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Interview
with Yoshihito Sakaya

Interview
with Yoshihito Sakaya

モダンクラフツマンシップが在る空間
PHAETON 坂矢悠詞人の審美眼

 

良いということを瞬間的に見抜く
それを“瞬目惚れ”と呼びます

 
インターネットショッピングが台頭している時代において、路面店として高成長を続け、全国から注目を集め続けているセレクトショップがある。石川県加賀市のセレクトショップ、フェートンがそれだ。お店のセレクトを見ても、トゥーグッドやフラテッリ ジャコメッティ、イザベラ・ステファネッリなど、アーティスト気質なブランドが多い。それだけではなく、近年オープンした香水の専門店、「フェートン フレグランス ロングバー」や紅茶のサロン「ティートン」などを手がける同店の挑戦的な姿勢にはクラフツマンシップを感じていた。フェートンの代表である坂矢悠詞人に、モダン+クラフツマンシップについて、そして、モノ選びの審美眼について話を聞いた。
 
「年間、目を疑うほどの数のブランドからお店で扱って欲しいというオファーをいただきます。しかし、お店で置いているブランドは、ほとんどが紹介によるもの。例えば、海外で紹介されたのがお店で今販売しているイザベラ(・ステファネッッリ)だったりします。彼女に初めて会った時はとんでもない人に出会ったと思いましたね。そういった瞬間的な出会いを僕は大切にしています。そんな出会いによる感動を僕は、“瞬目惚れ”と呼ぶのです。一目惚れの一段上ですね」。
 
坂矢が大切にする直感とも似た、瞬目惚れという表現。瞬目惚れしたアイテムは、すぐにお店に置かれるのではなく、1年くらいはとにかく自身で着続けるようだ。
 
「それでテンションが上がるか、上がらないかを見極めます。本当に惚れ込んだアイテムであれば、そのシーズンのモノを大量に購入し、翌年もフェートンで販売することも多々あります。次のシーズンになれば価値が落ちるようなモノはうちでは扱いません。それほど惚れ込んだアイテムを扱っているので、セールはフェートンではもってのほかなんです」。
 
多くのショップが、セールありきの販売が当たり前になっている中で、坂矢のそのスタンスは強気にも思えるが、事実、フェートンはどこのセレクトショップよりも販売数の多いブランドがあり、来店者の8割以上は県外からだという。東京やほかの街にもセレクトショップは数多くある上、前述したようにインターネットでの買い物が当たり前になっている現代において、お世辞にも行きやすいとは言えない場所にあるフェートンが、なぜ服好きを魅了するのか。このお店でしか買わない、坂矢からしか買わないというファンがなぜ増え続けているのか。そういった魅力が、坂矢の言葉から紐解かれていく。
 
「なぜかというと、僕はつまみ食いをしないんですよ。良いと思えば、とことん向き合う。だからトゥーグッドを世界でも群を抜いて販売するお店になってゆくんです。そうすることで、お客さんにも本気で勧めることができる。そして、価値を分かってくれるお客さんがすごく多いんです」。良いモノをお客さんに届けたいという熱意は、言葉の節々から滲むように伝わってくる。

ティートンの屋上から眺めた景色は周りに建物がなく空が広い。反対側を望むと日本海が広がっており、この景観こそが
フェートンをこの場所にオープンした理由だという。写真に写っている球体はツリーハウスである。

フェートンの入り口付近に置かれた石は奈良時代の元興寺の礎石。こういうものも10年前であれば、お金があっても感性が追いついていなかったようだ。「石の置き方がわかるようになって、初めて石が近寄ってくるんです」と坂矢。

フェートンの周りには石や水、植物が意図的に配置されており、空間作りには間を大切にしているようだ。庭に植えられている植物は、「雑木林しか興味がない」という坂矢が1本ずつ山に買いに行っている。

馬の餌入れとして使われていたという紀元前の飼葉桶。このような石の美しさに興味を持ったのは、庭石が好きで集めていた父からの影響が強いようだ。時間が経ったことで表れるトロッとした質感が魅力。

 
 

石川でお店を展開する理由

 
これほどまでにお客さんやブランドから絶大な信頼を得るフェートンなら、石川ではなく東京にあっても大成功するのではないか?と話すと、坂矢はこう答える。
 
「僕は理想が先なんです。この場所にお店を作ったのもそう。ここは元々、田んぼだった場所です。始めた2年間は認知もなく、お客さんが来ない日々もありました。でも、僕はコーヒー片手に服を見るようなお店にはしたくなかったし、行くまでに、面倒くさいと思われても、気持ちの良い場所にしたいと考えていました。時代はどんどんネットになっていましたが、そうなればなるほど僕は勝算があった」。
 
