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Paula Gerbase
JOHN LOBB Artistic Director 時を大切にする人のリスペクトタイム

食事、家族、仕事、恋人、趣味、睡眠...我々は日々の暮らしの中でさまざまな人やことに時間を使っていくわけだが、時間を使う上で大切なことは何だろう。答えは人の数ほどあるかもしれないが、重要なのは誰にも平等な時間という価値を、自分の中でしっかりと理解することなのではないだろうか。ここではそんな時間について、多忙な中で日々考え、その哲学をブランドのディレクションにも活かしている海外のディレクター2人に色々と聞いてみた。彼らは限りある時間をどんな人やモノと、どのように過ごしているのか。彼らにとって時間の価値とは何なのか。時間について深く考え、行動する彼らから、人生を豊かにするヒントを見つけてほしい。

Paula Gerbase
JOHN LOBB Artistic Director 時を大切にする人のリスペクトタイム

食事、家族、仕事、恋人、趣味、睡眠...我々は日々の暮らしの中でさまざまな人やことに時間を使っていくわけだが、時間を使う上で大切なことは何だろう。答えは人の数ほどあるかもしれないが、重要なのは誰にも平等な時間という価値を、自分の中でしっかりと理解することなのではないだろうか。ここではそんな時間について、多忙な中で日々考え、その哲学をブランドのディレクションにも活かしている海外のディレクター2人に色々と聞いてみた。彼らは限りある時間をどんな人やモノと、どのように過ごしているのか。彼らにとって時間の価値とは何なのか。時間について深く考え、行動する彼らから、人生を豊かにするヒントを見つけてほしい。

スピードを上げる以外に、人生にはもっと多くのことがある
パウラ・ジェルバーゼ
デジタル領域の外で
体験をしている時が一番幸せ

1866年から続くジョンロブの伝統を受け継ぎ、モダンなものとして現代にその魅力を伝えるパウラ・ジェルバーゼ。彼女は時間について深く考えている。それを知ったのはロンドンから400kmも離れたコーンウォールで行われた“Spring Walk”というジョンロブの新商品イベントについて聞いた時だった。創業者が生まれ育った電波もつながりづらい場所にわざわざ足を運び、参加者と物事を共有するというその時間の使い方は、便利な現代においてとてもアナログで、とても豊かなものだと感じていた。そんな彼女に時間について聞いてみたい。そう考えたことがきっかけとなり実現した今回の取材。まず単刀直入に彼女が時間を使う上で最も大切にしていることについて聞いてみた。
 
「私はデジタル領域の外で人生を体験している時が一番幸せです。スマートフォンを片付け、その場にいること、自分のエネルギーを保護することを心がけています。メール、テキストメッセージ、電話、ソーシャルメディアなど、日常生活からの要求が非常に多いため、困難な場合もありますが、実際に生活を体験することが重要なのです。人生は私たちのデジタルデバイスの外で起こります。デバイスはコミュニケーションのための素晴らしいツールですが、それは目的のための手段であり、体験が起こる場所ではありません。ものづくりにおいて、周りの人達と過ごすことや実体験をすることは本当に重要なのです。私は自分の時間を非常に重視していて、使い方をバランスできるように毎日静けさのある時間を作っています」。
情報にあふれた現代において、デジタルと適度な距離感で付き合い、自分の時間を重視しているという彼女は、時間を使った実体験こそが人生を豊かにすると知っている。では実際に彼女はアーティスティック・ディレクターとして働きながらどのように自分の時間を使っているのだろうか。
「幸運なことに私の興味の多くが仕事の中で刺激を与えてくれているので、休日には、通常のデザインプロセスのさまざまな側面を刺激できる活動を行っています。とは言っても休みの日に意識してインスピレーションを求めることは少ないです。コンピューターにまったく触れないように意識し、自由な時間はハイキング、登山、スキーツアーなどアクティブな時間を過ごすことが好きです。街中にいる時はランニングもするし、家や公園で読書をすることも刺激になっています。増え続ける膨大な本を何時間もかけて読むことは楽しみの一つです」。
 
自ら体を動かすために外へ出かけ、知識を求めて本を開く。オンラインでは決してできない彼女の時間の使い方はある種アナログでありながら、とても健全であり、人間的であると感じさせてくれる。

Left: 実際に体験をする時間に価値があると考えているパウラは、休日にはハイキング、登山、スキーなど家から出てアクティブに動き回る。壮大な自然の美しさに魅せられ、世界中のさまざまな場所へ足を運ぶ彼女。山の頂上で新商品のアイディアが浮かぶことも少なくないという。
Center, Right: 増え続ける本のコレクション。アーティスティック・ディレクターという職業柄、ロベール・マレ・ステヴァンス、ヘルムート・ニュートンを始め建築、写真、アートに関する多数の本を所有する彼女。時間を表現したアーティスト、河原温の本も見つけることができる。

