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Interview with
Yoon (AMBUSH® Designer / DIOR Men’s jewely Designer)
about Fashion needs Music

Interview with
Yoon (AMBUSH® Designer / DIOR Men’s jewely Designer)
about Fashion needs Music


普段着のままステージに出る、
それがリアルだと思ったんです
韓国からアメリカへ。ユース時代の原体験

アンブッシュ®の躍進がめざましい。パーソナルなジュエリーデザインから始まり、ジュエリーに合うウェアを少しずつ展開し始めていた2017年にはLVMHヤング ファッション デザイナー プライズのファイナリストに選出。以降も世界中でファンを増やし続け、昨年のナイキとのコラボレーションのリリース当日には渋谷の旗艦店に1200人が列を成し、わずかな時間で同シリーズはソールドアウト。
 
デザインを手がけるYOONはそのクリエイションが認められ、昨年よりディオール メンのジュエリーデザイナーに指名された。まさにシンデレラストーリーそのものだが、そこに至るまでには、彼女が想定もしていなかった幾つかの転機があった。彼女が生まれたのは韓国で、米国の軍人だった父親の影響で、幼い頃は米韓を行き来する生活を送っていたが、彼女が中学生の頃に一家は住まいをシアトルへと移している。
 
90年代のシアトルと言えば、グランジムーブメントの中心地。まだネットも無かった時代、テレビから流れてくるインディロックを聴きながら、YOONは多感な時期を過ごしていく。 「数少ない情報源だったMTVでもプッシュされていたパール・ジャムやサウンドガーデンなんかのインディーズバンドは地元ということもあって大スターになっていましたね。サブポップももちろんそう。当時のシアトルはそんなにバブリーな街じゃなくて、雨が多いし暗かったので、ヒップホップはあまり流行っていなくて、ほとんどがロックで少しジャズがあるような感じでした。暑くも寒くもないから、自然とデニムにネルシャツとか、そういうものを着る人が多くて。カート・コバーンの格好が特別だったわけじゃないんですよね」。その後はグラフィックデザインの道を志し、ボストン大学へと進学する。彼女の公私にわたるパートナー、VERBALと出会ったのもこのときだ。「卒業後はアメリカのデザイン会社で働き始めたんですけど、このまま じゃ先が無いなと思ってるときに、すでにミュージシャンとして活動していたVERBALから連絡があったんです。“東京で働いてみない?”って」。

 
 

流行りよりコンセプトを選んだ先人たち

VERBALが彼女を頼った理由のひとつが、自分の理想のワードローブが必要だったこと。「テリヤキ・ボーイズ®としての活動も始まっていたので、ステージで映える大きなジュエリーが必要になったんです。それで、個人的に“こういうものが作りたいんだよね”って、私に相談してきました。私はジュエリーが作れる職人さんを何人か知っていたので、彼のアイディアを形にしていくのを手伝うようになったんです」。そうしたやり取りを繰り返す中で、好きなものを自分たちのペースで出していこうとその活動に対してVERBALが付けた名前がアンブッシュ®。当時のヒップホップシーンといえば、ファットなデニムに白TといったステレオタイプのBボーイ像がまだまだ根強かった時代。そんな時流の中でもラフシモンズや当時のディオールオムなどを好んで着ていた彼が、既製品以外に自己表現を求めたのはごく自然なことだったのだろう。
 
「ラッパーって、あまりオンとオフがないじゃないですか?普段着のままステージに出るというか。それがリアルだと思ったんです。でも、ラッパーだけじゃなくて、もっと昔はほとんどのミュージシャンがそうだった気がするんですよ。だから、どんなに派手でも、個人のキャラが強かった。でも、今のアーティストたちを見てると、すごくファッショナブルなんだけど、そのほとんどがスタイリストの仕事なんですよね。ラッパーだったら本人たちもグッチが流行ってるから全身それで、次はバレンシアガだ、とかっていう風に。だから、ジャケットの写真を撮って半年後には古く感じちゃう。マイケル(・ジャクソン)もプリンスも派手だったけど、流行りのデザイナーだから着るんじゃなくて、コンセプトに合わせてファッションも作っていった人たちだから、全然違うと思うんです。そういう意味で、“現代でファッションと音楽を結ぶ人”と言われると、すぐにピンとくる人が思いつかないです。唯一それを感じていたのがレディー・ガガだったけど、それも少し前かな……」。カニエ・ウェストやファレル・ウィリアムズ、エイサップ・ロッキーなど現代のスタイルアイコンたちとも親交の深いYOONはもちろん彼らに大きな敬意を抱いている。しかし、それでも幼少期の彼女が少ない情報を手繰り寄せる中で出会ったミュージシャンたちの衝撃は、彼女の中で強烈な記憶として今も残っているのだろう。
 
