Loading...

EDSTRÖM OFFICE / Yoshiko Edström 03
Interview about “Savoir-Faire”

EDSTRÖM OFFICE / Yoshiko Edström 03
Interview about “Savoir-Faire”

人生に彩りを添える匠の技
パリという街が教えてくれた
“サヴォアフェール”の価値

 
いま心惹かれるものは何ですか?彼女にこう尋ねると「サヴォアフェール」という耳慣れない言葉が返ってきた。響きから想像するに、どうやらフランス語がルーツらしい。早速辞書で調べてみると、そこには「スキル」や「ノウハウ」、「才覚」といった表現が並んでいた。
 
国内外の様々なブランドのPRを担当するエドストロームオフィス。そのエージェンシーの代表として、エドストローム淑子は働いている。オフィスを設立したのは10年前。以降メディアとブランドの架け橋となり、大小20以上のブランドのプロモーション業務を行っている。いまは日本を拠点としているが、キャリアの基盤にあるのは青春時代を過ごしたパリ。現地のファッションカレッジを卒業後、全盛期のマルタン・マルジェラをはじめ第一線のデザイナーと仕事をするなかで、彼女は匠の技の素晴らしさ、その存在の尊さに深く感銘を受けるようになったという。「フランスで“サヴォアフェール”というと、人間国宝に近い。卓越した伝統技術を持っている方々を指すのですが、フランスってカフェのウェイターも洋服の販売員も、みんなすごく自信を持って仕事をしてます。そしてサービスを受ける側も彼らに対してリスペクトがある。そういった専門職への理解のされ方、認められ方が社会に根付いていることが、本当に素晴らしいなと思うんです」。何世代にも渡って技を継承してきた人もいれば、一から学んで次世代に伝えようとしている人もいる。サヴォアフェールにもいろんなタイプの人がいるけれど、時代の波もあってその数は年々少なくなってきていると彼女は語る。「いま世界環境を考えた時に、第一にゴミを減らさなければいけないという問題がありますよね。でもこのサヴォアフェールの技術を活かせば、何世代に渡ってモノを受け継ぐことができる。もちろん技術そのものに惚れ込んでいる部分もありますが、そういった社会的背景から考えても彼らの存在は尊くて。だからこそ大切に守って次の世代に継承していかなければと思うんです」。
 
そんなエドストローム淑子が、プライベートでサヴォアフェールを感じるものというのが、職人が手作業で作りあげる暮らしの道具。京都・有次の包丁や銅鍋、ウィーンの工芸作家カール・オーボックのブックエンドなど、そのセレクトは国もジャンルも様々だが、選ぶときの基準などはあるのだろうか。「お互いが引き合う力、インスピレーションみたいなものはすごく重要だと思います。パッと見たときにどれだけ素敵だと思えるか。それは家を選ぶ感覚にも似ているのかもしれません。美しいと感じたり、心から好きと思えるものと一緒に過ごせるのはすごく楽しいし、生活自体が豊かになる。この喜びは子ども達にも伝えていきたいと思っています」。


 

Aritsugu knife

京都を代表する金物屋の有次。創業1560年、室町時代から続く由緒正しい金物屋の包丁を、彼女は長年愛用し続けている。もともと刀鍛冶から始まった店のルーツもあり、その切れ味の鋭さはお墨つき。多くの料理人から絶大な信頼を寄せられている。「有次さんはまさに日本のサヴォアフェール。出身が京都ということもあり、愛着もひとしおです。東京の百貨店でも購入することができますが、私は京都の錦市場にある本店のあの雰囲気が好きで、帰省するとよく覗きます」


 

Otsuka Hamono Kaji multi-tool knife

この万能ナイフは鳥取で代々続く鍛冶屋、大塚刃物鍛冶の職人によって生み出されたもの。希少価値が高いといわれる安来のたたら製鉄で作られた鋼を熱して、1つ1つ手間暇をかけて作られる。「どうやら砂鉄が原料として使われているみたいで、シェイプも独特で面白いですよね。柄には桜の木があしらわれ、軽くて使い心地もすごくいいです」。刃にうっすら浮かぶ波模様は日本海を表現。いびつな柄の形と相まって、工芸品のような独特な雰囲気を漂わせている。


 

Carl Aubock bookends

ウィーンのクラフト作家・カール・オーボックの作品が好きで、いくつか蒐集しているという彼女。金属工房を営む両親のもとで工芸技術を習得しつつ、バウハウスでアートも学んだ彼は、優れた彫刻の腕をいかし、写真のブックエンドをはじめ数々の名品を世に送り出した。「ご本人はもう亡くなっていますが、工房のオーナーと知り合う機会があって、記念に譲り受けることに」。真鍮の朴訥としたフォルムと、モダニズム的な直線と曲線の融合が美しい。


 

Carl Aubock wood box

経年によって味わいが増したこの木製のボックスも、ブックエンド同様カール・オーボックの作品。「民藝運動の作家といえばバーナード・リーチや柳宗悦が有名ですが、カール・オーボックも同時代に活躍していた才能あふれる人。この容れ物もウィーンに遊びに行った際、現存する工房のオーナーから譲り受けました。サヴォアフェールの技術のなかに、カールらしいモダニズム的なエッセンスが内包されていて、この作品もすごく愛着がわきますね」。


 

Kurikyu wood container

秋田の伝統工芸品として知られる曲げわっぱ。真っ白な天然杉を使って作られる、この栗久のおひつにも、道具としての素晴らしい魅力があるという。「炊きたてのご飯は必ずここに移してからいただくのですが、数分置くと水分がほどよくとんで、格段においしく感じられるんです」。機能性もさることながら、その見た目の美しさも評価され、過去にはグッドデザイン賞を受賞。美しい年齢やモダンな曲線のフォルムは、世代を超えクラフトファンを魅了する。


 

Aritsugu copper pan

10年近く愛用しているというお気に入りの銅鍋。こちらも包丁と同じ、京都の有次にて購入。銅の表面は錫引き加工が施され、さらに打ち出しで凹凸をつけることによって、熱が均一に伝わりやすくなっているという。「表面の無数の槌目は、職人が1つ1つ手作業で打ちつけているんです。私はしゃぶしゃぶ鍋やパエリアを作るときによく重宝しているのですが、このままテーブルに出しても綺麗だし、調理の枠を超えていろんな使い方ができるんです」。

Related article