 
 

“Less is more”の精神で
長い間大切にする

読書、ランニング、スキーに登山。人生の中で実体験をする時間とそれから得られるかけがえのない経験を大切にしているパウラ。そんな彼女は、日々の暮らしを共にするモノにおいてもそれに通ずる自分だけの価値観を持っている。
 
「私は常に自分の生活の中で品質のあるものを使い、“Less is more”のアプローチで長い間大切にしてきました。これは必ずしも高価であるという意味ではありませんが、私にとって意味があり、長く愛せると分かっているものです。私が大事にしているものの1つが10年以上かけて収集した乾燥植物のコレクション。現在いくつかの大きなヤシの木、さまざまな種類のヤシ、アガベ、ユッカ、サボテンなど35を超える植物があります。年月とともに進化し、成長し続けるこの命あるコレクションを育てることは非常にやりがいを感じますし、それにかける時間は毎日のケアと内省の瞬間を私に与えてくれます」。
 
日々の暮らしの中のルーティンとして、植物を愛でる時間を作り、落ち着いて自己を振り返る。その時間の使い方は本当に“豊か”であり、人生をよりよくしてくれるもの。スマートフォンを眺める時間よりも何倍も貴重なものではないだろうか。パウラの時間に対する考えを聞いていると、そんな思いが浮かんでくる。また、旅行するときにはいつも自分のいる場所から小さな石を拾ってくるほか、自宅の周りに点在するさまざまな色や形の小石もコレクションしているという彼女。自然を愛し、自然から学ぼうというマインドがここにもうかがえる。
 
「私が長年にわたって手に入れ、大切にしているアイテムの多くは、人工的にデザインされたものではなく、自然によって発見され形成されたものです。製品に関して言えば、私が最も大切にしているのは、サヴィル・ロウのスーツ、ジョンロブのシューズとブーツなど、職人の手によって生み出されたものです。特にアルダーブーツはハイキングや街歩きで数え切れないほど履き続けてきましたが、それは何年もかけて私の一部になったと感じています。30年後も履き続けて、その過程で革がどのように成長していくかも楽しみにしているのです」。

Left,Center: 10年以上の長い時間をかけて収集したという彼女の植物コレクションの一部。水やり、草抜きなど、毎日世話をするその時間は、日々成長する植物のためだけではなく、多忙な中でパウラが自身を省みるためにも必要な貴重なものだという。
Right: 旅行先や自宅の周辺で拾い集めているという小石は、自然に魅せられた彼女らしいコレクション。二つとして同じ形はなく、その一つ一つに長く様々な歴史とストーリーがある。人工では作り出せない自然が生み出す無二の造形美に地球のロマンを感じる。

 
 

生涯にわたって
1足の靴と付き合い続ける

自分が良いと思えるものを時間をかけてゆっくりと長く愛し、時間の経過と共に起きるその変化、成長を楽しむ。彼女のライフスタイルは、ジョンロブのシューズの魅力、ブランドの哲学とも一致する。150年以上にわたり、世界中の人々から長く愛されるジョンロブの靴。レザーをはじめ、各パーツに採用される高品質な素材、受け継がれ続ける職人の手から生み出される確かなものづくり、履けば履くほど増す味わい、飽きのこないシンプルなデザイン。長い歴史が積み上げたストーリーと信頼がそこにはある。
 
「設立以来、ブランドの中心には“持続”という哲学があります。それは製品の品質だけでなく、プロセス、職人、そしてお客様と私たちのコミュニティにとっても重要なものであり、着用者と靴自体の間にも生涯の関係を作るための鍵です。品質の高い靴は愛用され、大切にされる。そんな人々に対して私たちは生涯にわたって付き合い、製品を進化させ続けます。その関係性は現代では非常に珍しいと言えるでしょう。サステナビリティはすべてのジョンロブ製品の中心です。生涯履けるように作られているレザーシューズに対し、私たちはデザイナーとしてすべてに対する責任を負っています。製品開発に関して持続できる方法をとっていることはもちろん、信頼できる取引先から調達されている確かな素材を使用し、製品が1シーズンだけでなく、長期間耐えられるようにテストを繰り返し、設計しています。新製品を作成する時間も非常に多様です。インスピレーションを求めてパリのオーダーメイドのアーカイブに飛び込んで、前世紀の過去のモデルを見て、手作りで細部まで作り込まれたその構築方法を研究したりしています。毎シーズン、私は時間をかけて、ノーザンプトンの職人と製品開発チームと話し合い、ジョンロブのアイテムが常にこれまでのものと整合性が取れているか、品質は問題ないか、ケアはしっかりできているかを確認しています。ジョンロブでは常に製品が30年後でも問題なく履き続けられるかを考え、デザインしているのです」。
 
