ロエベやマルニ、ベルルッティなど名だたるブランドのキャンペーンヴィジュアルを手がけてきたフォトグラファーのジェイミー・ホークスワース。現代を代表するファッションフォトグラファーとしての認知度が高いジェイミーのプライベートな写真作品に “Preston Bus Station(プレストン・バス・ステーション)”がある。プレストンとは、イギリス北部の地方都市。ジェイミーは、写真を始めた当初の2011年に写真の先生であったアダム・マレーとともに、バスターミナルの建築やそこに集う人々を撮影したタブロイドを制作。その数年後、バスターミナルが取り壊しになることを知り、ジェイミーの写真の原点ともいうべきこの場所を1ヶ月かけ撮影したのがこの作品群である。
ストレートな表現と、温かみのある色彩が特徴のジェイミーの写真。写真家として彼はどういう被写体を撮りたくなるのか。「普段からオープンなマインドを持ちながら、あらゆる場所に行くことを大切にしている。決まったアイディアなんてないし、こんな人に出会いたい、撮りたいと計画して撮影に行くのではなくて自然に自分の目を惹きつける人がいたら撮るようにしているんだ。このバスターミナルは、イギリスの様々な場所から高速バスが集まってくるんだ。そこにいるだけで、イギリス各地の人を観察できる場所。ポートレートプロジェクトにとても適した場所なんだ。僕という写真家にとって初めて光と向き合えたのがこの場所であるように、光の差し加減も美しかった」。ジェイミーに様々な質問をしたのだが、返ってくる言葉はどれもシンプルなものだった。綺麗だと思ったから、光が美しいから、単純な理由かもしれないが、それこそがジェイミーのストレートな表現に繋がり、鑑賞者の心に響く写真となるのだろう。では、フォトグラファー以外の意見も入るファッションフォトなどはどういう気持ちで撮るのか。「ファッションフォトとしての最高な瞬間があるとしたら、それは自分にとって馴染みのない環境だったりする。ファッションで自分が撮りたい写真を明確にすることは凄く難しい。それでも、僕は長い時間をかけて培った感受性や自分が何を愛しているのか、常にナチュラルな気持ちを保ちながらあらゆる可能性を求めているよ。チームで仕事をするということは、一人一人が自分の考えを持っているからね。でも写真を常に撮っていて自分が好きなものを明確化しておけば問題ない。だから、もし自分の基盤が崩れかけていると思う時があれば、距離を置いて自分のやりたいことをやれば良いと思う」。
また今回のSilverでは色をテーマに特集しているが、ジェイミーがこれまでに撮影した多くの写真には黄色味がかった印象が強い。「撮影した写真を印刷するということは、フォトグラファーにとって、表現として色がとても大切な要素だと思う。以前、僕が長い間イギリス各地を旅して写真を撮っていた時、どこに行っても気温が寒かった。だから、写真を現像するときには暖かさを与える為に、黄色を添えることでポジティブな印象に見せたんだ」。ジェイミーの写真には、新しいものへの好奇心、被写体に対しての真っ直ぐな捉え方、独特な色や光の表現が込められている。
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ジェイミー・ホークスワース 1987年イギリス・サフォーク州生まれのフォトグラファー。大学では当初は、法科学・犯罪捜査学を専攻。授業の一環で取り組んだ犯罪捜査の証拠写真撮影により写真の魅力を感じ、フォトグラファーの道へ。現在では、作家活動のほか様々な広告や雑誌の撮影も行う。 |
Text Takayasu Yamada Photo Masato Kawamura (P007) |
Photo by Jamie Hawkesworth, “Preston Bus Station”, 2011-2015, C-print, 34.8 x 27.9 cm | © Jamie Hawkesworth / Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film |