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COLUMN
about Future Primitive
Kunichi Nomura

COLUMN
about Future Primitive
Kunichi Nomura

新しさだけを追求したものは、
すぐに廃れて無駄となる

 

21:54 – 0:27
6th September 2022 at San Francisco
From Morning
2 cup of Americano
1 box of Marlboro gold soft pack

 
前回の号のテーマがPrimitive Soulで今回がFuture Primitive。なんだか禅問答のようなのだが、どのようなこと?と聞くと人間らしさ、本来あるべき姿を求めるための最新のテクノロジーとファッション、その考え方について考えて欲しいという答えがきた。
 
なんとなく頭に浮かんだのがスニーカーのこと。前に他誌でも書いたことがあるのだが、俺ははっきりいってアナログなものが好きだ、特に着るものにおいて。未来が嫌いなわけじゃないぜ。毎日に欠かせないiPhoneだったら絶対に新しいものがいいし、ガジェット系は大体そうだ。けどね、ファッションは違う。子供の頃の自分に「よう、俺は2022年を生きてるぜ!」ともし会って話す機会があるとしたら、きっと子供の自分は「すげえ、バック・トゥ・ザ・フューチャーみたいな格好をした大人の自分に会える!」と目を輝かすだろう。自動で靴紐が締まるスニーカーとかを履いて、ウィールのない浮かぶスケードボードで街を滑っているんじゃないかと。でも、現実はどうだ?もちろんすごいことにはなったよ。AIだって普通にあるし、ドローンが自分で買えて空から写真だって撮れちゃう。けどそんなもんだ。空飛ぶ車に乗ってるわけでもなければ銀色のボディスーツを着てるわけでもない。俺たちは相変わらずリーヴァイスのデニムを履いたり、古いTシャツを着て街を彷徨っている。見たこともないようなデザインの服や靴が溢れてるわけじゃないのだ。
 
もちろんハイテク系みたいなスニーカーは沢山リリースされているが、俺はまず履かない。だって足から上は戦後のアメリカ人からほぼ変わらないような格好をしてるんだぜ?足元だけ急に21世紀で上は60年代なんて、どうもしっくりこないんだよ。どんなに履き心地が良くても、どんなに軽くても、「見てくれ、俺たちゃハイテクなんだぜ!見て、見て!」とアピールしてくるデザインなどに興味はないわけだ。いや、本当はあるんだけどね、けど、着てる服に合うデザインの古いスニーカーを意固地になって履き続けてきたわけですよ。ヴァンズだったらオーセンティック、コンバースだったらチャック、ナイキだったらブレーザー。たとえ西川の羽毛布団のように柔らかで軽いソールが羨ましくても、それが分厚くてデカいソールになってしまうならお断りだ!そう心に誓いながら。
 
そんな俺の心をあっさりと鷲掴みにし、ハイテク反対派から変心させたのがヴァンズのコンフィクッシュシリーズだった。こいつとの出会いはいつだっただろう。あれは靴ずれが痛いから、何か靴を履き替えなければと近くにあった服屋に駆け込んだときのことだった。どうせ何か靴を買うなら今日だけじゃなくてずっと履けるものがいいだろう。それならヴァンズのオーセンティックだ。見ればちゃんと俺のド定番、オーセンティックの黒があるじゃないか!
 
「すいません、このサイズ○、ありますか?」と聞こうとしたとき、俺のことを知ってる風の店員さんがすかさず寄ってきてこう言った。「すいません、訓市さんはワッフルソール好きですよね、これ違うんですよ」。はい?どっからどう見ても普通のオーセンティック、何が違うというのだ、もしや俺になんかの恨みでも?「どこからどうみても紛うことなくオーセンティックとお見受けするが、これいかに?」そう聞くと店員さんは「すいません、それ一見普通なんですが軽いんですよ」。何?軽い?俺はおもむろにディスプレイされていたオーセンティックに手をかけた。「何これ?軽!!俺、サイズ10なんだけどありますか?」。
 
