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about Take a journey
Kunichi Nomura is a Japanese actor, writer, DJ, interior designer, and radio personality from Tokyo, Japan.For Wes Anderson's Isle of Dogs, Kun is credited as co-writer and casting director, while lending his voice for the character of Mayor Kobayashi.

about Take a journey
Kunichi Nomura is a Japanese actor, writer, DJ, interior designer, and radio personality from Tokyo, Japan.For Wes Anderson's Isle of Dogs, Kun is credited as co-writer and casting director, while lending his voice for the character of Mayor Kobayashi.


 
それがちょいと変わったのはもう随分と前のことだがエルメスのオータクロアを手に入れた時だった。オータクロアとはバーキンの原型になった、男用の旅行鞄でまあ2、3日分のものなら余裕ではいる。その分片手で持ちながら旅をするとすこぶる重く、持ち手の腕が反対より断然に太くなるシオマネキ状態になるのだが。古いボロボロのオータクロアをパリで見つけ、数日かけて値切りまくって買った。ブランドものを持つ習慣はゼロだったのだが、その時間をかけて味の出まくった革と、普段の格好と180度違うエルメスの鞄を自分が持つというところに洒落というか、 面白さを勝手に感じたからだ。ビーサンに白いチノパンをカットした短パン、白いTシャツに、鞄はそのオータクロア。ヨーロッパの空港で、アメリカで、俺を見て困惑する金持ちたちを見るのが面白かった。こちらが英語を話さないと思い、「あなた、あの後ろのアジア人の鞄見た?」「あれはエルメスの古いバックじゃな」「本物かしら。そんな格好にみえないけど」「古いアジアの金持ちのバカ息子か?」。
 
それからニューヨークのJFケネディ空港で。30そこそこなのにニューヨークに年に 5、6回も行っているとカウンターの女性たちにいつの間にか顔を覚えられていたらしい。ある夏、またTシャツにビーサン、オータクロアでデスクに行くと、「いつもご搭乗ありがとうございます」と丁寧な挨拶をされた後に「失礼ですが、ご職業を伺ってもよろしいですか?」と聞かれた。こちらは腐ってもアジア人、年齢よりも若く見える上に、随分とラフな格好をしているわりには頻繁にニューヨークに来る。しかもボロいが鞄はエルメス。「あぁ、ゴールドマン・サックスです」。すると「やっぱり!みんなでそう話してたんですよ、本当のお金持ちは飾らない格好ですからね」。貯金は2、30万しかない頃の話。金持ちでもなんでもないが、ときと場合によって持ち物は人を勝手によく見せてくれたりするのだ。それからしばらく同じ人たちがいる間、空港での対応は素晴らしいものだった。自分の鞄のおかげと感謝しながら、よいものを持つというのも悪くないのだなと思った瞬間だった。
 
 
旅に何を持っていくか? そしてどれを相棒として長く使うか? 結局のところ、自分が幸せだったらなんでもいいということだ。もちろん余計なものは持っていかないほうがいいに決まってる。使うかもわからないものを鞄いっぱいに詰め込んで旅にでるほど馬鹿らしいことはない。持っていなくて困るものはパスポート、携帯、クレジットカード。これさえあればなんとかなるのだから。けれどもそのあとは、必要性があれば、好きなものを持っていけばいいのだ。何も構えることも ない。普段と同じだっていい。同じ格好をするのが好きならばそれもいいと思う。知り合いは旅というと、スーツ1着にシャルべのシャツを半ダース、それに下着だけという人だった。普段の格好をそのまま何も変えず旅先に持っていく。どこか行くごときでそのポリシーをいちいち変えてたまるかというその考えはどこも間違っていない。暑かったり寒かったりしたらどうするんだとは思うけど。
 
あとは旅の必需品だけは同じものを使い続けるというのもある。不便でもなんでも愚直に。俺も何年も同じ鞄を使い続けたこともある。新品だった鞄の革の部分が色褪せ、キャンバスに穴が空き、ストラップの金具が壊れるまでずっと使い続けた。何回その鞄で海外へと出かけたかわからない。思い出が染み付いている様で、そいつもどうしても捨てることができない。忘れていた旅先でのことも、ふとした時に部屋で見る鞄は一瞬で思い出させてくれる。そうやって要らないもので部屋は溢れていくのだけれど。年に一度くらいしかどこかへ出かけない、そんな人は今持っ てるものだけで過ごしたほうが手っ取り早い。準備に金をかけるくらいなら、旅先の経験に金を使ったほうが余程いいのだから。昔のヒッピーがよく言っていたっけ、Take nothing but memories, leave nothing but footprints、旅で持って帰るのは思い出だけ、残していいのは足跡だけと。
 
 
 
野村訓市
1973年東京生まれ。編集者、内装集団Tripster主宰。 J-WAVE『Traveling without moving』のパーソナリティーも務める。ウェス・アンダーソンの映画『犬ヶ島』の脚本、キャスティングに関わったことも記憶に新しい。
 
 
 

PM 4:50
5 June 2019 at Tokyo
2 cup of coffee 6 cigarettes

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