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Interview with
Greg Chait (The Elder Statesman)
about Daily Necessities

Interview with
Greg Chait (The Elder Statesman)
about Daily Necessities

自分で直すことで物自体を理解できて、一緒に旅をしていける
グレッグ・チェイト
欲しかったのは
見せかけではない上質さ

 
「ハロー、聞こえてる?あれ、ビデオにならないな……」。
国や都市の間での往来がしづらい世相を鑑みて、ビデオチャットでのインタビューに応じてくれたグレッグ。そんな彼の第一声から程なくして画面が映るが、やけに暗い。現在時刻は日本時間で朝の8時半、彼の暮らすロサンゼルスはまだ昼下がりのはずだ。「実は今、テキサスに来てるんだ。ウェーコっていう街にちょっと前に大きいウェーブプールができたんだけど、そこでナイトサーフをしようってことになって、10ヶ月ぶりに飛行機に乗ったよ。途中変な道もあるみたいだから、途切れちゃったらごめんね」。
友人が運転している隣で、グレッグはカメラに向かってカジュアルに話す。“ジエルダーステイツマン”を設立して10余年、彼はいつもあえて公私を混同させながら、世界中とLAとを行き来してきた。その頻度の高さも相当なもので、来日経験だけでも5回や6回ではきかない。そうして旅をするときには決まって自身がつくったカシミヤのブランケットを携えていくのが、グレッグのお決まりの旅支度だった。そんな彼のこれまでのライフスタイルにも、未曾有のパンデミックによって少なからず変化が起きたことがその言葉には滲んでいる。
「でもリラックスした毎日は送れていたから、マリブに住んでいたことはラッキーだったなと思ってるよ。いっぱいサーフィンして、父親として子供との時間もたくさん過ごせてるし。会社もちゃんと活動できてるしね。ごちゃごちゃした都市から離れた海辺にいて良かったなぁって」。それでも確実に行動範囲が狭まった中で、彼が傾倒したのが自宅のすぐそばに置いていたトレーラーハウスの改造だった。元はサーフシャックとしてボードや道具類などを置いていたそうだが、より住まうのに適したレイアウトにしたのだとグレッグは言う。「内容は結構シンプルで、日常的なモノをアップデートしたくらいでそこまで大きく変わってるわけじゃないんだけどね。見た目は’60年代の住居みたいになってるよ」。’68年式だというトレーラーが持つ雰囲気やエネルギーに惹かれた彼は、オリジナルのムードを保つことを念頭に置いてカスタムを進めていく。それが顕著なのが冷蔵庫で、最新モデルから古いものまで数ヶ月をかけてトレーラーのイメージに合うものを探したが見つからず、最後にたどり着いたのが’60年代の後期に製造された個体で、専門のディーラーを訪ねて中のモーターを同時期のゼネラル・エレクトリック社のものに交換するという形に落ち着いた「。古い冷蔵庫でも中身が最新のモーターに替えられちゃっていたり、モーターがプラスチックで覆われちゃってたりとか、しっくりこないものが多くてさ。やっぱりそれは上質じゃないなと思っちゃう。少し前までは感覚的にモノを選ぶことが多かったんだけど、そんな風に時間をかけて考えることが増えたかも。僕自身、なんで冷蔵庫についてこんなに熱心に語ってるのかわからないよ(笑)」。
 
 

