良い服を着ればその日が気持ち良く過ごせるように、良い家具を部屋に置くことは、自己の満足感はもちろん、その優れたデザイン性により日々、家具に触れ合うだけで良い発想が生まれるもの。インテリアを拘るということは、より良いライフワークを送ることに繋がるのである。今回はそんなインテリアの話。
昨今、家具が好きな人々によって注目を集めているのは、ジャン・プルーヴェやシャルロット・ペリアンが手がけた、今ではフレンチヴィンテージと呼ばれるシーンだろう。それらも勿論素晴らしいのだが、現在、沸々と注目を集めつつあるのが、ここで紹介する“ブラジリアンファニチャー”である。これまで日本ではあまり注目されてこなかったブラジリアンファニチャー。呼び名の通りブラジルの作家やブラジルで作られた家具を総称して呼ぶのがこれだが、世界的にも先駆者達によって再注目されつつあるのだ。
そんなブラジリアンファニチャーの魅力を日本でも広めようと、去る今年7月に駐日ブラジル大使館で『ブラジリアン ファニチャー デザイン モダニズム最後の発現』が開催された。ここでは、展覧会で展示されたプロダクトとともに、この展覧会の発起人であるArchèologie(アーキオロジー)の代表である中里恭宏氏のインタビューを掲載する。
まずブラジリアンファニチャーをこのタイミングで広めようと思った理由を中里氏に聞くとこう話す。「ブラジリアンファニチャーは、まだ日本では全然広まっていないのが現実です。普段から家具の仕入れや商談でヨーロッパに行くことが多く、その中で有名なギャラリーや家具のエキシビションにも訪ねるのですが、そういう場でブラジルの家具を目にする機会がここ最近増えてきたんです。日本では中々見ることは出来ないですし、デザインも独特なモノが多いので、そこで魅力を感じ始め、日本でも広めていけたらと考えたのがきっかけです」。アーキオロジーが展開する家具をメインとしたショップ&ギャラリーのATELIER GALLERY(アトリエ・ギャラリー)やObjet d’ art(オブジェ・デ・アート)では、これまでも国内外のデザイナーヴィンテージ家具を展示、販売してきた。その仕入れで行ったヨーロッパでブラジリアンファニチャーに対する注目度の高さを受け、日本での展覧会に至った。もともとブラジル家具は世界中でも人気があったようだが、この3、4年で世間の認知度が増したそうだ。「海外では、ブラジルの家具は高級に見られているんです。ブラジルには富裕層が昔から多く、家具にお金を使うことを厭わない人が多かったようです。それで一点一点、高級な材料を使い丁寧に作っている家具が多い。プルーヴェにせよ、ペリアンにせよフランスヴィンテージは量産品が多いので、ブラジリアンファニチャーと違う部分としては小規模の量産というところもあるんです。アート作品のように木を削ったスツールとかもクオリティがほかの国の家具とは全然違いますね」。
「それとブラジルのデザイナーは移民が多いのが特徴ですね。先ほども話したように富裕層がいて建築や家具にお金を払ってくれる人がいたこと、また、デザイナーが多いイタリアなどの国も当時は戦争が大変で自由にデザインができる国を求めてきたという背景もあるのかなと思います。それぞれ育った環境や生まれた国も違うので、その感性と影響されたものの違いが同じ国といえど全然違うデザインをしているところも面白いんです。例えば、Lina Bo Bardi(リナ・ボ・バルディ)は、元々、建築家ということもあり、空間を邪魔しないデザインなんです。スツールにしてもシンプルで丈夫。シンプルだけど、癖のあるデザインにしていますね」。
今回の展示では、膨大な数の作家、作品の中から、代表的なデザイナーの代表作をメインに選定。歴史のあるものをコレクションしたという。ブラジリアンファニチャーの魅力とは、一言に何なのか。「種類が多く、それぞれデザイン性が異なるということ。そしてクオリティの高さですね。ほかの国では見ることが出来ない構造だったり、ちゃんと考えられて作られているんです。アートの要素も多く現れていて、見ていて楽しいと思います」。
少量生産で希少な為、高価ではあるブラジリアンファニチャー。しかし、豊かな自然の中、自由な発想と哲学を持って作られてきたこのプロダクトたちを家に置き、楽しむことが出来ればとても贅沢なことだ。今後、アトリエ・ギャラリーでも取り扱いを増やしていくようなので、家具好きは注目をしておきたい。
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Mitsuhiro Nakazato 中里 恭宏 ヴィンテージ家具やリプロダクト家具の販売、オリジナル家具の製作、インテリアデザインなどを手掛けるArchèologieの代表。 http://archeologie.jp |
Photo Yuto Kudo | Text Takayasu Yamada |