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Interview with
Ruba Abu-Nimah Creative Director
about Daily Necessities

クリエイターが愛する
毎日を豊かにするモノ

情報や流通が進み、世界中のあらゆる買い物がし易くなった現代。気づけば今、私たちの周りには様々なモノが溢れている。豊富な選択肢の中でも上質なモノ、トレンドなアイテムは物欲を刺激されるし、持つことで所有欲が満たされるかもしれない。でも、毎日を共にしたくなるような自分にとって本当に必要なモノは何だろう。持っていることでポジティブな気持ちを高めてくれるモノ、思い出のあるモノ、人生が豊かになるモノ。そんな価値観でモノ選びをすることで、それは日々の生活をより良くしてくれるようなかけがえのない存在になるはずだ。自分の価値観を持ったクリエイターたちの大切にするモノとは。

Interview with
Ruba Abu-Nimah Creative Director
about Daily Necessities

クリエイターが愛する
毎日を豊かにするモノ

情報や流通が進み、世界中のあらゆる買い物がし易くなった現代。気づけば今、私たちの周りには様々なモノが溢れている。豊富な選択肢の中でも上質なモノ、トレンドなアイテムは物欲を刺激されるし、持つことで所有欲が満たされるかもしれない。でも、毎日を共にしたくなるような自分にとって本当に必要なモノは何だろう。持っていることでポジティブな気持ちを高めてくれるモノ、思い出のあるモノ、人生が豊かになるモノ。そんな価値観でモノ選びをすることで、それは日々の生活をより良くしてくれるようなかけがえのない存在になるはずだ。自分の価値観を持ったクリエイターたちの大切にするモノとは。

幸せになれるいいデザインはハイやローなんて関係ない
ルバ・アブ=ニマ

フリー スローラインで手を膝に付いているマイケル・ジョーダンと暴走している赤いポルシェのGT3RS。鼻を摘んで仰向けでお湯に浸かっているフランク・オーシャンと濡れている花。ルバ・アブ=ニマのインスタグラムを見ると、このように二つの写真が並置されたフォーマットの投稿がズラリと並ぶ。写真は芸術、文化人、建築、車、グラフィックなど多種多様なカテゴリーから選出される。一見すると色、形、質感だけが似ているように見えるが、写真一枚ずつの背景を検索して並置されているものを比べると、思わぬ奥深い繋がりが見えてくる。これこそが世界トップレベルのクリエイティブディレクターの力だ。資生堂、エルなどのクリエイティブディレクターとして活躍し、現在は美容ブランド「レブロン」のグローバルクリエイティブディレクターとして働いている。彼女が世に出す作品を見てみると、文化や芸術、デザインの知識の奥深さは一目瞭然。そんな彼女はどのようにモノを選び、日常を過ごしているのだろうか。
 

幼い頃から磨かれたデザインセンスで
モノを選び、長く大切に使う

 
中東で生まれ、一時ロンドンにも住み、大学はニューヨークのマリーランド州に通い、東京でも2年間働いていた過去を持つルバは、現在はニューヨークを拠点に活動。今まで世界中の文化を吸収し、その幅広い経験と知識を自身のアウトプットや空間で表している。自宅の空間を作り上げるとき、自分が考えるベストだというモノを時間をかけて世界中から探し出し、生活に取り込んでいる。その結果、あらゆるところに必ず何かしらのデザイン史に残る名作が置いてあり、彼女のアパートがデザイン博物館である錯覚に陥るほどだ。40年もかけて夫と集めてきた大量の写真やデザインの本はディーター・ラムスが手がけたヴィツゥ社製の本棚の上に並び、別のイームズの棚にはゼロ・ハリバートンのケースと日本の写真集が飾られている。ニューヨーク現代美術館にも所蔵されているリチャード・サッパー作のテーブルランプは学生の時に買ったモノで、今でも家に飾られている。このように彼女の家にあるものはどれもプロダクトデザインとその歴史を辿ると必ず出てくる名作ばかり。長年自分で見て、感じて、使った上でこれらは揃い、その過程で自身の日常的なアイテムの審美眼も磨かれていった。
 