プロダクト観の変化、
クリエイションの進化

 
約11ヶ月をかけて少しずつ空間のリモデリングを重ねていく中で、モノとの向き合い方にも変化が現れてきた。「僕は元々、身の回りに関してミニマリストだったと思うんだけど、さらにミニマルになれるんだなって気付いたんだ。モノを持つ量も買う量ももっと少なくできるし、使う上でもひとつのモノと徹底的に付き合っていけるんだって」。以前に増して意識的にトライアンドエラーを繰り返すようになり、長く使い込むことでモノの良し悪しを吟味するようになってきたというグレッグ。それは日用品選びだけに留まらず、自身のクリエイションにも影響を及ぼし始めた。「少し前まではデザインもすごく直感的だったと思う。だけど、こういう経験を通してひとつのモノの良い点とか難点を見極めて、そこからどう改善していくのかっていうことをすごく考えるようになってきた。ひとつひとつのステップをもっと細かく理解したいっていう気持ちが強くなったし、デザイン自体にも時間を掛けるようになった。すごく勉強になってるよ」。
ものづくりでのチェックポイントが複雑化し、考え方が深まる一方で、以前に増して上質なモノと長く付き合うようになったことでグレッグのライフスタイルはよりシンプルになっていった。日本には長い年月使い込まれた道具には神や精霊が宿るという考え方が古くからあるが、親日家のグレッグにそれを伝えると彼は頬をゆるませた。
「それにはすごく同感だし、日本の視点が知れて嬉しいよ。元々自分にはそういう考え方があって、Tシャツもボロボロになるまで着て、穴が空いたらパッチをしたり縫ったりしながら直してまた着て……ってことを繰り返してた。車でも何でも、自分の持ち物は自分で直すことでさらに良くなるし、モノ自体のことももっと理解できて一緒に旅をしていけると思う。できることなら、全部のものに対して“どう直せばいいか”っていう知識を持ちたいなぁ」。そう呟く彼に、特に馴染み深い日用品について尋ねると「ポケットナイフと双眼鏡」という答えが返ってきた。聞けば彼はコロナ禍以降、自宅の裏にある自然の中を毎日のように散歩していて、このふたつはその際にいつも持っていく必需品なのだそうだ。1年を通して温暖で、晴天が多く安定しているカリフォルニア。そこで暮らす人々もこの地にそんなイメージを抱いているが、そこにも確かに日毎の変化があることに散歩をする中で気づくことが増えたとグレッグは言う。折りたためるナイフがブッシュの中を進む上で有効なのはわかるが、双眼鏡の出番はどこにあるのだろうか?
「家の近くの崖の上から毎朝、海をチェックしてるんだよね。その日ビーチにどの友達がいるかとか、波の様子がどうなってるかとかって。家から海までは少し距離があるから前は行ってみるまで状況がわからなかったけど、この双眼鏡を使うようになってからはこうやって眺めること自体が好きになったんだ。フォーカスを合わせて微調整をする作業はすごく集中力を高めてくれるし、そうやってると時間がゆっくり流れていくように感じられる。不思議な感覚なんだけど」。この古い双眼鏡はグレッグが父親から譲り受けたモノだそうで、「本格的なつくりで重さもあるから、歳を取ったお父さんは手が震えちゃって使いにくいからって僕にくれたんだ」と彼は教えてくれた。今では彼自身が父親になり、子供との時間を大切にしながら日々を送っている彼がどんな気持ちでレンズを覗き込んでいるのかを問うのはきっと野暮だろう。

Swarovski Binoculars
父親から譲り受けた双眼鏡、“ハビヒト”は光学性能に優れたスワロフスキーの傑作モデルのひとつ。ポロプリズムを使っていながらコンパクトなので、折りたたむとウエアのポケットにすっきりと収まるのも散歩に適していて気に入ってるのだそう。「もちろん僕にとっては特別な価値があるんだけど、単純に実用性やデザイン性も好きなんだ」。

KAPITAL & The Elder Stateman Socks
「ソックスは使い捨てっていうイメージがあると思うんだけど、良いモノだったら実はそうじゃない。僕は家ではスリッパ感覚でソックスを履くし、自分でつくるものはサンダルにもスニーカーにも合うよう、万能さを大事にしてる」。自身のブランドのものは100%カシミヤ製。コットン製のキャピタルは来日時に六本木で3足まとめて購入し、以来5年間愛用中。

 
 

