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The Aesthetics of Ageing

The Aesthetics of Ageing

経年変化の美学

モノは使われるほどに傷つき、色は褪せ、ついには輝きを失ってしまう。そうしてまた新しいモノが手に取られ、古いモノは捨てられるだけでなく、記憶の中からも消えてゆく。これは、消費社会と呼ばれる現代だからこそ生まれる不幸な価値観だ。そして、そこに対するアンチテーゼが経年変化という美学である。
経年変化とは、時を重ねるうちにモノの性質や性能に変化が起こることを指す。その不可逆な関係性に価値を見出し、自分と共にモノを育てることができれば、それは劣化するどころか新たな表情を見せ始める。それこそ、モノに対する愛情というものだ。そのことを意識したものづくりを行う4人に経年変化の美学を聞いた。

Ryo Kashiwazaki
Hender Scheme Designer

L to R
1 year of use front gore
4 years of use old end Ridgeway
3 years of use new standard loafer
 
毎シーズン展開しているオーセンティックなレザーシューズ。一般的なシューズのパターンよりも甲を3~5mm浅くし、美観的なバランスの均衡が取れるようにデザインしている。柏崎の私物で、左から1年、4年、3年と柏崎が履き込んだもの。シワ感や深みを増したヌメ革、磨き上げられたアッパーの光沢といった変化から、柏崎のものに対する優しさを感じられる。
 
L to R
front gore
old end Ridgeway
new standard loafer
[Designer’s Own] by Hender Scheme (sukima Ebisu)

 
 
経年変化を語る上で外すことができないのがレザーシューズ。老いも若きも男女を問わずに愛され続けるこのアイテムは、日々の生活に規律と程よい緊張感を与えてくれる。だからこそ、長い時間を安心して共に過ごせる一足に出会いたいもの。そんなプロダクトを生み出しているのが、浅草にアトリエと工房を構え、職人による手工業で温かみのあるレザーアイテムを数多く展開するエンダースキーマだ。そのデザイナーである柏崎亮の経年変化に対する美学とは。
 
 

履くことで完成品になっていく

「プロダクトを作る際には、履くことで完成品になっていくことを前提に、製品が出来上がってお店に置かれているイメージのその先のプロダクトが使われる場所や場面を想像しています。もともとツールである靴は、それぞれが役目をしっかりと果たすことで自然に馴染んでくるのです」。彼は大学で心理学を専攻していたためか、客観的にものづくりを分析しており、その本質を的確に捉えている。プロダクトがツールとしての役目をどれだけ果たせるかは重要なこと。そしてその役目を果たし続ければ、モノは自分に馴染み始め、ツール以上の価値を生むことにつながる。それこそが経年変化なのである。今回紹介してもらった3足のレザーシューズは、どれも柏崎自身が数年単位で愛用したプロダクト。シワの表情や、ヌメ革独特の色艶が生まれたライニング(裏地)、丁寧に磨き込まれた深みあるアッパーなど、どれもプロダクトとして成熟した雰囲気を醸し出している。このように履き込まれた後の姿まで考え抜かれたエンダースキーマのシューズだが、彼自身は使っていく中でどう感じているのだろうか。「使う頻度がバラバラなので一概には言えませんが、履き込んだモデルに、より愛着が湧くことが嬉しいです。時間の経過や、その過程での記憶などはお金で買えないので、すり減ったソールやレザーのシワを介して様々なことを思い出すと、しみじみと感じるものがあります。個人的には、エイジングに意気込むよりは、使ってるうちに表情が変わってくることに気づき、より愛着を感じることが自然な流れなのかな」。経年変化は、モノを大切に使い続けることで生まれる副作用のようなもの。お気に入りのモノに傷や汚れが付くと、その時は気分が落ち込んでしまう。だが、時間が経ってから改めてその部分を見返すと、その時の気分や情景が心に浮かんでくる。そのようにモノに刻まれるのは傷なんかではなく、記憶や思い出なのかもしれない。そこに価値や喜びを見出すことが、経年変化という美学なのだ。
 

時間の経過や記憶はお金では買えない
柏崎亮

 

ボロボロでも格好良い靴はたくさんある

今年で10年目を迎えるエンダースキーマ。使われるシーンできちんと役目を果たすようデザインされたレザーシューズや、名作スニーカーをヌメ革を用いて手工業で製作した“オマージュライン”など、どれも時間と共に変化していく姿を楽しみにさせてくれるアイテムを作り続けている。柏崎はデザイナーとして、自身が生み出したプロダクトをどう使ってほしいのだろうか。「使い方や楽しみ方に正解はありません。それぞれの生活に馴染むように作っているので、雑に履くのも几帳面に履くのも、それぞれのスタイルがあって良い。手入れもされずボロボロでも、格好良い靴はたくさんあります。そうやって様々なアプローチでデザインを更新しながら、これからも自由にものづくりを継続していきたいです」。ツールという使命を強く背負って生み出されるエンダースキーマのプロダクト。そのことを忘れずに自分なりのスタイルで使い込めば、それは自分にだけ馴染んだ職人の道具のような存在となる。ほかの誰にも真似することのできない唯一のツール。そこにたどり着くまでに時間はかかるかもしれないが、その過程も含めて経年変化を楽しんでほしい。
 
 

柏崎 亮

2010年にHender Schemeを創設。大学在学中に靴工房に勤めていたことをきっかけに、革を使ったものづくりを始める。浅草にアトリエを構え、職人の手工業により生み出しているそのプロダクトを「manufacture」と呼んでいる。
 
 
 

Photo Taijun Hiramoto Interview & Text Yutaro Okamoto Edit Satoru Komura Yutaro Okamoto

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