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Critical Essay by
Masanobu Sugatsuke
about Future Primitive

Critical Essay by
Masanobu Sugatsuke
about Future Primitive

ファッションはテックを用いて
根源的問いに向かう

ファッションの世界では環境問題がらみのテクノロジーの流行語が飛び交う、まるで新語のキャットウォークだ。出た時にフレッシュに受け入れられても、半年で忘れるような言葉も多い。そんなテックなジャーゴン(仲間だけに通用する専門用語)が群雄割拠するファッションは、根っからの健忘症的体質ゆえに、急激にテックを取り入れているかのように振る舞っているが、実はもともとファッションはテック産業なのだ。
 
蒸気機関の発明に端を発する産業革命によって大量生産・大量消費の経済が生まれ、その先兵になったのは繊維産業だった。蒸気機関を使った紡績機の発明によって、生地の生産が一気に大規模かつ高速化したことによって、繊維産業が飛躍的に成長。日本も同じく、文明開化後の明治時代における日本の基幹産業は繊維産業だった。大阪紡績会社(現・東洋紡)、鐘淵紡績(旧・鐘紡)、尼崎紡績(いずれも現・ユニチカ)など様々な紡績会社が設立し、日本は世界最大の紡績大国になる。
 
二十世紀になっても、繊維産業は大きな技術的ブレイクスルーを生み出す。ナイロンの誕生だ。世界的化学メーカー、デュポン社が発明した石油から生み出された生地は、薄く軽く、しかも大量に安価で作れるため、さまざまなバリエーションを生んだ。破れやすいものの代名詞だったストッキングがナイロンの誕生によって、丈夫で破れにくくなったことで、60年代にミニスカートが流行ったのは有名な歴史的エピソード。「戦後強くなったものは、女と靴下(ストッキング)である」という言葉もある。現在も、テックによるさまざまなファッションの発明がある。フリース、ナイロン生地に包まれたダウンジャケット、ユニクロのヒートテックやエアリズムもそう。なかでもダウンジャケットやヒートテックは、冬の装いだけにとどまらず、冬の生活スタイルまでを変えたといっていい。さらに猛暑に対応するファン(扇風機)付き空調服を着ている人も日常の一コマになり、これらテック・ファッションの活用によって、人間は気温から自由になってきている。未来には、服にエアコンが付くだろう。

ファッションは昔も今もテック産業
ファッションをテックで
アウフヘーベンする

 
では日本のファッションの第一線のクリエイターは、いかにテックと向き合っているのか。アンリアレイジは現在、日本のファッションの中で最もテックを導入しているブランドだ。9月2日に久々の東コレを行ったばかりのデザイナーの森永邦彦にショウの2日後に話を伺った。森永はテクノロジーを導入するきっかけを「服作りで使う武器を変えよう」と思ったことに始まるという。
 
「きっかけは、2009年春夏の丸・三角・四角をテーマにしたコレクションから。それまで手でパターンを引いていたわけですが、3Dソフトを使ってやることにしたんです。そして2014年のパリコレに参加する時から、テクノロジーをどう取り入れるかを常に考えています。パリにはファッションの伝統的技術は根強くあるわけですが、その技術があまり更新されてないので、パリに出てからは、テクノロジーでどう闘うかを意図的にやっています(森永)」。森永は2021年にバーチャル空間でのファッションという革新的プレゼンテーションも行っている。
 
「コロナの感染拡大が起きて、これで服の作り方や見せ方が変わるだろうと考えたんです。そんな感染が広がり始めた2020年初頭に、細田守監督から『竜とそばかすの姫』の話が来ました。当時メタバースという言葉はなく、仮想空間のアバターの衣装制作という依頼でした。それまでファッションは、生身の人間に対して服を作って、その人の個性を演出するものだったわけですが、これから生身とバーチャルのふたつの世界が並行するようになり、バーチャルの世界にも、デジタル上の個性が生まれるようになってきている。そのデジタル上の個性を装飾するのも、ファッションなのではないかと思ったんです(森永)」。
 
