キャッシュレス化が進み、スマートフォンさえあればお金のやり取りが済む現代。効率的で便利だが、どこか無機質でスタイルもない。だからこそ、長く使い込まれた革財布を扱う仕草に男らしさを感じるのかもしれない。フィグベルのトラッカーウォレットは、そんな無骨さを感じさせながらも、繊細で上品さを兼ね備えている。同ブランドのデザイナーである東野は、アイテムを作っていく上でこのようなことを心掛けていると言う。「友人やスタッフの着用しているモノを見て、色の変化や生地感の微差を検証し、時間が経ったときの状態を想像しながらものづくりをしています。そうして生まれるアイテム一つにしても、人による扱い方や着用の仕方で全く違う雰囲気を醸し出すんです。しっかりとケアをしながら丁寧に使ってもらえたら嬉しい。そうすることで愛着だけでなく、品が生まれると思うんですよね」。長く使えばプロダクトを持つ人の主観的な感情である愛着だけでなく、品が滲み出るという東野。つまりは経年変化したアイテムから、それを使う人間の本当の姿が見えてくるというわけだ。そんな視点でモノを見たことがなかったが、そうして見てみると実におもしろいし、モノに対する興味も強くなる。今回見せてもらったトラッカーウォレットは、東野自身が7年間使用しているというモノ。ヌメ革の色味は深みを増し、コインケース部分のファスナー跡がくっきりと刻まれ、いつもズボンのポケットに入れ、肌身離さず持っていたことが伺える。モノを大切に身につける東野のライフスタイルや気骨を感じさせる独特の美しさがある。「50年代のトラッカーウォレットを参考にしたのですが、当時のモノはサイズが大きいので、モダンで収まりのよいサイズ感が欲しくなって作りました。また、艶と色のフェード感も意識しています。昔のエンジニアブーツやワークシューズなどでトップの色が抜けて下地の色が出てくるような風合いが好きなので、それをウォレットに置き換えました。モノが溢れている今だからこそ、一点一点によりフォーカスして作っていきたいですね。それがアイテムを大切にすることにも繋がるのではないでしょうか」。モノを大切にし、丁寧に扱うことによってそのモノを持つ人も輝く。タフで品格のあるフィグベルのプロダクトは長く使うことによってそんな魅力を引き出してくれる。長く愛用され、かっこいいと感じさせるような経年変化は、それを持つ人間が魅力的だからこそ生まれるものなのだと改めて痛感させられた。
2002年に“NEW CLASSIC”をコンセプトとしたPHIGVELを創設。普遍的なアメリカンカジュアルを再解釈したアイテムは、良質な素材が用いられ、パターンやディテールが繊細に作り込まれ、男らしさと上品さを兼ね備えたモダンなクラシックを体現している。
Photo Taijun Hiramoto | Interview & Text Yutaro Okamoto | Edit Satoru Komura Yutaro Okamoto |