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Mame Kurogouchi 工芸や自然、日常から得た発想を
現代的に落とし込み新たな形へ

Mame Kurogouchi 工芸や自然、日常から得た発想を
現代的に落とし込み新たな形へ




 
 

目の前に存在する美しさを
どのように洋服に落とし込むか

 
昨年でブランド創設10周年という節目を迎えたマメクロゴウチ。デザイナー黒河内真衣子の故郷である長野県にて、これまでの10年を振り返る展示が行われていたことも記憶に新しい。マメのシーズンコレクションのテーマは夢や記憶という概念的なものから、工芸などの形あるものまで実に多彩でありながら、黒河内自身の経験を洋服に落とし込んでいくのが特徴。見た目としての美しさと、身に纏うことで初めて理解できるようなコンセプチュアルかつ独創的な世界観も持ち合わせるコレクション群も魅力のひとつと言えるだろう。
 
これまでにさまざまなテーマで展開されてきたブランドのものづくりだが、クラフツマンシップという観点において一貫しているのは、日常の中に存在する美しさをいかにして洋服に落とし込むか、という黒河内の考え方だ。それは2020年秋冬シーズンの『Embracing』というコレクションの中で登場した、花籠から着想を得て製作されたジャケットからも読み取ることができる。日本の伝統包装の美しい形や、モノを包むという行為自体の日本独自の美的感覚に焦点を当て、アートディレクターの岡秀之が編集した『包TSUTSUMU』に感銘を受けた黒河内が、手編みの花籠の格子パターンと、自身がアイスランドで感じた自然に包まれる感覚を融合させ、コード刺繍で表現したジャケットだ。特徴的な硬い表情の素材でレースのように見えるものは、靴紐を作る工場で製作したオリジナルのリネンの紐を「かご」を編むように一筆書きで刺繍を施している。日本古来のクラフトが持つシルエットや造形を、現代の技術を用いて洋服として形作っていくという、まさにブランドのモダンクラフツマンシップを象徴するプロダクトと言っても過言ではない。
 
ブランドならではの技術として先述したレースや刺繍、ニットなどがあるが、多彩な編み方を共存させたパターンなどはプロ『Embracing』というコレクションの中で登場した、花籠から着想を得て製作されたジャケットからも読み取ることができる。ブランドならではの技術として先述したレースや刺繍、ニットなどがあるが、多彩な編み方を共存させたパターンなどはプログラミング技術を用いて作ることもある。一方で職人の手によって丹念に作り上げるプロダクトも存在するなど、最先端の技術から職人の手仕事まで、さまざまなクラフツマンシップにブランドとしての深さを感じる。
 
「もともと私の育った環境の中には様々な手仕事から生まれたものが溢れていました。それらの中には骨董や美術作品とは呼べない様な民具や農具もありましたが、実に美しく、そのものたちが生まれた背景には物語がありました。それらが私を魅了するのは、全て人々の生活に根差し、生活の向上のための『道具』でありながら、そこに圧倒的な美しさを持っていたということです。そういった日常の中で接することのできるモノの美しさから私自身多くを教わったと思います。私はそれらを見て、当時の人々がどれほど丁寧に日常へ目線を投げかけていたかということを考えます。マメの洋服もまた、私が私の日常のなかで見つけた美しさを再構築し、形にしたもの。洋服は人が袖を通して初めて成り立つものですから、私が心動かされた多くのクラフツマンシップに溢れるものが圧倒的な美しさを持っていたように、自分の生み出したその1着が単純に美しいのかどうか、といつも自分自身に問いかけます。そしてそれらを纏って女性たちの日常が少しでも豊かになってくれることを願っているんです。例えば美しいお茶碗でご飯を食べている時、それを創った方の顔を思い出すととても幸せな気持ちになります。そこには確かな技術力、造型力があってのことですが、その人との些細な思い出を懐かしんだりしている時にとても幸せを感じます。それがほかの人にとってはどうでも良いような些細な思い出であればあるほど、愛おしく思えるんです。私はモノを生み出すときにそういった、道草のようなものを大切にしています。それは私にしか説明できないストーリーであり、どの本にも載っていないもの。それらを現代の確かな技術力と共に洋服という1着に注ぎ込めたらと常に考えているんです」。
 
このように黒河内は日常の中にある美に対して常に感覚を研ぎ澄ましている。特に窓をテーマにした今季21FWのコレクションはより日常に寄り添ったテーマで展開。月明かりや淡い夕陽の光が、窓に備え付けられたブラインドから優しく差し込む様子を、プリーツが描き出す線や日本の伝統的な染色方法である板締め絞りによる微細な色の濃淡によって表現したドレスはその代表的なプロダクトだ。工場は自身の足で探し出し、納得のいく形になるまで職人と徹底的に詰めていく。黒河内の日常の周りにある些細な美しさは、妥協なきこだわりの過程を経てプロダクトに落とし込まれていくのだ。
 
「マメのものづくりは、私のとても私的なインスピレーションから生まれたデザインが、1本の糸とめぐり合い、伝統の技術と最新のテクノロジーを融合することで1着の洋服に生まれ変わるものです。その1着が生まれるまでの間にはとても長い旅路があり、その旅を経てお客様の手元にたどり着いた洋服は、そこからまた新たな旅を始めることになります。その過程が、洋服そのものと同じくらい面白いことだと私は感じているんです。着ている洋服がどのように作られたのか、私たちがなぜものづくりを続けているのかということをもっと伝えていきたい。私たちのものづくりを通して、その背景にある技術や、それを支える職人さん、文化などの背景にみなさんが興味を持ってくだされば幸せだと思っています」。
 
