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Interview with Tsuyoshi Nimura About Reminders of Time 時間を超えて大切にしたいモノたち

テクノロジーが進み、便利な世の中になった今。機能的なモノやお洒落なモノは手軽に買うことができるようになった。そこで改めてもう1度、モノの価値について考えてみたい。誰しもが長年大切にしているモノを持っているのではないだろうか。きっとそれは、購入した時の思い出があったり、長年思い焦がれたストーリーだったり、時間を超えて使い続け自分の一部になっているモノ。また、ヴィンテージのようにそのモノ自体が時代を超えてきたのであれば、経年変化やそのモノが持つ時代背景も我々を魅了するだろう。そう考えると、モノの価値には「時間」という存在が大きく関係していると言えるはずだ。PART1では、時間とモノに向き合う5人とモノの価値を考えた。

Interview with Tsuyoshi Nimura About Reminders of Time 時間を超えて大切にしたいモノたち

テクノロジーが進み、便利な世の中になった今。機能的なモノやお洒落なモノは手軽に買うことができるようになった。そこで改めてもう1度、モノの価値について考えてみたい。誰しもが長年大切にしているモノを持っているのではないだろうか。きっとそれは、購入した時の思い出があったり、長年思い焦がれたストーリーだったり、時間を超えて使い続け自分の一部になっているモノ。また、ヴィンテージのようにそのモノ自体が時代を超えてきたのであれば、経年変化やそのモノが持つ時代背景も我々を魅了するだろう。そう考えると、モノの価値には「時間」という存在が大きく関係していると言えるはずだ。PART1では、時間とモノに向き合う5人とモノの価値を考えた。

Harlemville
by Clare Richardson

ドイツの哲学者、アドルフ・シュタイナーが提唱した子どもの個性を伸ばす教育理念、「シュタイナー教育」を実践する北米の小さなコミュニティーを撮影。約2年に渡り撮影したその記録は、子どもたちの無垢な表情が写し出されている。(Steidl MACK, 2003)

BEYOND THE FOREST
by Clare Richardson

ルーマニア、トランシルバニアにある小さな農村を舞台に、工業化の進んでいない自然とともに生活する住民たちと風景写真を切り撮った。彼女が撮る「シリアスでもなく、幸せすぎることもない」ところに二村は魅力を感じている。(Steidl MACK, 2007)

Guitar
ヘアアーティストのTAKUから15年前に譲ってもらったという、アイバニーズのアコースティックギター(左)。国産メーカーのアイバニーズが、長い歴史を持ち高品質なギターを作るマーティンへの憧れから生まれた、拘りを感じる名品。
好きなものを改めて
見つめ直すことができた時間 二村 毅

本誌でも創刊時から数多くのファッションビジュアルを手掛けるスタイリスト、二村毅。彼が手掛ける仕事の特徴を一言で表すならば、「深いメッセージをミニマルに表現したビジュアル」。これに尽きるだろう。長年スタイリストとして第一線で活躍してきた理由を考えると、誰よりも人と向き合い、モノを知り、背景を探るという、尽きることのない探究心が育んだ“深み”によるものだ。そんな二村も、このコロナ禍のなかで、ゆっくりとした時間を送り、改めて自分が好きなモノについて考え直すことができたようだ。「寝て起きて、食事をして、本を読んで、散歩して、そんなルーティーンの日々でした。街が閑散としている中、散歩をしていると普段では気がつかない景色に目が行くことが多かった。温かみのあるものとか、自然な風景に目がいくんです。ひとしきり本は読んだし、写真集でも見返してみようと思い、事務所の本棚から何冊か選びました。その中で、一番今の気分にしっくりくると思ったのが、透明感のあるリアルな写真を撮り続けたクレア・リチャードソンの写真集でした」。彼女の2冊の写真集「Harlemville」、「BEYOND THE FOREST」は二村が10年以上前に購入し、この期間に改めて見直したという。
 
「自然を題材として撮影し続ける写真家の中でも彼女が特に好きです。Harlemvilleは、シュタイナー教育を実践している北米のコミュニティへ長く通い、時間をかけてドキュメントで撮った写真集。自然の中で教育を受ける子どもたちが写されています。BEYOND THE FORESTも北欧の小さな村を撮った写真集で、強く柔らかい自然との向き合い方が素晴らしいと思っています」。クレア・リチャードソンの写真に写し出される深い温かみ。それと通じるのが、二村がいつも以上に自宅で家族と過ごした時間に繋がる。「リビングには小6の次男のギターが3本並んでいます。右の2本は、誕生日やクリスマスの時に買ってあげたモノ。左のアイバニーズのアコギは、15年くらい前にヘアアーティストのTAKUさんにわがままを言って譲ってもらった1本です。そこから自宅で大切にしまっていたのですが、息子が大きくなったので、久しぶりに引っ張り出してきたんです。77年のマイケル・フランクスモデルで、当時はすごく良い材質を使っているから弾いてみるとめちゃくちゃ音が良い。今では、『俺のギターだ』と言い張る息子に取られ、僕は触らせてもらえませんが、家にいて隣で音を聞いているだけでも本当に気持ちが良い。ルックスも古くならないし、改めて味のあるモノって美しいなと思わせてくれた、とても価値のあるギターです」。

