Vivienne Westwood Accessories
今は身につけていないけど、特別なものとしてあるというヴィヴィアン・ウエストウッドのジュエリーは、20代の頃バイヤーとして世界を飛び回っていた時に身につけていたもの。「若かったですし、語学も弱かった。この指輪を身につけることで覚えてもらっていたんです」と当時を振り返りながら。旦那からのプレゼントされたものや、自分で購入したものなども含め、少しずつ集めていったそう。
上品な大人の女性に向けたカジュアルスタイルを提案するブランド(6)でディレクターを務める吉田恵理子。ブランド名の(6)には、エスニック、スポーツ、ミリタリー、マリン、ワーク、スクールの6つのエレメントが内包されている。ショップスタッフからマーチャンダイザー、バイヤーを経てディレクターになった吉田。長年良いプロダクトに囲まれたポジションに身を置いてきた彼女にとってのデザインの良いプロダクトの条件とは。
「ものとしての『品』、作り手としての『品』。この『品』というのは、謙虚さ、使う人への思いやり。これらを考えて作られているものが、デザインの良いプロダクトの条件と捉えています」。
2019年春夏のディレクションマップを広げながら、こう話し始めた吉田。次のシーズンは、プロダクトとファッションの相関性がアイディアソースになっているという。
「半年に一度というサイクルで発表され続けるコレクション、それ以上に消費されるスピードは早くなっています。私にとってファッションとは、楽しみ、生活をより豊かにするもの。その消費のスピード感に疲れを感じることもありました。ブランドのオリジナリティやフィロソフィ、より深く掘り下げられた物作りが求められている今。年月をかけて造られるプロダクトやアートピースの温もりにあらためて惹かれ、そのプロセスに憧れを抱きました。そんな価値あるプロダクトに似合う女性像をイメージしてディレクションしたのが次のシーズン。建築家のシャルロット・ペリアンが、インスピレーションソースになっています」。
シャルロット・ペリアンが残したプロダクトは、官能的であり、女性ならではの視点で表現されている。ハードさとフェミニンな繊細さ。直線が際立つ男性的なデザインと、女性的な柔らかいニュアンス。相反する要素が一つのプロダクトに調和している。(6)で吉田が表現しているものは、そんなシャルロット・ペリアンのものづくりの精神に通じている。
「角ばっているものが好きなんです。流線型よりもシャープなデザインが。男性的なデザインのものを女性が使うことに魅力を感じるんです。媚びてない感じがして。男性的な造形の中に、フェミニンさが見え隠れしているペリアンのデザインはとても魅力を感じます」。
吉田のセンスは、(6)の店舗の中にも見ることができる。彼女が空間作りで最も大事にしているのは、曲線美と余白だ。
「従来のセレクトショップの設計とは違って、離したかった。何か考えを持って余地を作っているように見せたくて、計算して余白を作ってみたり。商品を陳列するラックにもストーリーを持たせています。お客様に何かインスピレーションを与えられるような、余白を残したかったから。10月にオープンした大阪のお店は、メキシコの女性建築デザイナーのフリーダ・エスコベドがインスピレーションソース。素材や色使い、硬質的なものや凹凸感など、メキシコとイギリスの要素を随所に取り入れ、インダストリアルながら、エレガントさも兼ね備えた空間になっています」。
オリジナルとインポート、ヴィンテージが区別なく並べられ、テイストごとにスペースが設けられた贅沢な空間使いが特徴の店内。ファッションを楽しむ人たちに、新しい楽しさを与えてくれる服がそこにはある。
「20年近くセレクトショップで物の移り変わりを見てきて、クオリティが良く、着る人の気持ちを考えたリアリティがあり、トラッドマインドの感じられるプロダクトに惹かれる」。
日常生活の中でのプロダクトは、年齢を重ねることで変化はあるけれど、ファッションを粋に楽しむためのプロダクトの嗜好は、変わらないという。
「天邪鬼なところがあるんです。アンチテーゼというか、世の中に出ている方じゃないものが面白いと思う。例えばアクセサリー。人と被らずにアイデンティティを背負えるものを好んで身につけていました。ヴィヴィアン・ウエストウッドのジュエリーも、その一つ。私のブランドのアイデンティティにも『アンダーグラウンド バット メジャー』という言葉を掲げているのですが、“日常の半歩先のリアリティ”を追求し続けていきたいんです」。
表現は、受け入れやすく、入り口は、アンダー グラウンドに。他ではやっていない(6)らしい提案を。マスなマーケットにはないけれど、今の自分よりもセンスを引き上げてくれる可能性を(6)で吉田恵理子は提案し続ける。
Right: Fanni Lemmermayer Knit
オーストリアのブランド、ファンニ・レマメイヤーのニットは、20代で購入したもの。インポートの洋服を着たい、とにかく袖を通したい、その一心から。40代になりこのニットを自分らしく着られるスキルが身についた。デザインの面白さやクオリティ、このニットの編みがとても希少だということをしっかりと理解して着こなせるように。積み重ねてきた記憶と感覚で今っぽく着る。それがインスピレーションに繋がることもある。
Photo Toshio Ohno
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Interview & Text Maiko Okuhara |