一見ただのバルカナイズドのワッフルソールと思いきや、でできたそのソールは、ビーサンのような軽さを実現しながら、柔らかく弾力性に富み、グルコサミン不足で悲鳴をあげていた俺の膝を優しく守るハイテクソールだったのだ。これだ、これだよ、俺が待っていたハイテクスニーカーは。上物のどうでもいいハイテク風のデザインなんか要らない、俺が欲しかったのは今までの定番をアップグレードしてくれる機能、そいつこそ真のハイテクなんだと。以来俺の足元は、夏の数ヶ月を占めるビーサン以外の季節の半分はこのコンフィが固めている。数多く持っていたヴァンズのコラボだなんだの靴は無用になった。軽さは正義。いや、俺だけじゃなく、ロスの40歳オーバーのダチの半分以上がコンフィを履くようになった。みなそんなスニーカーを待っていたのだ。今までの日常を変えることなく、こっそりハイテクの恩恵をもたらしてくれるスニーカーを。
 
俺たちは機能が好きだ。新しいものも。けれどそれを日常に取り入れるとき、使いやすいものとそうでないものがあるのだ。毎日の暮らしの中で、飛び抜けて浮かないもの、他のものたちと仲良くやってくれるものが欲しいのだ。コンフィに似たものにレストモッドがある。古い車をただレストアするのではなく、ボディをそのままに足回りやエンジン等を入れ替えて現代にあった快適なものに作り変えること。俺の周りにも結構それをやっている友達がいる。どうも今ある車のデザインが好きじゃない、けれど古い車を日常の足にすると毎日仕事に使うとなると信用性が足りずに辛い。
 
そんなときこそレストモッドなのだ。古いアメ車のピックアップを内装の業務車にしてる友達は中をいじりまくってる。エンジンを入れ替え、ミッションをマニュアルからオートマに変更し、フレームを補強してブレーキをドラムからディスクに変える。信号待ちでポルシェを加速で追い越すのが堪らないと笑っていたが、こういうことこそ俺が好きな技術だ。ルパンでお馴染みのフィアット500をフル改造した人もいる。あの愛らしい外見はそのままに後部座席を潰して搭載されているのがスバルのエンジン。こちらもオートマ、ディスクブレーキ。高速で100キロ走行も余裕でできる。これって最高じゃないですか?
 
俺たちの世界に必要なのはそういう技術なんじゃないかと思う。サラっと馴染んで無駄もないような。新しさだけを追求したものは、すぐに廃れて無駄となる。それより受け入れられきたデザインをアップグレードしてくれる技術が必要なのだ。それだけじゃなく、環境に優しい技術をさりげなく取り入れるというも今必要なことだ。例えばパタゴニアのフリース。東京で流行りだしたのは俺が高校くらいのことだからもう30年前、当時はハイテク服だったけれど、他の服と馴染みやすくすぐに定番となった。今でももちろんパタゴニアの店に行けば買えるが、昔と同じわけじゃない。素材が完全に再生可能なものに進化している。中がどう変化しているか?外見からすぐにわかることじゃないがこれこそ真の技術だと思う。
 
ただの新しいナイロンを使うのではなく再生ものに切り替えたPRADAもそうだし、Goldwin 0が生産化に向けて進化させているスパイバーの服もそうだ。一見アウトドア用の服に見えるが、素材が違う。蜘蛛の糸を素性を研究して生まれたスパイバーの工場の映像を見たことがあるが、製糸工場というよりは完全にラボだ。これがあらゆる服に応用されるようになったら、例えばパッと見も着心地もコットンのTシャツにしか見えないのに、強度はケブラーより強いものになる。コットン、綿花畑がどれだけ環境に悪いか知っているかい?大量の水、大量の農薬。それが不要になるのだとしたら最高じゃないですか?それでもってヴァンズのコンフィクッシュのオーセンティックができたら、オーリーしてもキャンバス地の靴が破れる、そんな心配も無用なオーセンティックが出来上がることになるのだ。Future Primitive、その言葉の意味がどういうことかはわからないが、こんなことを指すのではないと俺は思うのだが、みなさんはどう思う?
 
 
野村訓市
1973年東京生まれ。編集者、ライター、内装集団Tripster主宰。J-WAVE『Traveling Without Moving』のパーソナリティも早、8年目になる。企業のクリエイティブディレクションや映画のキャスティングなど活動は多岐に渡る。

This article is included in

Silver N°17 Autumn 2022

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