「かれこれ10年以上、自転車で通勤しています」。そう語るのは、オーラリーのデザイナー岩井良太だ。時代感にマッチしたシンプルで長く着用できる服作りから近年高い人気を得ている同ブランド。ファッションデザイナーとして、季節感を常に意識して仕事に取り組まなければならないからこそ、自転車は日々の変化に気づかせてくれる重要な移動手段のようだ。
「例えば7月に春夏の展示会をして、店頭では秋冬の販売をしたりします。一年中いろんな季節のことを考えて服作りをしているので、今何をしているのかがよく分からなくなるんです。自転車だと電車よりも日々のちょっとした変化を感じられるからいいですよね。毎日通る不動前のかむろ坂は、春には桜が咲き、夏には緑になって、秋には散り、冬には葉がなくなる。そういう日々の移り変わりを体感できる時間が自分には大事なんです。その体験は作る服に対して直接的には影響を与えてはいないかもしれない。だけど、無意識の部分でオーラリーの服作りに作用していると思います。また、自転車を漕いでる間は細かなディテールや仕上げを集中的に考えることができる。そういう風に漕いでいる時も仕事のことが頭にありますが、一歩離れた距離を取れるんです。何も邪魔されず、自分とじっくり向き合える時間であることが、自転車に乗る良いところなのかもしれないですね」。オーラリーの作る服は、シンプルで上質なモノが好まれる現代の空気感をうまく汲み取っている。毎日自転車を漕いで身体を動かすからこそ、快適に過ごすための素材選びを岩井が求めることは自然な成り行きなのかもしれない。どのような仕事であれ、忙しさに追われると自分を見失いがちになる。特にファッションデザイナーにおいては、常にワンシーズン先の季節感をイメージして仕事に取り組まなければならばい。だからこそ、自転車を漕いでいる時間は我に帰ることができ、ワークライフバランスを保ってくれるのだ。
オフィスやアトリエでデザイン作業を行うため、片道30分かけ自転車で通勤しているという岩井。「よっぽどの雨以外は、休みの日も含めて基本的に毎日乗っていますね。暑いとか、寒いからという理由で乗らないことはないですね。自転車だと、時間も場所も気にせずに行動できるので、大抵のことには制限されないからいいんです。移動先までの時間も読めるので、遅刻もしないですし」。渋滞や遅延に巻き込まれることなく時間通りに移動できることは、仕事をする者にとって非常に大事なポイント。自転車移動だとリズムを崩さずに、良い意味で常にマイペースに行動できるのだ。ましてや、自転車での移動さえも有意義な時間として過ごせるのだからこの上ない。自転車移動を取り入れることで、実に無駄のないワークスタイルへとブラッシュアップすることができる。そうやって自転車を長く乗り続けてきた岩井だからこそ、オーラリーの服もシンプルかつ質を追求したアイテムとなるのかもしれない。
岩井良太
2015年にオーラリーを立ち上げる。世界中の素材を厳選し、日常をより快適にする服作りを行う。ニューバランスとのコラボレーションスニーカーを新たに発表したことも記憶に新しい。
Photo John Clayton Lee | Interview & Text Yutaro Okamoto |