山を登るときも、仕事に出かけるときも、街をふらっと歩くときも。生涯にわたって1足の靴と付き合い続ける。そこに付いた傷や汚れまでもが味となり、個性となって持つものだけの輝きとなる。人生をともにする靴という考え方はとても素敵だ。この“持続”の哲学はジョンロブならではの永久保証というサービスからも裏付けられる。これは1度ジョンロブの靴を手に入れれば、劣化しても破れても、一生修理を行ってもらえるというもの。長い目で見れば、10足のスニーカーを買うよりもよっぽど価値があるはずだ。これらのシステムを含めたジョンロブの哲学は、現在のファッション業界で声高に叫ばれているサステナビリティの先駆けと言えるだろう。長く愛され続けるものには理由がある。ジョンロブのレザーシューズから学ぶことは多い。

パウラ自ら愛用し続けるジョンロブのレザーシューズ。大好きな山登りでも履き続け、自身の一部になったというアルダーブーツ(写真上)をはじめ、代表的モデルであるウィリアム(写真中上)、伝統的なシングルレザーソールを採用したシティーII(写真中上)、さらにはサンダルタイプのもの(写真下)など、様々なモデルを履き続けている。150年以上に渡って、脈々と受け継がれてきた職人たちのクラフトマンシップが息づくクオリティの高いアイテムは、シンプルなデザインゆえ、さまざまな着こなしに合わせることができる。

 
 

生きている瞬間が
意味あるものになるように

時間の価値をしっかりと考え、その価値観に基づいて、そばに置くものを選び、行動しているパウラだが、その価値観はどのように生まれたのだろうか。そんな質問を投げかけると、数年前と現在では時間に対する考えは違っているという答えが返ってきた。
「数年前、私はおそらく今ほど自分の時間を守っていなかったでしょう。きっとその時は“いつもどこにでもいなければならない”と感じていたのかもしれませんね。でも年月を重ねるにつれて、多くの物事を経験することがよいわけではないと思うようになったんです。歳を重ねるにつれて、物事に“いいえ”と言うことがますます重要になり、自分の時間をより大切にできるようになりました。仕事中でも休暇中でも、生きている瞬間が意味のあるものになるように意識しています。経験の質は選択的に時間を過ごす能力と選択した経験を大切にする能力に関係すると思っています」。
 
パウラが口にしたように、全てを経験し、吸収したいと考えていたとしても、生きていればさまざまな場面で物事を取捨選択する必要が出てくる。歳を重ねれば重ねるだけ、そうした場面に出会う機会が多ければ多いだけ、その選択方法は明確となっていくのだろう。それこそが人の生き様であり、それは人生の経年変化がなしうる技と呼んでも良いのかもしれない。
多忙な中でも自分らしくいる彼女は、最後にこんな言葉を残してくれた。
「品質と人間性を中核とするジョンロブで働いている私にとって、スピードは仕事の本質ではありません。忙しい時はもちろんありますが、そんなスケジュールの中でさえバランスを見つけることは難しくないのです。私は製品と同じ価値観を持ち、時間をかけ、私の周りの世界に感謝し、思慮深く、バランスの取れた存在として生きたいと思っています。私の価値観はジョンロブの価値観とかなり似ているのです。自然との時間、家族や友人との時間、世界の旅と探検など、常に動くことで学び、発見することはたくさんあります。時間は貴重です。スピードを上げる以外に、人生にはもっと多くのことがあるのです」。
 
しっかりと整理された時間に対するその言葉は、まるでジョンロブのシューズのように美しく、また考え抜かれた重みがあった。

多くの時間を過ごすパウラの自宅の一部。バウハウスの第3代校長、ミース・ファン・デル・ローエの名言である「Less is more」を実践している彼女。椅子、テーブル、本棚に花瓶など、シンプルで飽きのこない長く愛せるデザインをチョイスしているのがよくわかる。


 
 
 
パウラ・ジェルバーゼ
2014年、ジョンロブのアーティスティックディレクターに就任。150年超の歴史を持つブランドの伝統に敬意を払いながら、モダンなセンスを織り交ぜ、様々な方法で現代にその魅力を伝え続けている
 
 
 

Photo John Lobb Interview & Text Satoru Komura

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