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Citizens of the
Twentieth Century
August Sander Portrait Photographs, 1892-1952
Edited by Gunther Sander

Citizens of the
Twentieth Century
August Sander Portrait Photographs, 1892-1952
Edited by Gunther Sander

人々を記録し続けた写真集から
ワークスタイルの軌跡を知る

新しいワークスタイルについて考える今回のSilver。様々な職業の人々へのインタビューや、ファッションエディトリアルから、現代のワークスタイルを見直すヒントを得られるはずだ。だが、その前にワークスタイルのアーカイブに触れれば、よりその考えが深まるだろう。100年以上前のドイツで階級や職業を超えて人々のポートレート写真を撮り続けた写真家アウグスト・ザンダー。彼の代表的なプロジェクトであるポートレート写真によって、社会の全体像を捉えようとした写真群をまとめた作品集『Citizens of the Twentieth Century(邦題:20世紀の人々たち)』。後世の写真家たちに多大な影響を与えた、まさに写真の歴史におけるランドマークともいえるこのプロジェクトは、世界的にも有名なだけに見たことがある人も多いと思う。だがワークスタイルという点で改めて観ると、感慨深い気持ちにもさせてくれる。
 
1876年、ドイツ・へルドルフで生まれたアウグストは、貧しい家族の生活を助けるため鉱山で働き始める。そこで鉱山撮影に来ていた写真家の手伝いをしたことをきっかけに、カメラの魅力に気付き、情熱を注いでいくこととなる。23歳の頃には撮影スタジオで働き始め、ポートレート写真で生計を立てていく。その後、第一次世界大戦の最中、歩兵部隊として徴兵を受けた彼は悲惨な戦争を経験し、人の死を目の当たりにしたことで、その時代に生きる人々をありのままに記録しようと決意する。そして記録する対象を“農夫”、“職人”、“女性”、“職業と社会的地位”、“芸術家”、“大都市”、“最後の人たち”の7つに分類し撮影を始める。彼はこれを45のポートフォリオにし、それぞれに12枚ずつの写真をあてはめた大規模なポートレート集を目指し、長い年月をかけて撮影し続けたが、当時の政治的な背景などもあり未完のまま逝去することとなる。そのアウグストが残した記録を、息子であり写真家のガンザー・ザンダーがネガからプリントし、アウグストの意図をもとに編集したのがこの作品集である。
 
1980年に刊行されたこの写真集は、1910年から1952年までに撮影した上記のプロジェクトから431枚の写真が掲載。それに加え、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の美術教師であるウルリッヒ・ケラーによる紹介文が掲載され、ページ内には1892年ごろからの貴重なアウグストの写真も引用として紹介されている内容。タイトルも、父のアウグストが当初から計画していた『20世紀の人々たち』にした。膨大な量の写真に写し出される、およそ100年程前の人々。当たり前だが、パソコンもインターネットもない時代の様々な職業やそのスタイルを目の当たりにすると、現代とのギャップにカルチャーショックが起きる。アウグストは笑顔ではなく真顔にこそその人の本質が現れるという理由で、被写体に指示をしていたようだが、そこに写し出される人々の強い眼差しや、真剣な表情、背景の景観、服装は、とても力強く魅力的だ。この作品群の中でも最も有名な写真は、表紙にもなっている『若い農夫たち(1914)』だろう。3人揃って決め込んだスーツ、ハットにステッキといったスタイルからは、ハードな職業であるにも関わらず、美的感覚を大切にすることを感じ、100年以上経過した時代に生きている私たちから見ても紛れもなく格好良いと感じる姿が写っている。当時の様々な職業や階級の人々が写し出されていることから、服飾の世界でも教科書とされることの多い本書。当然のこと、多数のファッションデザイナーに影響を与え、過去にヨウジヤマモトが2013-2014年秋冬で、アウグスト・ザンダーをテーマとしたメンズコレクションを発表したこともあった。これほどまでに歴史的価値があり膨大でコンセプチュアルなポートレートシリーズは類を見ないため、恐らく今後もアウグストの写真はこうして語り継がれることだろう。現代は当時と比べると、インフラが整い、デジタル化が進みワークスタイルにも変化があるようにも思える。だが左のページに写っている「靴作りの親方」や「菓子作りの親方」などは、今のワークスタイルと比べても大きく変わっていないように見える。今後は、AIやロボットの技術が進み、またワードローブにも変化が生まれていくはずだ。変わりゆく時代の中で、いつまでこの写真集にあるワークスタイルにリアリティを感じられるか。我々は彼らの姿を見て格好良いと思えるが、もし彼らが現代の我々の姿を見たらどう思うだろうか。「好き嫌いに関わらず、真実を仲間や未来の世代に伝えねばならない」というのは、この作品群についてオーガストが残した言葉だが、この記録によって私たちが当時のありのままの姿を知ることができ、考えられることに繋がる。過去を知ることは、現代、また未来について考えるきっかけにもなる。過去と現代、働く人たちの様子はあなたにとってどう映るだろうか。
 
 

アウグスト・ザンダー
1876年にドイツのへルドルフ、鉱山業で働く大工の家に生まれる。鉱山で働く傍ら出会ったカメラで写真の道へ。ドイツの人々を撮影したポートレートプロジェクトが代表的。1964年死去。

 
 
 

Photo Taijun Hiramoto Text Takayasu Yamada

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