森永はテクノロジーを追い求めるほど、根源的にナチュラルな世界が到達点に思えてくるという。「デジタルの0と1だけでは表せない、微妙なグラデーションが人の気持ちを揺さぶると思うんです。身体と世界のあいだにあるファッションも、グラデーションの中にあるんです。今回のコレクションは、デジタルなショウが連続した後に、時間を巻き戻すようにプリミティヴな原点回帰がテーマなんです。デジタルのコレクションや過去のコレクションのパーツを使い、服一体につき約2000パーツを繋いでいます。パッチワークは様々な時間軸を繋ぎ合わせる行為です。今アンリアレイジにはデジタルのファクトリーと手作業によるパッチワークのファクトリーの両方があり、それらがあるからこそ出来た服なんです。
 
テクノロジーは諸刃の剣です。今、ファッションはリアルかバーチャルのどっちの世界にあるべきか、選択を迫られています。僕はテクノロジーを使ってジャンプすることでファッションの世界を広げていく一方、ファッションの中心にあるものも守りたい。そこをうまく止揚=アウフヘーベンしたい。ファッションとテクノロジーがぶつかって、ひとつ上のレイヤーにアウフヘーベンすることをやりたいんですね(森永)」。

冬のインナーとして老若男女問わず最も愛用されているであろうヒートテック。着ると温かく感じる魔法のようなアイテムだ。その機能性を生んでいるのは、ヒートテックのためだけに開発された糸にある。吸湿によって発熱する特性を持つレーヨン、空気の層を多く含み保温性を確保するアクリル、ストレッチ性に優れるポリウレタン、水分を素早く乾燥させるポリエステルの4種の素材を混紡した特殊な糸は、薄くても暖かく、そして着心地がいいという発明と革新を繊維業界に与えた。今では通常のヒートテックの1.5倍温かい極暖、さらに1.5倍温かい超極暖なども開発され、ハイテク素材の追求が日々行われている。

衣類や日用品など、日々の生活に溢れいているナイロン製品。アメリカの化学メーカー、デュポン社が1936年に開発したナイロンは、汎用性の高さから世界第2位の生産量を誇る素材だ。合成繊維の中でも摩擦強度がずば抜けて高く、伸縮性や耐水性、染色性も高いことから非常に重宝されている。瞬く間にさまざまな製品に用いられたナイロンだが、当時最も革新的だったのはナイロン・ストッキングの発明だ。その人気の勢いは凄まじく、「1年以内に何百万人ものアメリカ人女性が石炭・水・空気から作られた靴下を着用するだろう」というコメントをデュポン社は残している。

 
 

アルゴリズムで
服の生産を最適化する

 

テクノロジーを軸に、ファッションの作り方を変えようとしているクリエイターにシンフラックスの川崎和也がいる。スペキュラティブ・デザイナーという肩書きの川崎は、ファッションの分野でAIやバイオテクノロジーの応用を前提として研究開発している。AIによるデザインで布地の廃棄部分をなくす「アルゴリズミック・クチュール」という技術では、非営利財団H&Mファウンデーションが主催するコンペ「第4回GlobalChangeAward」で特別賞を受賞している。その川崎に話を伺った。
 
「計算機とファッションの創造性の相関関係が僕の探求の中心です。具体的には、ファッションの伝統的なテクネ=技術をアップデートするような使い方をできればと思ってやってます(川崎)」。
川崎は自らの活動を「フューチャーな面とプリミティブな面の両方がある」という。
 
「ずっとやっているのは型紙の制作技術です。洋服の作り方は、服のパーツをくり抜いて、ミシンで縫うという工程で200年くらい製法が変わってないんです。パリの仕立屋でこの手法が生まれてから、ずっと同じ。生地は合理的に四角形で、大量生産できるように作られています。他方で人間の身体は大量生産品ではないので、局面や肉があるため、四角形の布に複雑な、有機的な曲線を描くことによって、洋服は構成されているんですね。そこで生地の30%くらいが、生産過程で捨てられているんです。これをデジタルと掛け合わせると、最適化した作り方ができるんじゃないか。それが『アルゴリズムクチュール』と我々が呼んでいる作り方なんです。世界で30%の生地が捨てられているのなら、それを0%に近づけていこうと。この技術を使って、量産メーカーとのプロダクトが10月の中旬に発売できる予定です。それは大量生産のシステムをデジタルで変換していくプロジェクトなんです(川崎)」。
 