そういって、屋上を案内してくれた坂矢は、この屋上こそがフェートンの秘密なのだと言った。
 「なぜこの場所に作ったのか。その答えは、広い青空、山が見え、反対側には海が見える。僕は、こういった余白がある場所が好きなんです。東京にはすでに余白を感じません。車を運転できないぐらいなら生きたくもないんです。金儲けやビジネスとしてやることはそもそも興味がないんです。もちろんお金は必要ですが、僕は理想が先なんです。東京でお店をすることが理想かと聞かれればそうではないんです」。
 
 

モノを見る感覚を
研ぎ澄ます大切さ

 
坂矢はインタビュー中、度々「瞬目惚れ」という言葉をよく使っていた。その言葉の背景にある彼のクリエイションを担う感性。彼は常に研ぎ澄ますことを大切にしているようだ。
 
「そのためには、身体に無駄なモノを入れないことです。添加物の入った食べ物を入れない、10年ほどベジタリアンなのですが、豆も食べないので、タンパク質やエネルギーがゼロなんです。それで、最近僕の身体を見ている医者が心配して健康的に肉を食べてほしいと言うので、10年ぶりに食べたんです。久しぶりに食べた肉はとても臭く、ホルモン剤や消毒の臭いを強く感じました。そういうふうに、気付かないうちに汚染されていることを知ったんです。例えば、コーヒーもそう。かつては、毎日20杯ほど飲んでいたんですが、それは完全に中毒によるものでした。お酒もそう。葉巻に関しては、僕はこれまで1日に7本吸っていたほど生活の一部となっていました。そういった嗜好品もすべて一切やめてしまったんです。そういうノイズを排除することがクリエイションにとても関係するのだと考えています」。
 
気付かないうちにコントロールされている嗜好品や、安全というが身体にとって決して良質ではない添加物など、様々なノイズを一切絶つことで、脳の回転や感受性も変化し、昨日までとは違う新たな自分に出会える。肉や酒を好む人は多いだけに、一般の人はそうそう辞められることではないが、常に自分を変化させる方法として坂矢が行っているアイディアが面白い。
 
「僕は毎朝、洋服を選ぶ前に、香水を選ぶんです。80種類の香水から毎日違う香水をつける。しかも、左半身と右半身で絶対に変えるんです。なぜかというと、人間って5秒以上匂いを感知できません。カレーのお店に入っても、5秒程したら匂いを感じなくなりますよね。だから右と左で匂いを変えると、常に匂いを感知できるようになるんです。それによって常に嗅覚が反応し、脳が回転するんです。日曜は完璧な香水の組み合わせだったとしても、月曜には違うんですよね。毎日が違うということに、香りで気付くんです」。
 
これには、筆者もインタビュー後に実践してみて驚いた。毎日つけていたお気に入りの香水は、自分で感じ辛くなっているほど確かに鈍っていた。左右違う香水をつけることで、常に嗅覚が刺激されていることを実感したのである。
 
「答えは、外にあるんじゃなくて全部自分にあるんです。自分が答えをもっているんですよ。みんなセンスを学ぼうとしていますが、センスは学べるものではないんです。学んだつもりでいても、それはただの真似事です。自分に備わっているものにどうアクセスをするかが大切なんです。全員がオリジナルだと考えています。それをどう自分でアクセスして解放するか。だから、余計なノイズを入れてはいけない。シンプルな例えですが、両手にモノを持っていては何もできないのと同じで、いかに身体と精神に余白を作るかが大切だと思います」。
 
フェートンに行くと、入り口に「大勉強PHAETON」と書いてあるように、このお店の全ては坂矢自身のストイックな学びと、それを教養として体験できる空間なんだと再認識した。セレクトショップという枠に決して収まることのない、博物館のような場所。それでいて良いモノが揃っているからこそ、日本中から加賀までフェートンを目的に来る客が絶えないのである。
 
「基本的に、好きなモノは一生好きなんですよ。すぐブレるような人を、『先っぽ好き』と僕は呼ぶんですが、良いものは変わらないし、良いものは良い。新しかろうが、古かろうが関係なく、良いモノは良いんです」。その言葉に尽きると思った。

Toogood
「トゥーグッドは爆発したクリエイションが魅力です。それに加えて、スタートからデザインが変わらず、曲芸師や写真家など職業に因んだ洋服をシーズン毎に生地を変えてユニフォームとして提案しています。その時点で服というよりはアートだと思っています」。

Porsche 993
現在も十数台所有しているほどの車好きである坂矢。この日乗っていたポルシェの993は96年の空冷の最終モデル。「こんなに可愛い顔してエンジンがやばい。僕の足代わりなので『下駄』と呼ぶほど愛用しています。ゲルマン魂のこもったものづくりの良さを感じます」

D.S. & DURGA
扱っている香水の中でもセンスが飛び抜けていると推すメーカーが“ディーエス&ダーガ”である。「香水選びは1つの銘柄を選ぶにも長い付き合いになるため、すごく慎重になります。その中でもディーエス&ダーガは全て仕入れるほど、常に新作が届くのが楽しみです」。