彼女が美しいデザインに初めて触れたのは子供の頃だという。デザインが実際にどういうものであるかを知る前から彼女はすでに良いデザインに囲まれ、それを愛していた。「大学へ行く時、母の家からパンのバスケットとコーヒーグラインダーを内緒で持って行ったことがあった。当時は気づかなかったけど、バスケットはイタリア製のアレッシーデザインで、コーヒーグラインダーはブラウン社のデザインだった。デザイナーは誰なのか知らなくても、プロダクトそのものに魅了され惹かれていました」。幼い頃から良いデザインに囲まれ日常的に使用していると、そうでないモノを使う時には直感的に分かるのだろう。そんな幼い頃からの経験によって、ルバの好き嫌いはとても明確となり、嫌いなものはすぐ使わなくなり友人にあげてしまうという。「デザイン的に私のセンスに反しているモノは、たとえ日常的に便利なモノであっても絶対に使わない。わかりやすいところで言うと、私は人生で1回も食器棚をキッチンに置いたことがないの。とにかくカッコ悪いから使おうとも思わないし、キッチンに置こうとも思わない」。長年研がれきたセンスは彼女のモノを選ぶ方位磁石であり、「美しくて、便利なことが大切だと思うわ。家に置いて毎日を過ごすから、その2つのアイディアが混ざり合っているか、ただ美しいモノだけを選んでいる」と話す。その本能に従って美と実用性のあるモノを選ぶことで、結果的にモノを長く使う習慣がある彼女。今でもキッチンに置いてあるブラウン社のパスケットは子供の頃から使いはじめたモノで、20年前に買ったウェッジウッドのボーンチャイナのお皿も毎朝使って1日を始めている。いいモノを見つければ、それを使うことで日常を幸せに生きることができる。美術館にも置けるようなクオリティ、そして彼女の目にかなったデザインのモノを使うことで毎日が特別だと感じられるのだと話す。
 
資生堂のクリエイティブディレクターとして二年間東京に住んでいたことで、文化によってモノの扱われ方が違うということを実感し、視点が大きく変わったという。「特にアメリカでは、機能性を重視してデザインされているものが多くありますが、美しさはそこまで重要視されていない。これはまさに日本の真逆。日本で何かを買いに行くと、たとえそれがありふれたものであっても、エレガントにラッピングして、テープで止めてくれて、両手で目を合わせながら手渡ししてくれる。店員がモノに対する尊敬の念を持っているから、お客さんと買ったモノとの関係が変わると思う」。日本の丁寧で礼儀正しい店員の態度は、外国人からすると新鮮なのだという。例えば家のスリッパを買っただけなのに、貴重品のように扱われて渡されると、当たり前と思っていた自分の視点を見直す機会になるのだ。「アメリカは特にモノに対して敬意を持っていない感じがする。保管もしないし、何かが壊れても修理もせずに捨ててしまう。そういうモノに対してのリスペクトが足りない為、デザイン面での配慮がないのかもしれないね」。大量生産によって環境問題が加速する昨今。日本人特有のモノを大切にするという文化的習慣を今一度考え直し、まずはモノに対して深い考えとリスペクトを持ちたい。 

Cabinet
ベッドルームにあるイームズデザインの棚には、日本在住中に集めた荒木経惟や森山大道の写真集などが並んでいる。その下にはデザイン史に残る名作でもある、ゼロ・ハリバートンのブリーフケースがパスポートや貴重な書類を守っている。アルミニウム構造のケースは1938年に誕生して以来、荷物を守ってくれる信頼性を保ち、ハリウッド映画やアメリカの大統領にも使われるなど、長い歴史を持つアイテム。

 
 

タイムレスなデザインには
美しく、使いやすく、ストーリーがある

 
本誌でも常に探している次の世代にも遺っていく新たなヴィンテージとなるモノについては、ルバも日頃からよく考えているそう。現在のファッション、プロダクツ、家具、芸術などの中で、ルバが考える世代を超えてまで残っていくモノは何なのだろうか。「難しい質問だね。結論的に言うと美しくて、使いやすいモノだと思う。ナイキのエア ジョーダン1で例えると、あの靴はデザイン的にも美しく完成されていて、マイケル・ジョーダンがプレイしやすいように作られている為、根底に機能性がある。それに加えてあの靴には今に至るまでのカルチャーや歴史がすべて刻み込まれている」。それがのこっていくモノかを判断する際に、プロダクト自体の線や形も含め、心が動かされるような美しさを持っているかは大事だ。例え使いやすく生活に実用性を持っていたとしても、それだけでは世代を超えて生き残るモノにはなれない。歴史や人が共感できるストーリーを持っていないと将来の人の心にそのアイテムは響かず、その魅力を理解しきれないのだ。「次の世代のクラシックとなるモノを予想することはすごく難しいよね。私の業界でもよく打ち合わせ中に『アイコニックなプロダクトを作らなければならない』と言う発言がよく出るんだけど、私の答えはいつも一緒。いいプロダクトを作ればアイコニックになれる。アイコニックなプロダクトを作ろうというゴールを持っていても、そう簡単に作れるものではないよ。最終的に一番偉大なゴールは、人が欲しがるいいモノを作ることだね」。ルバが先に例えたジョーダン1で考えると分かりやすい。ピーター・ムアが最初にデザインした時『アイコニックなプロダクトを作ろう』と思って作ったのでなく、ジョーダンがアスリートとしての最大限のパフォーマンスを発揮できるように作ったのだ。それからジョーダンは他を圧倒するプレイとスタイルでファンを熱狂させ、歴史に名を連ねる存在になっていった。ファンはジョーダンに憧れてジョーダン1を買い、愛し続けてきた。このように長い間人々に愛されるタイムレスなモノの背景には、そのモノ自体の魅力はもちろん、歴史や人が共感するストーリーがたくさん詰まっている。
 

