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Interview with
Hiroki Nakamura

クリエイターが考えるデイリー・シック

本当にお洒落な人は、ファッションだけではなく様々なことに対してセンスが良い。それは持ち物の選び方かもしれないし、日々欠かさず行っている習慣や住んでいる家のインテリアかもしれない。どれをとっても良質な考えが洒落者にはある。ここでは、自分が着る服はもちろん、ライフスタイルにも気を配り、上質な日々を送るクリエイターたちにインタビュー。クリエイターが考える日々のお洒落、気持ちのお洒落とはどういったことなのか。日々の生活をシックに送れるアイディアをインタビューから紐解きたい。


Interview with
Hiroki Nakamura

クリエイターが考えるデイリー・シック

本当にお洒落な人は、ファッションだけではなく様々なことに対してセンスが良い。それは持ち物の選び方かもしれないし、日々欠かさず行っている習慣や住んでいる家のインテリアかもしれない。どれをとっても良質な考えが洒落者にはある。ここでは、自分が着る服はもちろん、ライフスタイルにも気を配り、上質な日々を送るクリエイターたちにインタビュー。クリエイターが考える日々のお洒落、気持ちのお洒落とはどういったことなのか。日々の生活をシックに送れるアイディアをインタビューから紐解きたい。


自然と一体になり自分らしく日々を送ること
中村ヒロキ
自然と繋がり感度を上げる
そのために必要な生活環境

 
「この家で暮らしていて、もっとも気分が良くなる最高の時間というのは、どんな瞬間なのでしょう」。という問いかけをビズビムのデザイナー、中村ヒロキに投げかける。土間に置かれていた革張りのソファに深く腰掛けていた中村は、視線を外に向け、少し間を置いてこちらを振り向き「よし、ちょっと体験させてあげよう。上がってきてください。ここに座って」と畳が敷き詰められた居間へ案内してくれた。言われるままにして前を見る。程よい広さの庭園に梅の木が満開の光景。そこに昼過ぎの柔らかな陽射しが差し込んでいた。風が吹いて、梅の花びらが舞うと「今ですね。この瞬間。ここに座って隣では妻がコーヒーを飲んでいて、僕の方は次に何を作ろうかな、なんて考えている。それが幸せな時間ですね」。
 
ビズビムのウィメンズライン、WMVのデザイナーでもある奥方、ケルシーと暮らしているのは、江戸時代に作られたという大きな屋敷。古い日本家屋に住みたいと考えていた中村が物件探しをしていたところ、オンラインで見つけて、すぐに申込書をFAXしたのだとか。そのときはアメリカに出張をしていたが、帰国して実際に家を見た瞬間、すぐに引っ越しを決意することになった。それから約15年ほど同じ家で生活を続けている。
 
「ものを感じないといけない仕事なので自然と一体になることで自分の感度が良くなるように、常にそういう環境に身を置きたいと考えています。古い日本家屋ですから隙間風が入ってきたり、夏になれば蚊も入ってくる。ときには狸やハクビシンが屋根裏にやって来たりもする。でも、庭の梅が今日は満開で、外の匂いが家の中にいてもわかるじゃないですか。この庭には、ほかに桜ともみじが植えられていて、家の中にいるだけで四季を感じられるんです。これは、僕の物作りに対するコンセプトとも近い感覚です。昔の物作りにインスピレーションを受けることが多いので」。
 
ビズビムのプロダクトは2000年の設立以降、普遍的であること、後世に残っていく物作り、というコンセプトを根底に持って作られ続けてきた。世界中の伝統工芸品に見られるディテールや長い歴史が培ってきた職人が持つ技術が、そのインスピレーション源になっている。それらを現代にマッチする形に再解釈し、我々に提案するのがビズビムのスタンスだ。これは、洋服だけではなく建築や道具にも同じことが言えるが、連綿と続く人の営みの中で、その時々に過去から着想やヒントを得て改良され、次の時代へ繋いできたのが物作りという行為。中村が行っているデザインとは、そういう作業のことを指す。
 
「現代の家の作りは、外と中で空間を分けて作られていますよね。それが苦手なんです。例えば、出張でホテルに宿泊すると、空調で気温をコントロールするじゃないですか。そういうところにいると自分の感覚がおかしくなって、ものを感じなくなってきてしまいます。自然は支配しようとするものではなく、一緒に生きるものだと考えているので、僕は生活をする場所に関して、感覚的に半分は外にいたいんです。僕ら、本当は自然と一体ではないですか。それが感じられる生活環境が好きですし、物作りにも活きてくると考えています。自然であったり、地球であったり、より大きく俯瞰して捉えれば、すべてが何かの一部分を担っている。僕ら人間だけ全然違うものっていうわけにはいかないですよね。そういうコンセプトが好きです。自分の物作りにおいても」。

