先日まで、六本木のギャラリー“PERROTIN”にて日本初の個展を開催し、そこで初めて彼の名を知った方もいるかもしれない。過去には、2016年に行われた茨城県北芸術祭で、木々が茂る自然の中に一本の黄色い線を引いたインスタレーションを披露。そのほかワークインプログレスと名付けた空間的な作品が多い中、今回紹介している作品のようなミニマルな世界観での表現は比較的新しい作風だ。
現在、イタリアを拠点に活動するピーター・ヴェルメッシュ。最高級な大理石の産地として知られるイタリアの大理石工場を自ら訪れ、インスピレーションが湧く1枚を精査し求める大きさにカッティングを施す。そして、そこに油絵の具を直感的に選び塗布。アーティスト一家の中で育った彼は、幼い頃からこのような資材に触れて育ち、色彩感覚も染み付いていたのだろう。
直角や垂直なラインからは、本人が制作時に意識するという建築的な造形美を感じることができる。そして塗料の部分に着目すると、同色で均一に塗られているのではなく、微妙にグラデーションを描いていることがわかる。これは、思い浮かんだイメージを抽象的に表現しているのではなく、実際に存在するモノを再現しているのだと本人は言う。例えば、筒状に仕上げられた銅の表面の質感を撮影し写真に収め、それをグラデーションで再現するという超現実(スーパーリアリズム)を再現した象徴画であるという手法。
ピーター・ヴェルメッシュは、この作品を通し、自然が生んだ時間の蓄積である大理石に対して、一瞬のペインティングを施すことによって生まれる、時間や物質性の対比を表現しているのである。これは、ピーター・ヴェルメッシュによる大理石、ましてや自然や長い年月との“対話”なのだ。ほかの作品も通しこういった対話が彼の作品制作のテーマとなっている。
ピーター・ヴェルメッシュ
1973年ベルギー・コルトレイクに生まれる。芸術一家のもと育ち、自身もアーティストの道へ。現在は、イタリア・トリノを拠点に、コンセプチュアルな作品を手がける。
www.pietervermeersch.be
Photo Taijun Hiramoto
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Select & Text Takayasu Yamada
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