Eyewear by The Spectacle Bangle
Explorer 1 by Rolex
Love Ring by Cartier

これまで様々なファッションスタイルを楽しんできた二村の趣味の遍歴を垣間見れる小物類。アンティークフレームのザ・スペクタクルの眼鏡は、ストックをする程気に入っており、レンズの色もオリジナルでオーダーして使っている。

Mug

20年程前、撮影としてジョシュアツリー国立公園に向かう途中のカフェで出会ったマグ。レトロな花柄に惹かれて店員に譲ってもらったモノ。在宅期間中、毎日飲む珈琲にも拘りはじめ、このマグを使っているうちにさらに愛着が増したという。  

 
 

いま良いと思えるモノ
変わらないモノ

「自分は裏方の人間だから、目立たないシンプルな服を着るようにしているし、そういうモノが好き」。と自身の格好を話すように、服装は変われど二村はシンプルなスタイルが多い。そんな二村が長年変わらず身に着け続けるモノが、バングルや結婚指輪、眼鏡に腕時計がある。「このインディアンジュエリーのバングルを買ったのは、24歳くらいの頃。当時の僕は、インディアンカルチャーにハマっていました。インディアンジュエリーを着け、メディスンバッグを持ち、コンチョベルトを垂らし、ブーツカットのデニムにウエスタンブーツ。そんなコテコテな格好でした。このナバホ族のバングルはその時に購入し、いまだに着け続けている当時の名残です。その頃、そんなルックスだから結婚指輪も繊細なモノが似合わず、その時でも唯一似合うと思えたのがカルティエのラブリング。眼鏡は、28歳くらいの時に出会い、ジョン・レノンへの憧れでつけ始めたザ・スペクタクルのモノ。何回も壊してしまい、これは4本目です。レンズも当時から同じ色にして使っています。ロレックスのエクスプローラー1は、3年くらい前に買いました。本当は、Ref.1016モデルが欲しかったのですが、自分には金額が高くて。これは38mmの最終形で2004年のRef.114270モデル。小ぶりで頑丈な時計が好きな僕には、すごくフィットしています。高額な時計だと着けるのを恐れてしまうので、自分にはこれくらいが丁度良いと思っています」。自分が変わらず身につけるモノに対しても改めて考えられるきっかけとなったこの期間。身に付けられるモノだけではなく、家で珈琲を飲んだりするマグも長く愛用してきたモノだ。「洗い物を増やしたくないから、1個のカップで1日を過ごそうとするんです。自分用のマグを3種類持っている中で、一番古いのがこれです。これは、20年近く前にトランスコンチネンツというブランドの仕事で、ヴィンセント・ギャロを撮影する為にLAに行った時に出会ったモノ。ジョシュア・ツリーで撮影をしようということで車に乗って向かい、休憩で立ち寄ったボロいカフェで珈琲を頼むとこれが出てきた。可愛いなと思い、これを売ってくれないか?と尋ねると、『どっから来たんだ?』と聞かれ日本だと答えると、『持って行って良い』と。そんなやりとりで手に入れたモノです。この期間、自分で入れた珈琲を飲んだり、1日を1個のマグで過ごしていたら改めて愛着が湧きました」。

Lewis Baltz
by Lewis Baltz

ルイス・ボルツが2014年の没後に行われた大規模な写真展に合わせ刊行された1冊。都市の荒地や放棄された産業現場など、人の手が介入した自然環境を、抽象的に撮影したボルツの作品をまとめた内容となっている。(Steidl, 2018)

Perfect Place , Perfect Company
by Robert Adams

ニュー・トポグラフィックスを代表するアメリカ人フォトグラファー、ロバート・アダムスが1980年代半ばにコロラドにあるポーニー・ナショナル・グラスランドで撮影をした2冊組の写真集。妻、愛犬とともに美しい光景が切り撮られている。(Steidl, 2017)

 
 

ゆっくりと自分に合うモノを
手に入れていくことの大切さ

二村はこれまで、建築、植物、花瓶、和の工芸、現代アートというようにその時々で、最も興味が湧くモノに対して向き合ってきた。その様子が顕著に現れているのが右ページに掲載した二村の自宅内の写真だ。花瓶やアート作品などが棚の上に陳列されたキッチン周辺。これに関して二村は、「これらは、凝り性の残骸だと思っています。興味のあるモノを見ているうちに、気付いたらどんどん増えていっちゃって。ごちゃごちゃな空間になっています」と話す。
 