中村が「幸せな時間」を過ごす縁側の脇に設置されたスペース。梅と桜、もみじの木のある庭を一望できる。

縁側に差し込む陽光。窓を開けていなくとも家の中まで空気が循環し、室内には静謐な時間が流れる。



取材日前日に行われた中村の50歳を祝う誕生日パーティの飾り。奥さんのケルシーがサプライズで和紙に絵を描いた装飾がたなびく。

 
 

自分だけの判断基準を持って
好きな物をセレクトすること

 
ここで生活するようになって、日本家屋がいかに合理的かつ機能的に作られているのかを体感したという中村。家の外にある壁は10年ほど前に発酵させた藁や土を混ぜて作った土塀だが、崩して新たに塗れば壁ごと動かすことができる作りに。中でも象徴的だったのが居間の畳だ。
 
「今、敷いている畳は11年前に、ここで結婚式を挙げた時に新調したのですが、最初に変えた畳が現代用の畳だったんですね。現代の畳は裏面に板状のプラスチックが敷かれているそうで、それに変えた瞬間に、家の中の空気が流れなくなったと感じました。蒸れてくるし、家が呼吸をしていないと感じて。後日昔ながらの作りの畳に交換してもらったら、また空気が流れるようになって涼しくなりました。これは畳の下が地面になっていて通気口の役割を持っていたから起きたことなんですけど、日本の昔の物作りって本当にすごいですよね。日本の風土に合った作りをしているから、天然のものが持つコンストラクションは、僕らが知らないだけで意外と機能的なんですよ」。
 
この話はビズビムで作っている靴にも通じるものがある。「僕が作っている靴は肌が触れる部分は天然素材にしています。顔料も使いませんが、それを使って色を染めたりすると素材の毛穴が詰まってしまい通気性が悪くなるんです。レザーもベジタブルタンニングで皮革が本来持っている組織を潰してしまわないようにして使っているので蒸れたりしない。この家も同じで、空気が循環していて通気性や透湿性に優れています」。
 
庭に咲く梅の花を見ながら、話を続ける中村。BGMは居間の奥に置かれたJBLのパラゴンから流れて家全体に反響し、肉感を持った音として響くジャンゴ・ラインハルトのギター。「音楽はジャンル問わず聴きますけど、できるだけ生々しい、1本のマイクでレコーディングしたような音が好きなんです。デジタルじゃなくて単なるアナログでもない。こうして座って聴いているとアコースティックサウンドになっているでしょ。これが最高なんです」。
 
中村は日々、自分の気分を上げる物をどのようにセレクトしているのだろうか。家を見渡せば見たこともないような興味を惹かれるものばかり。流行りものなんて、もちろん1つもない。どこかの国で作られた年代ものなのだろうか。「物を探すときは骨董市やディーラーを巡ることも多いんですけど、選ぶ基準は自分の心が動くかどうかを大事にしています。例えばフルーツでものせて食べてみたいなって食器を選んでみたり。自分がそう思ったから、それでいいと思います。今も昔も変わらず肌身離さず持っているものはサングラスですね。この形を気に入っていて、サングラスはもうずっとこれだけ。その物に対する情報や知識は自分にとって重要なことではないですし、あえて古い物だけを選んで身の回りに置いているというわけではありません。縁側脇の椅子と一緒に並べているのは、どこで拾ったのかもわからないようなローテーブルです。でも、いいじゃないですか。自分が気に入っていれば。人がどうこう言っていることは気にせず、自分が好きだと思うことを自分のフィルターで判断していくことが必要なんじゃないですかね。ヴィンテージの洋服にしてもそうですが、何だか言葉でうまく説明できないけどカッコいいってことがあるじゃないですか。僕もそこからスタートしていますけど、何か素敵だなって思う自分の感覚を、なぜそう感じるかを掘り下げていって今に至っています」。