川崎が考えるファッション産業の直近の課題は、インフラストラクチャーをより倫理的に、あるいは合理的に設計し直すことだという「。それはインフラ側から生まれる新しいクリエイティビティと言えるかと。システム側をいじると『あれ?成果物がだんだん変わってくるぞ』ということがあるんですね。例えば合成の繊維、ナイロンが出てきてスペースエイジの宇宙服が開発されて、それがナイロンが一般化するきっかけだったし、今後バイオ素材が出てくるとそれに準じたクリエイティビティが出てくるはずです。僕としては産業のインフラに深く関わって、そこから新しい形とか、新しい思想を服と身体を通じて生み出したいとは思っています(川崎)」。

 

一方で、ファッションにまつわるエコの問題も大きな課題だ。「イギリスでは2020年くらいから“ボイコットファッション”という運動が起きています。ロンドンファッションウィークが行われる時期に、セント・マーティンズなどの美大生が200〜300人集まり、『ファッションをやめろ』『ファッションが地球に直接的に害を与えているから、そういうモード、文化を廃止しろ』というデモを行っているんです。そこで言われているのは『新しい服を着ない方がいい、無駄なクリエイティビティはよくない』と。でも僕は、この運動は服のインフラのことについて考えずに、クリエイティビティだけに着目して、これが悪いと名指しているように見えるんです。僕はインフラ側を整えてあげれば、ファッションの伝統的に培ってきた余剰の部分は残せる余地があると思います。素材の作り方や技術のアップデートをすることによって、ファッションを楽しむという根源的な欲求を失わないように、ファッションの楽しさ継承もサステナビリティとセットでやるべきではと(川崎)」。
 
川崎はテクノロジーの活用によって、ファッションの課題解決のためのカードが揃ってきたタイミングだという「。文化的な余剰と物理的な余剰、伝統的な技術と未来的な技術、四つの要素をひとつにして考えないといけない時期ですね。言い換えるとファッションをつくるハードルが上がってますけどね(川崎)」。

アンリアレイジが2022春夏パリコレクションで発表した、細田守監督の映画作品『竜とそばかすの姫』とコラボレーションしたルック。デジタルルックとフィジカルルックで構成され、仮想と現実の世界を超越したファッションを提案した。デジタルルックはブロックチェーン技術を用いて発行されたデジタルデータ(唯一無二で代替不可能)でもあり、ブランド初のNFT(非代替性トークン)としても販売された。

アンリアレイジ2023春夏のルックからの一体。「デジタルから時間を巻き戻すようにプリミティブに原点回帰する」をテーマにしており、デジタルや過去のコレクションからパーツを集め、一体につき2000パーツを使ってパッチワークで作り上げている。ファッションの世界をテクノロジーで広げつつ、人間の手仕事という核も守りたいという森永の思いから生まれた未来に向けたコレクションとなっている。
ファッションテックが問う
美しく生きるとは何か
テックによりファッションは
根源的な問いに近づく

 

生産側からのテックなアプローチとクリエイティヴ側からのテックなアプローチが行き交う今のファッション。それらのアプローチは一見、ファッションの伝統から離れたように見えるが、実は極めて本質的な探究だということがわかる。衣服は身体機能の拡張であり、モードとしてのファッションは、人間のアイディンティティのあり方の拡張だ。ファッション・テックによって、人間は現実世界だけでなくバーチャルな世界でも、そして倫理的にも美しく装うことが出来るようになった。
 
このようなひとつ上のレイヤーをファッションが持つことで、実は根源的な問いにファッションはより近づけたのではないだろうか。それは「美しく生きるとは何か?」という永遠の問いだ。

川崎和也率いるシンフラックスが生み出した技術「アルゴリズミック・クチュール」と、長見佳祐が手がけるハトラが共同開発したパーカ。アルゴリズミック・クチュールは生地の廃棄を最小限に抑えることを目指したデジタル技術で、着用者の3Dデータから割り出した型紙に沿って四角形と三角形のパーツを組み合わせていく。柄は約200万枚の動物の画像を機械学習し、架空の動物柄を新たに生み出してプリントしたもの。人の想像力とは全く別物のAIを使ったファッションの新たな形を提案したプロジェクトだ。

 

菅付雅信
編集者 / グーテンベルクオーケストラ代表取締役。アートブック出版社ユナイテッドヴァガボンズ代表も務める。最新刊に『WWD JAPAN』のファッションを巡る連載をまとめた『不易と流行の間』(平凡出版)。東北芸術工科大学教授。

 
 
 

Text Masanobu Sugatsuke Edit Yutaro Okamoto
This article is included in

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