [Designer’s Own] by visvim

 
 

中村ヒロキ

2000年にvisvimを創設。伝統と最先端の技術を革新的に組み合わせ、国や時代をも超越した長く愛されるデザインと品質は、世界中の様々な層から支持されている。

 
 
 

Photo Taijun Hiramoto Interview & Text Yutaro Okamoto Edit Satoru Komura Yutaro Okamoto

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