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Interview with Jonathan Anderson (JW Anderson/LOEWE)
about Daily Chic

クリエイターが考えるデイリー・シック

本当にお洒落な人は、ファッションだけではなく様々なことに対してセンスが良い。それは持ち物の選び方かもしれないし、日々欠かさず行っている習慣や住んでいる家のインテリアかもしれない。どれをとっても良質な考えが洒落者にはある。ここでは、自分が着る服はもちろん、ライフスタイルにも気を配り、上質な日々を送るクリエイターたちにインタビュー。クリエイターが考える日々のお洒落、気持ちのお洒落とはどういったことなのか。日々の生活をシックに送れるアイディアをインタビューから紐解きたい。


Interview with Jonathan Anderson (JW Anderson/LOEWE)
about Daily Chic

クリエイターが考えるデイリー・シック

本当にお洒落な人は、ファッションだけではなく様々なことに対してセンスが良い。それは持ち物の選び方かもしれないし、日々欠かさず行っている習慣や住んでいる家のインテリアかもしれない。どれをとっても良質な考えが洒落者にはある。ここでは、自分が着る服はもちろん、ライフスタイルにも気を配り、上質な日々を送るクリエイターたちにインタビュー。クリエイターが考える日々のお洒落、気持ちのお洒落とはどういったことなのか。日々の生活をシックに送れるアイディアをインタビューから紐解きたい。


アートやクラフトと共生し
異種を組み合わせることによって“Dialogue”を生み出す
ジョナサン・アンダーソン

時代を牽引するデザイナー、LOEWEとJW Andersonのクリエイティブディレクターを務めるジョナサン・アンダーソン。LOEWEファンデーションクラフトプライズを設立するなど、アートに造詣の深いジョナサンは「自身にとってアートやクラフトは全ての礎となるものだ」。と話す。祖父が陶器のコレクターだったこともあり、幼い頃からアートに囲まれて生活することが当たり前だった彼に、本号のテーマ“Daily Chic”とはなにかを聞いた。そして語られたのは、アートをキュレーションしモノ同士から生まれるDialogue(=対話)によって新しいストーリーを作るという哲学的思考の話であった。

自宅の一角の様子。奥の壁に飾られた写真はジョナサンのインスタグラムにも度々登場する写真家ジョージ・プラット・ラインスのもので、手前の身体の線の細い彫刻はモー・ジャップの作品。

ジョナサンも敬愛している陶芸家であり、英国出身のウィリアム・ステイト・マレーの作品。宋王朝の中国陶磁器から影響を受けたというマレーの作風がこの皿からも感じられる。

 

アートを多角的に理解し
空間に落とし込むキュレーション

 
様々な海外誌で特集され、“ホームギャラリー”と称されることも多いジョナサンの自宅には、彼の審美眼によってキュレーションされたアート作品が集められている。自身が「長年かけて集めてきたものは、日記のようなもので、家はパーソナリティを映し出すもの」と言うジョナサンは、キュレーションについて「自身のidentityを考え、自分がどんなものが好きなのか知ることがキュレーションをする上で大切な事であり、日常のシックを生む。僕にとっては自分では作れない陶器や彫刻を自宅にコレクションすることが、最高の空間作りに繋がる」と話す。
 
そんなジョナサンが住むイギリスは初めのロックダウンから約1年が経過した今も外出制限は厳しく、家で過ごす時間がほとんど。イギリスのロックダウンは日本より厳しいもので、食品を扱う店以外は開いていない。彼は、「家で仕事やリサーチをして過ごすうちに物事を深く、そして抽象的に考えるようになった」と趣向にも変化があったことを話してくれた。「この生活で僕はよりオーセンティックで、現代のモダンとは少し違ったオールドファッションなものに惹かれるようになった。オールドファッションと言ってもミッドセンチュリーや60年代、70年代ではなくもっと古い時代のもの。イギリスを代表する建築家ロバート・アダムスが建てた家に、トーマス・チッぺンデールの家具を揃えたような英国富裕層のクラシックな邸宅にも興味をそそられるね。16世紀から現代に至るまで何世代もの家族がその屋敷に住み、様々なアイテムを追加し、変化していく。それはその一家がどう発展したのかを示し、歴史を表しているんだ」。
 
彼は、視覚的、表面的なものだけではなく、アートを多角的に捉えているのだ。時間を重ねて進化していく趣味やテイストは、ジョナサンのスペースを一目見るだけで明らかである。自分のキュレーションしたモノたちがまとめて見える日常を過ごすスペースこそがジョナサンにとってのDaily Chicの象徴ともいえる。

在英日本人で陶芸家のアキコ・ヒライの作品。昨年ロンドンの中心部SOHO地区にオープンしたJW Andersonの旗艦店で企画展示されたもの。SOHOという場所がら、ウィスキーグラスやおちょこなど、ドリンキングカルチャーに纏わる作品が展示された。

ジョナサンがよくインスピレーションを受けているポストミニマリズムを代表するアーティスト、リチャード・タトルの作品。空間やスケール、身近にある素材を使った作品に落とし込む作風は、ジョナサンのクリエイティブとも繋がる。

 
 