様々なカテゴリーのモノを観てきた二村だが、自分が好きなモノの特徴を考えると、ミニマルなモノ、抽象化されたモノだという。「全体を通して自分が好きな人を考えてみると、みんな抽象化された作品なんです。今回紹介している写真家もそう。ルイス・ボルツは、コロナの前からとても好きな写真家で、何でもない風景をシンプルな画面構成で撮り続けている人。人の手が介入し、壊れゆく自然を収めた写真表現に、ニュー・トポグラフィックスと括られる部門があります。代表的な作家のボルツと同様に語られる写真家は数名いるのですが、そのうちの1人にロバート・アダムスがいます。彼の「The New West」という写真集を7年前くらいに買っていたのですが、コロナ前の自分には彼の作風はちょっと甘いなと思っていました。ですが、この期間にゆっくりとした時間を過ごすことで改めて見えてきた自然の景色が重なり、ロバート・アダムスの写真の魅力にやっと気付いたのです。人間が介入していく風景と、自然のせめぎ合いを撮り続けている2人で、一見すると雰囲気は似ているんですが、写真のタッチでいうと、ボルツはグレー、ロバート・アダムスはベージュ、そんな印象を受けています。この2人は最近改めて良いなと思って観ている、自然を静かな視線で撮り続けた写真家たちです」。そして、写真の世界では珍しい抽象表現を得意とした写真家、アーロン・シスキンにも話は続く。
 
二村がここ2年程魅了されているのがアーロン・シスキンの写真だ。「2年前にシスキンの個展をタカ・イシイギャラリーで観たことが、彼を知るきっかけでした。シスキンは、モホリ・ナギが創立したシカゴのデザイン学校、ニュー・バウハウスで写真を教えていた人物。初期はドキュメントタッチの写真を撮っていましたが、平面を撮影したものが多く、フレーミングを決めた上で何を入れるかみたいなことを考えながら撮っていたんだと思います。彼の作品の中でも、画家のフランツ・クラインをオマージュしたシリーズが特に好きです。これは、73年から75年までに世界5都市で撮影された写真で、壁に描かれた落書きをフランツ・クラインの抽象画のように切り取った作品。初めて観た時から欲しいと思っていて、2年経っても変わらず好きでした。この期間にゆっくりと考えて、ギャラリーに連絡を取り、1作品プリントを購入しました」。景色を抽象化して撮影した写真家の中で、二村が最近になって知った人物にスウェーデン人フォトグラファーのグンナー・スモリアンスキーがいる。日本ではあまり知られていない写真家ではあるが、彼も二村の琴線に触れる作風だ。「人々から忘れ去られた木を撮り続けた『TRÄD』という写真集が素晴らしいです。ほかの写真集を観ても自然を抽象化し取り続けている作品が多く一貫性を感じます。彼の情報はなかなかインターネットで探しても出てこなくて、どういう人だったのか?、プリントはどこで観れるのか?という質問を、いま知人経由でギャラリーに確認をしているところです」。二村が挙げた写真家たちが、街中、自然、壁を抽象的に撮影し表現したこれらの写真。そこに何故惹かれるのかをゆっくりと考えることができた時間となったようだ。二村はこういったファッション以外のカルチャーに探究心を持つ理由についてこう話す。「仕事に役立たせようと思ってやっているわけではないんです。ただ好きという純粋な探究心でモノを観たり調べたりしているだけ。最近は、トレンドの移り変わりが急で、自分自身も生活の速度が早かったと思います。今後は、ゆっくりと時間をかけて考えて、自分が本当に欲しいモノを手に入れていくことが必要な時代になっていくと思います。その為に、自分の好きなモノを見つめ直す。そんな時間は必要なんだと改めて感じた期間でした」。

AARON SISKIND 100
by Aaron Siskind

デザイン学校ニュー・バウハウスで写真教育を行うなど、後世の写真家たちに多大な影響を与えた人物。風化した壁や劣化したポスターなどを抽象的に捉えたアーロン・シスキンの作品群を収録。二村が近年、写真の抽象表現に魅了されるきっかけとなった写真家。(powerHouse Books, 2003)

TRIVIA by Gerry Johansson, Carl-Johan Malmberg & Gunnar Smoliansky

二村が最近になり知ったというグンナー・スモリアンスキー、同じくスウェーデン人フォトグラファーのゲリー・ヨハンソン、執筆家のカール=ヨハン・マルンベリの3人による作品集。1992年にストックホルム近代美術館で開催された写真展を記念し刊行された。(Förlaget DOG, 1992)

Flower Vase
二村の自宅、キッチンスペースの棚の上には長年集め続けたカール・ハリー・スタルハネやポル・シャンボスト、船越保など数々の花瓶が揃う。リビングから眺めると、スピーカーや二村の息子が製作したウッドの作品などと相まって、彼らしい空間となっている。

 
 
 

Photo Naoto Kobayashi Interview & Text Takayasu Yamada

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