ミニマルで真っ白な息子のベッドルームには、インパクトのあるシュプリームのポスターとエルメスの枕が置かれている。シュプリームのスケートビデオ“BLESSED”が公開された時に、ルバの友人でもある同作の監督ウィリアム・ストロベックからもらったポスターはスケーターである息子の宝物。ストリートカルチャーを語る上では欠かせないブランドと183年の伝統とクラフツマンシップを誇るエルメスの枕との並置を通して、ハイとローの組み合わせを息子の部屋でも表している。

 
 

大好きなモノと毎日を過ごすことで
日常の一瞬の中に生まれる楽しみ

 
タイムレスなデザインを考えるにあたって、自身にも高い基準を設定しているルバ。そんな彼女のアウトプットと日常で使うアイテムは同じ基準により決められるという一貫した考え方がそこにはある。「私が惹かれているのは、ミニマルでミッドセンチュリーモダンのスタイル。ミース・ファン・デル・ローエのものはとにかく大好きなの。バウハウスの関連作家の作品はどれも魅力的なデザインで、今でもこれ以上のモノはないと思うくらいだわ」。1919年から1933年まで続いたバウハウスは去年100周年記念を迎えたが、改めて彼らのデザインを見ると100年前のモノとは思えないほどに現代的だ。プロダクトデザインで使いやすさを考えるのは当然だが、そこにプロダクトとしての美しさも加味させるのは極めて難しい。当時の限られた製造技術の中でも100年先も残るデザインを作っていたドイツの小さな学校は、現代デザインの基礎を築き上げた団体でもあり、今活躍している建築家・デザイナーなど様々な人がそのデザイン哲学にインスパイアされ続けている。これこそが時空を超えるデザインではないだろうか。そのバウハウスも影響を受けた伝説的デザイナーのル・コルビュジェのミニマルでインダストリアルな名作LC2の椅子も、ルバのリビングに置いてある。その隣にはアキッレ・カスティリオーネ作のTOIOランプが並ぶ。「最も美しく、最も機能的なスタンディングライトだと思うわ。ワイヤーや変圧器が丸見えでインダストリアルな要素も気に入っている。また電球が車のヘッドライトであることは車好きの私にはちょうどいい。夕日が落ちて、このライトを付けることを毎日楽しみにしているわ」。仕事やプライベートでどんなことがあっても、夕日が落ちて大好きなTOIOライトのスイッチを付ければ暖かい光が自宅を照らしいい気分になれる。これこそが日常の中にあるシンプルな幸せなを感じる瞬間。大好きなモノを自身のスペースに置くことで生まれる幸せの瞬間は、メンタルのスイッチの切り替えにもなる。
 
ルバが所有しているようなデザイン史に残る名作たちを手に入れるのは、金額やそもそもの手に入れづらさから考えると少し難しい。だがこれらのプロダクトはあくまで彼女の好みであり、自分が考えるベストなモノを長く大切に使うという思考は誰でも真似することができるマインドである。それは時に自分にとって一番書き心地の良いペンであるかもしれないし、気分を上げてくれるバッグかもしれない。モノの金額などは全く関係ない。自分の毎日を豊かにしてくれるモノであれば、それでいい。

Tokyo Bike MONO Single Speed
コロナがきっかけで自転車に乗ることが多くなった2020年は、最強の相棒であるトーキョーバイクが移動の主な手段。「この自転車は東京から持って帰ってきてそれ以来毎日乗ってるわ。以前は色々とアメリカ産の大きくて重たい自転車に乗っていたけど大嫌いだった。でもこのトーキョーバイクを発見して、その機能美に感動したの。これは自転車から余分を削り落とし、必要なモノだけが残っている。グラフィックもギアもなく、軽くて乗ると自転車と一体化する感じがする。二度とほかの自転車を乗ることはないだろうね」。自由移動が制限された今の世の中、愛する自転車に乗ることで奪われた自由を少し取り戻せたのだろう。

Bedside Items
ベットサイドテーブルのアイテムにも彼女のセンスを感じることができる。テーブルは余ったイタリア製のフロンゾーニ’64の椅子。その上には古いフィルムリールを台座に据えたデザインのアキッレ・カスティリオーネ作のランパディーナライトが置いてある。こちらは彼女が大好きなデザイナーの名作であり、彼女が考える時を超えるデザインの象徴的存在でもある。その横にはディーター・ラムス作のアラームクロックが時間を告げる。携帯で時間がすぐに分かる現代でも、アナログなデザインを日常の一部として過ごすことを大切にしている。また元々パンナム飛行機のパイロット用にデザインされたロレックスGMT マスターは20年前に夫からプレゼントされ、今ではデザインなどを作成する上で彼女が尊重するプロダクトのストーリーの大切さを表している。最後にエルメスとシュプリームのトレーは彼女が自身のインスタグラムでも遊ぶハイとローの組み合わせにも共通した価値観。

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