シンプルに生きていくために
本当に必要なものだけを

 
あとは、これも気に入って大事にしてるモノだね」。そう言ってグレッグが見せてくれたのは、レイバンに結えた編み込みのグラスコード。「仕事場に行くと、よく自分のデスクの上にお土産が置かれてたりするんだけど、ある日これが置いてあって。聞いたらスタッフが僕をイメージしてつくってくれたみたいなんだ」。何でも少し前に目の手術をして視力は回復したそうだが、メガネが必要なくなってもこれを身につけていたいから、サングラスと組み合わせて使っているのだとか。少しずつ浮き彫りになってきた、グレッグ・チェイトと共にするモノとの関係性。彼は「モノ選びの上で重視していることがふたつある」と語る。「まず第一に、目的。すべての物には目的があって、何かを必要としたときはそのモノの一番美しいバージョンのものはどれか?っていう視点でいつも探してる。本当に愛せるものを見つけるまでは何も買わないし、インスパイアされるモノに出会えるまで待つんだ」。思い入れや愛着は大切にしつつ、あくまで実用品としての側面を軽視しない彼の視点がよくわかる物言いだ。そしてもうひとつ、彼にとって大きな意味を持つのが“推薦”だ。「仲の良いスペシャリストや友人たちのリコメンドは、モノを選ぶ上ですごく有益なんだ。僕の周りには世界一の審美眼を持ってる人がたくさんいると思っていて、ほとんどの場合、彼らがオススメしてくれるモノを選べば間違いないんだよね」。一度関わったモノはなるべく最後まで大切にして、余計なモノや愛せないモノは身の回りに置かない。そんなミニマリズムは、心から信頼のおける人たちと絆を深めていくという彼の人間関係ともどこかリンクする。そうこう話しているうちに、画面はすっかり真っ暗になっていて、グレッグの表情はもうほとんど見えない。すると急に画角が変わり、眩しいオレンジ色の光がいっぱいに広がった。
「ほら見てよ!テキサス・サンセット!もうすぐプールに着きそうだ」。カメラの向こうの地平線に夕日が沈み、それに照らされたグレッグが屈託なく笑う。聞けば、プールには閉場時間があり、彼らは空港で時間を食ってしまったため到着したらすぐにボードを抱えてサーフィンに繰り出すつもりらしい。誰も予期し得なかった社会の変化はグレッグと“ジエルダーステイツマン”にも少なからず変化をもたらしたが、彼らは日々の暮らしともう一度向き合いながら、確かに前へと進んでいる。その最良のひとときを邪魔しないようにと、グレッグにお礼と挨拶を済ませて通信を切る。「ありがとう、楽しんでくるよ。じゃあね!」。
グレッグが言い終えると同時に、先ほどとは打って変わって無機質になった黒い画面。そこに未だ焼きついた夕暮れの景色が、彼のポジティブさがどこから来るのかを物語っているように思えてならない。

“Friendship Bracelet” Glasses strap
贈り物のストラップはカシミヤを編み込んだもので、グレッグの元で働くスタッフによるハンドメイド。“ジ エルダー ステイツマン”で展開しているブレスレットの製法を踏襲しながら細くしたもので、グレッグは洗い晒しのTシャツを着て、毎日首からこれを提げている。「すごく大事にしてるんだけど、さっき失くしたかと思って焦ったよ(笑)」。

Super Salve Antioxidant salve
100%天然由来の成分でつくられている軟膏はグランドキャニオンのハイカーやリバーランナーに向けてつくられたもの。中身を見ると、グレッグがデイリーに使っているのがよくわかる。「財布みたいにこれを毎日持ち歩いてるんだけど、傷から筋肉痛まで色んなことに使えて本当に万能なんだ。僕みたいに自然の中へとよく行く人間にとっては欠かせないものだね」。

Columbia River Knife and Tool
Tactical knife
米国、オレゴン発のナイフメーカーの1本。特殊部隊での使用を想定して設計されたフォールディングナイフはとにかくタフで、グレッグは約10年前、アウトドア用品を扱うショップで購入した。「何千回も使ってても切れ味が良いまま。そのクオリティもそうなんだけど、ナイフを持つことでより気持ちを繊細でデリケートに保てることに驚いてるよ」。


Infrared Lamp
遠赤外線の効果で体の芯まで温めてくれる赤外線ランプヒーターは、以前グレッグがフェイスタイムでやりとりした際に友人が使っていたことがきっかけで、自身も使い始めたというもの。「前からセントラルヒーティングは違和感があって好きじゃなかったんだ。でもこれは光もきれいだし、肌にも優しい。寒い日でもサウナみたいに暖かくなれるよ」。

 
 

グレッグ・チェイト
1978年生まれ、カナダ・トロント出身。大学卒業後にエンターテイメント業界の仕事に就き、その後、ひょんなことから豪州ブランド“スビ”の米国でのローンチに携わることになる。友人から贈られたカシミヤ製ブランケットの心地よさに感銘を受けた実体験のもと、2007年には自身のブランド“ジ エルダー ステイツマン”を設立し、一躍、先鋭的なカシミヤ製品の旗手となった。現在は家族と海や自然に囲まれて、LAはマリブで日々を過ごしている。

 
 
 

Photo Hiroyuki Seo Interview & Text Rui Konno
Translation Mikuto Murayama
Edit Takayasu Yamada

 

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