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Interview with
Hirofumi Kurino “Color"
The choice of gray
for anti-populism

Interview with
Hirofumi Kurino “Color"
The choice of gray
for anti-populism

アンチポピュリズムとしてのグレー

 日本のファッション業界を長年牽引し続けるレジェンド、ユナイテッドアローズ栗野。コーディネートで一番大切なのは色だと語り、様々な角度からファッションにおける色の大切さを語る。そんな彼が今最も注目している色はグレー。
 
 

社会潮流とファッションの色
社会に対するアンチテーゼ

 
 「今の時代、僕の色はグレーです」。この日の装いは、グレーのジャケットに白いシャツ。もともと決まった色に固執せず、ピンクやグリーンなど様々な服を着ていたというが、直近ではほとんどグレーの服。その答えとなるのが昨今のファッションシーン、そして社会との繋がりだ。
  
 「コーディネート、服選びでも一番重要視するのは、色です。以前は様々な色を着ていましたが、直近ではグレーをはじめ落ち着いた色を着ることが多いですね。その理由のひとつは、ファッションも社会も極端で過激な方向にいっているから。グレーは知的な色とも言われ、例えば黒でも白でもなく、極端な色ではない。だから極端で過激な社会に対する、“アンチテーゼ”としてグレーを着ているのかもしれません」。
 
 社会とファッションは繋がっている。当たり前のことのようだけど、意外とその繋がりを言葉として表現できる人は少ない。彼はそれを深く理解して自分のものにする。そして、ドナルド・トランプの発言やイギリスのEU離脱の問題なども、グレーを着たくなる理由だと語り、バイイングをする際にも社会潮流を意識するという。
  
 「ディストリクト ユナイテッドアローズで展開している秋冬の服もグレー絡みの服が多いですね。僕のなかで毎シーズン気になる色というのがあって、今季はグレーなんです。クリエイティブディレクションや、バイイングする際に、常に僕が意識していることが社会潮流です。簡単にいうと、世の中が今どうなっているのかをリサーチすること。ではグレーという色と今の社会潮流にどのようなリンクがあるのかと言うと、世の中がポピュリズム的(大衆迎合主義)な方向に向かっているから……ということですかね。
 
 ドナルド・トランプの考え方、日本や韓国の政治家もそうですが、物事のある側面だけを捉えて独断的な判断や、言い方をする人があまりにも多い。例えば、イスラム過激派はテロを起こしている、だから彼らは危険だ。故にイスラム教徒はいけない。だからイスラム教徒はアメリカに移民として来ることを許さない。そういった一方的な思考がアメリカだけではなく世界中に蔓延していて、ヨーロッパやブラジルなどの様々な国で、移民排斥派の人たちが与党になったりしている。イ ギリスのEU離脱への流れの背景も同様です。一方、きちんとファッションを考える人とい うのは、もう少し深く物事を考えている人が多いような気がします」。
 
 

人の印象を左右し感情を映し出す
ジャケットとネクタイの色

 
「グレーのジャケットに白いシャツ、それにニットタイという組み合わせは、誰でもすると思うのですが、グレーのジャケットは合わせるネクタイの色によって、印象がガラッと変わるから面白いんです。(P028の写真 参照)例えば黒のネクタイをすれば、シャープに見えますよね。グレーのジャケットが黒のグループなんだという印象。黄色いネクタイだと逆にグレーが凄くソフトに見えて、穏やかな印象です。グレーのネクタイだと、ミニマルになってインテリジェントな印象になる。分かりやすくいうと、黒はエディ・スリマン的、黄色はラルフ・ローレン的、グレー はジル・サンダー的といった具合に異なる印象を与えられるのがグレーのジャケットの面白さだと思います」。
 