居間の奥に置かれているJBLのステレオシステム、初期型パラゴン。レコードのサウンドが家と呼応して、まるでライブ空間のようにリアルなサウンドを奏でていた。

常に生活の中で使い続けているフランスメイドのサングラス。昔から変わらず、この形のサングラスを愛用し続けている。

デザインが琴線に触れて手にすることになった食器群。中村が物を選ぶ基準は、他人からもたらされたインフォメーションではなく、自分の心が動かされたかどうか。

真綿が詰められた敷物。座っているうちに温かくなって心地が良くなってくるのだそう。この素材の優秀さに注目し、ビズビムでもプロダクトに使用している。

 
 

本当に大切なことは何なのか
それを考えた先にある物作り

 
物選びにしても物作りにしても、一貫して変わらぬ姿勢を持ち続ける中村。一方で、2020年のパンデミック以降、世界は大きく変化し人々の価値観も変わらざるを得ない状況になっている。この時代にあって、何か精神的に変化したことはあるのかを訊ねたところ「その話は長くなってしまうと思うから、せめて良かったと思ったことを話そうか」という前置きと共に次にように続けた。
 
「やっぱり出張が減ったことで、移動にかけていた時間がなくなったというのは良いことでしたね。その分、じっくりと物事に向き合えたし、家族と過ごす時間を得ることができました。今まで様々な現場で築いてきたサプライヤーとの信頼関係もあって、そんなに頻繁に移動せずとも、それこそオンラインなどを活用することで有意義に時間を使えている感覚はあります。今後、世界中を再び自由に行き来できるようになったとしても、以前と同様の動きをしないかもしれません。色んな意味で無駄な動きに気づけたのかもしれないですね。今回のことは、何が本当に大切なのかを考える良い機会になったと思っています。もちろん、自分たちが信じる“長く使って良いと感じる物”であったり、“本当に良い物ですよ”と自信を持って提案できるものだったり、“どうしたら時間というフィルターを通して良い物が作れるか”という、今まで通りの物作りへの姿勢や、僕らがやろうとしていることは、これからもまったく変わらないことですが」。
 
そのように何が大切なものかを追究することで、中村の意識は今、精神的な方面へ向かっている。「日本の職人さんには独自の文化があって、物を正確にしっかりと仕上げようという誠実さがあります。色を表現する際も、完璧に指示通りに再現したり。そこには技術面はもちろんですが精神的な積み重ねがあって、僕らの物作りを今、支えてくれています。その職人さんの精神的な背景に僕はすごく興味があって、大切にしたいと思っています。自分に対して誠実にやっていくという職人さんが持つ姿勢がないと、僕らは物作りができないですから。そういう精神的な世界や哲学、倫理観みたいなものが重要だと感じています」。
 
最後に、中村の思考や物作りに影響を与えた物を紹介してもらった。そこで登場したのがネイティブアメリカンのコンチョベルトとモカシン。「ヨーロッパから銀が入ってきた時代に、自分たちのファッションの一部になるように変化させ装飾品にしたものですね。それを見た僕らが、形を変えて新しいベルトを作りだして。このモカシンはバッファローの腱を使って靴底を作り出しているんですけど機能性にも長けています」。そして真綿の敷物。「昔、日本では蚕から真綿を取って作り出した服がよく着られていましたが、真綿はダウンと異なり摩擦で温かくなるんです。しなやかでドレープがあるから着用時のシルエットも出やすいし、すごく良い素材で。真綿を使った服はビズビムでも作りましたね。コンチョベルトやモカシンもそうですが、このように過去の物にインスピレーションを受けて物作りしているんですよ」。自分の中身における本質的なこと。つまり、自分が何が好きなのかを大切にして、自分らしく生きること。この取材の前日、この家で50歳の誕生日パーティを行ったという中村の生活の中には、そんなお洒落が溢れている。

ネイティブアメリカンが作ったコンチョベルト。ヨーロッパから銀が渡ってきた時代に、彼らならではのセンスでスタッズを打ったりして、自身のファッションに取り入れていったもの。その根底にあるのは「みんな愛されたいからなんだと思います」と中村。

ネイティブアメリカンのモカシン。バッファローの腱をこよりにして靴底を作っているものだが、ここからも物作りへのインスピレーションを得たという。


 
中村ヒロキ
1971年生まれ。2000年にビズビムをスタート。2013年よりウィメンズラインのWMVも手掛けるデザイナー/クリエイティブディレクター。長く使い込むほどで経年変化し、美しくなるような物作りを行い続けている。
 
 
 

Photo Yusuke Abe Interview & Text Ryo Tajima Edit Takayasu Yamada

 

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