数年前まで住んでいたロンドンで、たまたま見かけたリングに思わず心を奪われた。自分は、滅多にジュエリーを身につけないのだが、時々リングが欲しいと思うことがある。そんな衝動に駆られる度に悩んで買っていた。しかし、買っても数ヶ月経つと結局しなくなってしまう。その繰り返しが続いている。やっぱりロンドンで出会ったあのリングの存在が忘られないのが原因なのだろう。そんな自分が片思いしたのが、ロンドンを拠点に活動する彫り師でジュエリーブランドのカストロ スミス(CASTRO)によるリングだ。イギリスの伝統的な技術を継承する金細工師組合や日本の人間国宝である工芸作家のもとで学んだ経験を持つカストロ。それを聞いただけでも彼のものづくり対する情熱を感じてしまう。歴史や神話、生物学から着想を得た独創的な彫刻。彼の巧みな技術が全面的に施された繊細なディテールには感銘を受ける。古代エジプトの壁画に彫られた文字のように永遠と残っていく、ものづくり精神が宿るリングは彼の美学で溢れている。
Text Shunya Watanabe | Photo Taijun Hiramoto |