昨今、自身のインスタグラムやメディアのインタビューなどを通し、腕時計好きな印象が強い尾花。しかし、本格的に腕時計の世界に凝っていったのは意外にも最近のことだという。「もちろん腕時計は好きでした。でも、若い頃の古着のスタイルは、変わったマニアックなことが多く、『王道なヴィンテージスタイルとロレックス』というのが自分には、どうもしっくりこなかった。当時のスタイルはカシオのデータバングなど、変わったデジタルウォッチを買っては好んで着けていました。そして5年前くらいに、藤原ヒロシさんと京都で食事をしていた時、ヒロシさんが着けていた見たことの無いレアな腕時計を目にし、これが完全にハマるきっかけとなりました。時計のスペック、Ref番、シリアルナンバーetc…、調べるうちに、深い腕時計の魅力の沼にハマっていく訳です」。それから、ロレックスを中心にヴィンテージをコレクションするようになる。しかし、どうしてもロレックスが持つ印象に虚栄心を感じ着け辛いと感じることが多かったようだ。「コレクションするのは楽しいのですが、着けていてファッション性よりもどうしても虚栄感が前に出てしまう物もあり……。時計と車って似ているなと思いました。ただ、カージャーナリストの徳大寺(有恒)さんが生前言っていた話で『車好きっていうのは何を乗っていたって虚栄心の塊に見えるんだから、とにかく車が好きだと周りに言いなさい』と。この話の記憶もあったのと、何よりも素晴らしく美しい世界だったので色んな人と共有したくなりましたね」。
そんな尾花の腕時計のコレクションから紹介する1本は、米国発の時計メーカー、エルジンの1920年代のドライバーズウォッチ。これは、時代背景やデザインに惹かれた腕時計だと話す。「10年くらい前、LAで決まって覗くジュエリーディーラーで、これに出会いました。シルバー製で竜頭の位置も変わっているかなりの年代物にもかかわらず、100ドルと言われ。帰国後、調べてみると、車に時計がない時代のドライバーウォッチという代物だったんです。その為、文字盤の表記が45°右側ずれていて、手首の脇にくる様につけるのが正しいと知り。要は、ハンドルを握った時に見やすい様に造られていているそうなんです。なんとも昔の人は、機能をセンスよくデザインに落とすなと思いましたね。そういう時代背景や出会ったストーリーに思いを馳せながら着けられる1本ですかね」。
![]() | 尾花大輔 N.HOOLYWOODのデザイナー。古着屋でバイヤーなどを経験したのち、2001年からブランドを開始。東京オリンピック聖火ランナーのユニフォームの監修やNYでのコレクション発表を続けるなど日本のファッション界を牽引し続ける人物。 |
Photo Riki Yamada | Interview & Text Takayasu Yamada |