この話題の中で終始、YOONは“強いキャラクター”というフレーズを度々使った。洗練された現代の音楽に日々触れながらも、過去のミュージシャンたちに彼女が傾倒する理由が、この言葉に隠れている。先ごろ発表されたアンブッシュ®の2019年の秋冬コレクション、そのイメージソースになったのはグラムロックの草分け、デヴィッド・ボウイ。言わずもがな、この世を去った今も音楽史に名を残すレジェンドだ。「60年代から70年代頭のボウイがすごく好きだったんですよ。アルバムによってキャラも音楽も変わって、毎回別人のようでした。今考えても本当にすごいなと思います」。ボウイが主演を務めた70年代のSF映画、『地球に落ちて来た男』からヒントを得たコレクションでは、“ミリタリー”と“宇宙”をテーマに、いつにも増してクラシックとエッジの交錯するスタイルを展開している。

 
 

加速し続ける情報の中で

現代のファッションシーンの先端を走るデザイナーだからこそ、YOONがこれまでに語ってきた旧時代への憧憬には少なからず驚かされる。彼女は、今の音楽やファッションシーンについて、こうつぶやく。「表面上で尖った人は増えたかもしれないけど、今はペースがどんどん早くなっていって、発信する側も受け手側も、内面を気にする余裕がなくなっている気がします。昔は1ヶ月間、同じ雑誌をボロボロになるくらいまで読み続けたけど、今は今日のニュースも明日には古く感じるじゃないですか。音楽だったらアルバムを1曲目から最後まで聴くことができないと思う。ファッションもそう。だから、自分のキャラを立てるのが、どんどん難しくなってきていると思うんです。音楽の新しい情報が欲しいならサウンドクラウドでも得られるし、SNSが発達して、その場にいないと経験できないこととか、見えないものがどんどん減ってきた。そういうエネルギーの集まる場所とか、文化がなくなってきてる時代なので、私はそれとは違うところからエネルギーをもらっています」。
 
「そういえば」と言ってYOONはiPhoneを手に取ると、過去のインスタグラムの自身のポストを見せてくれた。画面には、動くアンドロイドとそこに向き合う人間のオーケストラのムービーが流れている。「渋谷慶一郎さんがやっている、“スケアリー・ビューティ”というオペラなんですけど、指揮をしているのが東京大学の人たちと作ったっていうAIのアンドロイドなんです。音楽性というよりもそれが不思議で、面白くて。音楽って感情がないとできないと思っていたんですけど、テクノロジーがどんどんアップグレードされて、その内本当の人間みたいなパフォーマンスができるようになると思う。ファッションも音楽も元は人間が作ったものだけど、何を以って人間らしいというのかな、と考えるときがいつか来るような気がするんです。ちょっと大きな話になっちゃうんですけどね」。その明確な答えを彼女はまだ持っていないし、おそらく誰も知らないのだろう。
 
彼女がアンブッシュ®で描くシャープな世界観は、ときに無機質に見られることもあるが、そこには彼女の熱量と人間味が詰まっている。「セミファイナリストに選ばれてLVMHの本社でプレゼンをしたとき、審査員の方たちが質問をしてくるんですが、カール(・ラガーフェルド)だけは、すごく褒めてくれたんです。その後、もう一度お会いしたときにも私たちを覚えてくれていて。50年以上も世界のトップを走ってきた人がですよ。そのとき、私たちがやってきたことは間違いじゃなかったんだなと思えたんです」と話すYOONの表情はすましたデザイナーではなく、熱を持った人間のそれだ。だからこそ、YOONはそんな熱量と個性で満ちていた往年のミュージシャンに今も傾倒する。「今は忙しくて、音楽をゆっくり聴く時間がないのがちょっと残念かな。仕事中は、音楽よりもホラー映画をかけている方が集中できるんです。悲鳴が鳴り響いてるから、横のデスクで電話をする仲間には申し訳ないですけどね(笑)」。

「クリエイションにはいつも音楽的な要素を取り入れている」とYOONは語る。ルーマニアの彫刻家、コンスタンティン・ブランクーシに着想を得たこの春夏シーズンに即して作られたプレイリストには、コクトー・ツインズやボ・ハンソン、キャス・エリオットなど、プログレからサイケデリック、ポップスまで様々なジャンル・年代の音楽が並ぶ。

樹脂で潰れた空き缶を模したのは、革紐の付くクラッチバッグ。定番のライターケースネックレスはビックのライターがちょうど収まる設計だ。カルチャーをベースにユーモアとアイロニーを感じさせるデザインはAMBUSH®の真骨頂。


 
YOON 韓国生まれ、シアトル育ち。パートナーのVERBALとともに実験的なジュエリー制作を続け、2008年よりアンブッシュ®の名で正式にブランドとしてコレクションを展開する。キム・ジョーンズにより、昨年ディオールメンのジュエリーデザインを任された、音楽やアートシーンと公私両面で所縁の深いデザイナー。現在アンブッシュ®では、自身がデザインしたナイキ エアマックスとコラボジュエリーのリリースを控えている。

 
 
 

Photo Keita Goto Edit & Text Rui Konno

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