異なる2つのモノの対話でつくる新たなストーリー

 
オールドファッションなモノに惹かれると話すジョナサンだが、同じ時代背景のものだけで部屋をアレンジするほどつまらないものはないと話す。「1日にはいろいろなムードがあるから、1つのディレクションだけで家全体をアレンジすることは不可能だと思う。落ち着きたい時には暗めの部屋、仕事をする時にはもう少し明るいスペースが必要だ」。さらにこう続ける。「僕は不均衡なものを組み合わせて“Dialogue”を作るのが好きなんだ。例えばコンテンポラリーアートだけで家をコーディネートしたら現代アートを文脈づけるものがない。でもコンテンポラリーアートの隣に16世紀からの椅子を置いてみたらどう?その2つが共鳴して、歴史やバックグラウンドを示すことができる」。
 
彼の家の一角にそれは如実に表れている。壁には、ファッション/シュルレアリズム写真家ジョージ・プラット・ラインスの写真が飾られ、手前にはモー・ジャップの彫刻。そして右手には英国王室を思わせるロイヤルブルーの花瓶に飾られた淡いピンクの花。それらの時代背景やジャンルは全て異なる物で、何の脈絡もなく飾られているようにも思えるが、どこか統一性があり、1つでも欠ければ“不完全”な物になってしまうような絶妙なバランスがある。それこそがジョナサンが“Dialogueで創り出した新たな文脈”なのだ。
 
このDialogueというアイディアは2017年にイギリスの美術館で開催された企画展“Disobedient Bodies”(反抗的な体たち)の展示図録でも用いられたアプローチで、直訳すると“対話”という意味である。そんな異質な物の対話で生まれる新しい文脈を作り出すのが好きだと語るジョナサン。少し抽象的な答えだが、一見辻褄の合わないものを組み合わせるという方法は、シュルレアリスムのコラージュアーティストの様な考え方と近い感覚があるかもしれない。
 
また“Dialogue”的思考は生活空間だけにとどまるものではなさそうだ。以前よりジョナサンは、「クリエイティブディレクターという仕事は、情報を精査し巨大なパッチワークを製作するようなものだ」と話している。不均等なものを張り合わせて文脈を作ると言うのは、視覚的なものだけではなく、彼のクリエイティブの軸ともなる思考回路なのだろう。振り返るとジョナサンは様々なアーティストとコラボレーションをしてきた。最近だと、LOEWEとトトロのコラボレーションを思い浮かべる人も少なくないであろう。一見相容れない日本のキャラクターと老舗ブランドのコラボレーションだが、ジョナサンというフィルターを通し見事に“ファッション”に落とし込まれていた。彼にとってほかのアーティストと協働することも、Dialogueを生み出すプロセスなのだろう。
 
アートでも仕事でも異素材を組み合わせたり不均衡なものを並べることをジョナサンはきっと無意識的にしていて、それは彼の揺るぎない価値観なのだ。LOEWEのデザイナーとしてパリで過ごす日々と、JW Andersonのデザイナーとしてロンドンで過ごす二重生活のうちに培われた思考力なのかと思われるが、アイルランド人として英国に育ったからではないか?と彼自身は分析していた。
 
少し余談にはなるが、彼はインタビュー中一度もコーディネートという英語を使っていない。ファッション業界では最も使われるであろうそのワードを全て“Talk”や“Communicate”という言葉に置き換えていたのだ。それはまるで彼がすべての作品に”生命”があると捉えているように感じられる。

黄色い背景に浮かび上がるように見える二つの木の彫刻にレモンを持たせたシュールな印象の作品はミラノサローネに飾られたもの。

JW Andersonオフィスの写真。彼のデスクに置かれた陶器は日本で購入したもので、アーティストは不明。

 
 

自然体な空気を纏うこと
スタイルを貫く事でシックは生まれる

 
アートをキュレーションし新しい文脈をつくるという思考で生活を豊かにし、それをクリエイティブに落とし込んでいるジョナサン・アンダーソンだが、ファッションに関して、自分は“lazy dresser”だと話す。
“Lazy dresser”とは自分が着る服に対して、そこまで気にしていないという意味だ。「大学生の頃は、少し奇抜なファッションもしたけれど、ファッション業界で働くようになってから、僕のワードローブはどんどんシンプルな物になって、素敵なセーターと、デニムがあれば充分だと思うようになった。デザイナーとして日々洋服を生み出すことで精一杯で、朝自分のコーディネートに使う時間はないんだ」。という。デコレーションされた家とは裏腹に彼の洋服はとてもミニマルに削ぎ落とされている。
 
そんな彼が思うシックを体現する人物像を聞いてみると、「昔プラダのビジュアルコミュニケーションディレクターのマヌエラ・パヴェージという女性の元で働いていたんだけど、彼女のスタイルはとてもエフォートレスであったし自然体だった。新しい洋服もヴィンテージも垣根なくミックスして着ることが上手で、自信に満ち溢れた空気感を纏っていた。結局のところスタイリッシュに見えるためには“自信”というのが根底に必要だ」との答え。また、エリザベス女王についても「全身を一色でコーディネートするモノクロームな50sスタイルはとてもオールドファッションで、現代では稀だと思う。でも彼女は何年もあのスタイルを貫いていて、それは女王を象徴する洗練されたスタイルになった」と語った。表面的なお洒落ではなく、自分のスタイルを持ち貫くこと。そんな姿勢や生き方が外見を司るものになると言う。
 
「ファッションは仕事で、アートはパーソナルなもの」。そう語るジョナサンにとってアートとは当たり前の存在だ。アートやファッションを表面的に見るだけではなく、そのモノが持つバックグラウンドを深く理解することを前提に、キュレーションし“Dialogue”を作る。この哲学的プロセスがジョナサンの“粋”な日常とクリエーションを司る軸であり、彼の“Daily Chic”なライフスタイルを支えているのだろう。
 

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