伝統的な工芸や技術そのものに歴史的価値があるかどうかではなく、それらがいかに当時から人々の生活に根ざしたものであったか。そんな日常の生活の中に宿る美しい形や技術を、現代の女性が着る服として新たな命を吹き込んでいく。黒河内のインスピレーションから紡ぎ出される洋服という物語は、洋服が完成すれば終わりではない。マメを着る女性の数だけ、物語は未来へと続いていく。1着をめぐるこのストーリーもまた、ブランドが体現するクラフツマンシップと言えるだろう。



より日常からのインスピレーションを重視した21SSシーズンテーマの「Window」のイメージビジュアル。引っ越すと誰もが最初に決めるものであるが、引っ越し後に忘れ去られるものでもある哀愁漂う存在であるカーテンには「住んでいた人の時間がしみ込んでいるのではないか」という発想のもと、コレクションを展開している。その発想がとてもユニークでありつつも、それを形にするブランドのクラフツマンシップがあってこそ実現するコレクションだろう。

ジャガード織機でしか織ることのできない細かなメッシュに、強度の違う経糸と緯糸を撚り合わせることによって、カーテンよりインスピレーションを受けデザインされた生地へと姿を変えていく。インスピレーションから実際に洋服として形になるまでの物語はブランドサイト内の「THE STORY」でも見ることができる。

 
 

美しさには忠実に
変化には敏感に

 
ではそんなマメのインスピレーションはどのようなものから得て、コレクションテーマはどのようにして育まれていくのだろう。
 
2019年には黒河内の私的な日記に焦点を当てて構築されたシーズンがあった。モレスキンのノートに、自身の撮影したポラロイド写真と日記を書き出し、対となるページに洋服のデッサンを描いていく。やはり日常に寄り添ったものをインスピレーションソースとしてテーマに落とし込んでいくことが多いようだ。
 
「私は移ろいゆくものに美しさを感じることが多いです。私にとって美しさは年齢や季節、環境によって変わっていくもので、明確な定義はないように思います。変化は恐れの対象ではなく、移ろいの中にあって朽ちないもの、時間の経過を経ても変わらず美しいと思えるものがあるということに気づくことが大切ですよね。だからこそ私にとってのインスピレーションは常に日常の中にあるんです。初めは暗闇の中を地図もなく歩くような感覚で、目の前にある小さな石を拾い集めながら手探りで前に進んでいきます。するとある時集めてきた小さな石が、いつの間にか大きな岩になっていることに気づきます。その時、私は今これが気になっているんだ、と気がつくことができ、そうしてシーズンテーマが生まれるんです」。

 
またインスピレーションを育んでいく上でもうひとつの欠かせない要素であり、ブランドのキーワードとしても重要な位置を占めるのが「旅」だ。ここから黒河内が得た経験や職人との出会い、ふと目にした景色などはすべてデザインの糧へとなっていく。
 
「旅は私の生活の一部であり、その多くは地方の工場さんや職人さんを訪ねるものであったり、文化を学びにいくものです。同時に私は女性にとっての旅は物理的な移動だけではないと思っています。近所を歩くことも、会社へ向かう道も、妄想ですら、旅になりえると思っています。日常のふとしたシーンを旅へと変える、そんな力が洋服にはあると信じていますし、私たちの洋服はそうであって欲しいと願っています。そういった『旅』から洋服は生まれていますので、ブランドのDNAそのものと言えますね。コロナ禍における社会や環境の変化は、そうした私の生活の中心であった移動や全国各地の工場さんを訪ねる旅を大きく制限するものとなった一方で、これまで以上に自宅やアトリエの近辺を散策する時間を持てるようになりました。そのような変化により、これまで見逃してしまっていた身近な美しさを発見できたと思っているのは私だけではないと思います。また、ブランド設立から10年を迎えたタイミングで、『マメとは何か』や私たちらしさとは何かということをゆっくりと考えることができたのもポジティブに捉えられる変化でした。そして気づいたことは私たちは10年間、変わらない信念の下でものづくりをしていたということです。ものづくりはこの10年で非常に難しい時代に突入しましたが、私たちができる何よりも大切なことは、これからも変わらずに工場さんと継続的な仕事を行い、消えゆく技術を絶やさないように、一着のストーリーを丁寧に紡いでいくこと。また古いもの新しいものという概念ではなく、今の自分の価値観で両方を大切にしながらものづくりを続けていきたいなと思っています。多くの熟練した技術や手仕事が日本から消えたのは、時代の変化とともに需要がなくなったからです。そういった意味でも洋服の世界では、何が必要で何が求められるのか、ということに敏感でありたいです。その結果、美しい洋服という形で表現し続けられるのであれば、皆様の手元で長く愛されるものになると思うのです。そういうことを変わらず、続けていきたいと思っています」。

旅先で漁港を訪れた際に目にした魚網やビニールシートとアイスランドの景色。インスピレーションとなるのは必ずしも形のあるものではない。私たちの日常のすぐそばにある意外なものに美を見出したり、旅先のふと目にした光景であったり。そのすべての蓄積がいつの日か洋服のデザインとしてアウトプットされていく。

 
美しさには忠実に、変化には敏感に。繊細でいて、同時に力強さを感じる洋服デザインのベースには、そんな変わらない信念が宿っていた。日本をはじめ世界に存在するまだ見ぬ美を独自の視点から切り取っていくマメクロゴウチの挑戦はこれからも続いていく。美しいものや文化、職人たちの技術にマメのクラフツマンシップが交わり紡ぎ出す物語を、今を生きるより多くの女性たちに届けていくために。
 
 
◯Mame Kurogouchi
https://www.mamekurogouchi.com
 
 
 

Photo Yuichiro Noda
Ichiro Mishima
Toru Oshima
Edit & Text Shohei Kawamura

 

This article is included in

Silver N°13 Autumn 2021

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