 ファッションは自己表現、自分のアイデンティティを世間にさらす行為でもある。それはなにもファッションに関心がある人に限ったことではない。何気なく選んでいる色やデザインがその時々のその人の感情や精神状態を表すことも。そして、色を通して強いメッセージを発信することも出来る。「ドナルド・ トランプは、ほとんど紺のスーツに白いシャツ、赤いネクタイ。実は赤いネクタイって自分が権力者であることを主張するメッセージと言われています。自分が一番強いんだと。日本ではあまりそういった話は根付いていませんが、世界基準でみると当たり前にある。 逆に中道を目指すフランスのエマニュエル・ マクロンなんかはそういった格好はしないですね。過激な動きが台頭している今の時代に、アンチとしてその逆のものを着ることで自らの意思を体現している印象です。それくらい色というのは大切な役割を持っています。あと、ケネディ大統領はすごくお洒落な人で、彼の服装には常にメッセージがあった。Vゾーンの趣味の良さで大統領になれたという話もあるくらいです。優れた政治家は服装を自分の味方につける。ジャケットの色やネクタイの色は自分をプレゼンテーションする時に凄く役に立つのです」。

色で世の中にメッセージを
生き残るブランドは
色を味方にしている

 
「色の本質や面白さをちゃんと把握しているブランドやデザイナーは、強いと思いますね。例えば、kolor(カラー)。2019年秋冬のジャケット(P029左上写真参照)を例に出すと、いわゆるマウンテンパーカやアウトドア的な原型のあるもの。そこに最近のカラーが得意なボリュームのあるシルエット。ディテールなどはセオリーに忠実なのですが、パープルに近い色をベースに、いきなり袖に強いイエローをデザインしているのが特徴的です。でもこれはアメリカ六大学のスタジャン(アワードジャケット)が配色のヒントになっていると分析します。どういうことかと言うと、インパクトのある意外な配色であると同時に、人が一度は見たことのある組み合わせだということ。デザイナーの阿部さんはとても頭が良くて、デジャヴ感があることを分かってやっていると思うんです。そうすると人は、一見派手っぽいけど意外と着られるかも、と思える。ブランドの名前自体カラーというだけあって、いつ見ても感心しますね。2020年春夏のスウェット(P029右 上写真参照)は、VHSのケースがヒント。プレーンなスウェットですが僕の世代から見たら完全にデジャブ感がある、逆に若い人たちから見たら家の片隅にあったかな?とかどこかでうっすらと記憶がある。 プレーンなスウェットにこの色合いを選択することによって、レトロ感とフューチャー感の両方を感じさせるものになっているのです。叫んでいないのに、主張がある。 そんなカラーの服は、グラフィックや色づかいに、非常にインテリジェンスを感じます」。続けてドリス ヴァン ノッテンについても語る。
 
 「1991年からドリス ヴァン ノッテンを見てきているのですが、毎シーズン色に関しては感動します。2020年春夏(P029下段の 写真参照)では意外な色づかいが印象的でした。ヒョウ柄にプリントものを組み合わせたり、柄に柄を合わせたりと、従来のドリスではやらないような“エグい合わせ”をしていました。ショーの最後の方に蜷川実花さんとヨシロットンさんがコラボレーションしたシリーズが出てきますが、それが印象的でした。蜷川実花さんの写真自体独特ですが、そこにヨシロットンさんが加わることで更に強くなっている。蜷川さんの写真でいうとパラリンピックの選手たちを撮っている作品があって、あれも凄かった。パラリンピアンの人たちの個性が蜷川さんの色の表現によって強いものになっていたんです。色による美しさや強さは、偏見や同情などを超えたところに連れていってくれるんだと。クリエイションやファッションには本当に力があるなと思うときは、そういうものを見たときです」。
 
 自分に合った色を早く見つけることが、自分らしいスタイルへの近道。そして、社会との繋がりや色の奥深さを知れば、色を通して世の中にメッセージを発信することもできる。色を自分の味方に。
 
 

栗野宏文
1953年生まれ。ユナイテッド アローズ創業メンバーの1人であり、クリエイティブディレクター、バイヤー、ジャーナリストなど多彩な顔を持つ人物。音楽・アート・経済・映画・ストリートなど、様々な分野において造詣が深い。

(上段左)kolor 2019 A/W、(上段右)kolor 2020 S/S、(下段)Dries Van Noten 2020 S/S

 
 
 

Photo Hidetoshi Narita Interview&Text Tatsuya Yamashiro

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