Tokoname Vase
フェートンの店内に置いている平安時代の常滑壺。大きく、逆三角形にも近い形状が特徴的。「これは冷蔵庫として使われていたモノですね。誰が作ったもわからないアノニマスなモノです。どれだけ先を尖らせて、土に刺すかを考えたデザインが今見ても美しいです」。

Door by Le Corbusier
50年代に作られたル・コルビュジェのドア。「非常に珍しいもので、ギャラリーサインの溝口さんから売ってもらいました。写真を見せてもらった瞬間、即買いますと言った覚えがありますね。まさにモダンでクラフツマンシップな美しさを感じます」。

F.LLI Giacometti
「アストラカンというロシアとモンゴルの間にいる羊の毛がブラックダイヤモンドと呼ばれるのですが、その羊毛を使用したレディースのローファーです。トレッキングブーツをファッションに落とし込んだのもジャコメッティが世界初で、このブランドはとんでもないクラフツマンシップが詰まっています」


 
 
坂矢悠詞人
ここで紹介する“フェートン”のほか、ウィメンズのお店“リトー”、“オールドジョー”や“ポータークラシック”の金沢店など多数のお店を経営する。服だけではなく、興味の向くまま様々な文化を探究し続ける。
 
 

Teaton



 
 

こだわり抜いた紅茶と上質な空間

 
昨年7月にフェートンの真横にオープンした、会員制の紅茶サロン「ティートン」。ここでは、フェートンならではの上質なインテリアの中、買い物前後のゆったりとした時間を過ごすことができる。厳選された紅茶とグルテンフリーのスイーツを扱う同店をオープンした理由にも、坂矢の数寄者な一面を伺える。
 
「僕がお茶にどハマりして、にっちもさっちもいかなくなってしまった時に、お店をやろうと思ったんです。ここよりも美味しい紅茶を出すお店がないと自信をもって言えます」。
 
何杯か頂いたが、これまでに飲んだ紅茶の概念を覆す、透き通った香り豊かな味わいがティートンのお茶にはあった。それでいて色の美しさは、こだわったインテリアとも同調する。貴重なジャン・プルーヴェのウォールパネルや、鈴焼の壺などが存在感を放つ空間の中で大きな窓からは雑木林や田んぼが見え、上質なリゾートに来たようである。このインテリアは、ヘミングウェイが通ったキューバのバーを意識して作ったのだという。このお店は会員制で、新規の募集は稀なため一見で入るのは難しいが、ティートンがオープンしたことでそれまでフェートンのみを目的に来ていたお客さんがゆっくりとした時間を過ごせるようになったようだ。
 
「東京や関西圏はもちろん、海外からもお客さんが増えてきました。フェートンの周りは特に行く場所がないので、うちに来るために時間をかけて来てくださります。そんなお客さんに服を買ったら帰るのではなく、少しでもゆっくりしていってもらえる場所を作りたかった。だからこそ会員制にしているのです」。
 
ティートンの奥には、茶室が用意されこの空間でワークショップも行っているのだそう。味や時間で楽しめるクラフツマンシップをここでは体感することができるのである。
 

Phaeton Fragrance Bar


 
 

目に見えないデザインをまとう

 
「香りは目に見えないデザインの究極ですよ」。
 
 そう話すように、香りを大切にする坂矢が始めた香水の専門店が、金沢駅に直結した商業施設“金沢フォーラス”の1階にある。ここでは、フレグランスバーと銘打った通り、客の好みをヒアリングした上でお勧めの香りを提案してくれる。
 
“ディーエス&ダーガ”や“19-69”など国内での取り扱いが珍しい香水が揃う、嗅覚で楽しめるお店だ。
 
「洋服が好きで、アートが好きで、でも匂いはそんなに意識していないという人は多いです。でも僕は、匂いを意識していない時点で、何も見えていないのと同じだと思っています。ご飯も美味しいかどうかは最初、匂いでわかるように嗅覚は大切なんです。センスの良い人は必ず良い匂いがします」。
 
そう話すように、目に見えるものだけを頼ることの危険さを坂矢は促す。様々な香りを試すことで、脳が刺激されて嗅覚の引き出しが増えていくそうだ。自身も80種類の香水から毎日つける香りを選ぶように、この店では、なるべく多くの香りを試してもらうよう提案している。目に見えないデザインという香水は、まさに調香師によるアートとクラフツマンシップの結晶である。日本中のどの店よりもこだわり抜いた香水を揃えていることで、ヨーロッパではフェートン=香水という認知をされているようだ。
 
「香水はこれからの時代、より価値が高まってくると思っています」。
 
そう言うように、時代がどんなに進化して便利なモノに溢れようとも、香りという繊細な嗅覚はAIによってそうそう感動できるものが出来るとは思えない。手っ取り早く目に見えるモノだけが評価される時代の中で、香りという目に見えないデザインを楽しむ。それに適した空間なのである。
 
 
◯PHAETON
https://www.phaeton-co.com
 
 
 

PhotoYuto Kudo Interview & Text Takayasu Yamada

 

This article is included in

Silver N°13 Autumn 2021

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