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shodō
DAICHIRO SHINJO

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DAICHIRO SHINJO

自問自答を繰り返し
自分の字を探し続ける

Sumi on canvas, 2021

 
墨で書かれた力強く、繊細で、抽象的な書。今年、エルメスが公開したドキュメンタリームービー「HUMAN ODESSEY」でエピソード1の主人公として登場したことからも、新城大地郎が世間から高い注目を浴びていることを物語っている。
 
彼が書道を始めたのは、4、5歳の頃。出生地でもあり今も拠点とする宮古の書道塾に通っていた当時を振り返ると、最初は手本を見ながら文字の形を倣うといういわゆる習字から始まったという。
 
「16歳くらいまでその塾に通っていたんですが、先生が非常に自由で寛容な方でした。休みの日も朝から晩までその塾に入り浸り、泊まることもあった。学童保育みたいな場所だったんです。その頃から墨を使って文字を書く時間が食事や睡眠のように生活の一部として存在していました」。
 
過去のエピソードから、幼少期に経験した書道塾での体験が、現在の活動の礎になっていることが伝わってくる。その塾を卒業した後は、祖父のお寺の境内で書いていたという。そこでは、塾と違い手本がある訳ではないが、禅画として有名な仙厓や白隠などの作品が掛けられている中で、好きな文字や言葉を自由に書いていたようだ。
 
「無意識ながらも仙厓や白隠の禅画を見ていたことが今に少なからず影響している」と新城は話す。その後、建築の道に憧れを抱き、大学で専攻した後、設計事務所へと就職。会社に属し、組織の中で仕事をする中で、新城はそれまで育んできた自分らしさが損なわれていくことを実感する。
 
「自分が赤だと思うものも、白だと言わないといけない。組織の中で周りに合わせていくことが苦しかった。その時から家に帰ると作品制作に没頭して、ウェブやインスタにあげたりしていたんです。それは、物事に対しての違和感を正だと捉えたくないという、社会に対しての反発だったと思います。自分が感じた間違った感覚、受け入れられない気持ちを書くことで、自分の本質的な気持ちを知るという行為に近かったと思います」。
 
その頃は、書道用紙ではなく英字新聞をキャンバスに文字を書いていたという彼。そこからも、社会やコントロールされたものからの逸脱を試みたいという気持ちが現れている。そして、2017年に行った、英字新聞に書いた作品の展示を機にアーティストとして活動する決断をする。
 
当初は社会や組織からの反発を原動力に書いていたというが、設計事務所を辞め、制作活動に専念するようになって数年が経った現在。新城の心の変化はどうか。
 
「アカデミックなところをもっと研究する必要があると思っています。文字を書くということに囚われたくない。自分が持っている気持ちを文字で表現した時に、文字のフレームを借りるわけですが、実際の気持ちはもっと丸かったり、尖っていたり、歪んでいたりするわけです。そうなるとその文字や言葉さえ疑いはじめます。最近は、そういう繰り返しの中で、自分の内側を見るようにトライをしています」という新城の言葉のように、書は一発勝負というわけではない。
 
自分がその文字を通して表現したい今の気持ちがそこに現れているのか。自問自答しながら、納得できるまで書き続ける。「一回では生まれてこない。書いて、書いて、たくさん書いて。そうすると身体と書いたものがこう一体化する瞬間があるんです。自分と作品が離れていない表現です。彫刻や油絵は重ねたり削ったりして時間をかけて表現していきます。対照的に書というのは瞬間的に思われます。けれど時間をかけないのかと言われれば、そうではない。書き続けることで納得のいく一つの作品が生まれると思っています」。
 
自身から滲み出る純粋な文字や言葉を書き続け、自問自答を繰り返していくわけだが、制作活動を行う上で大切なことは空間に拘ることのようだ。「ムードの中に自分がいるわけだから、やっぱり空間と自分の身体が一体化しないといけない。まず香りから入ったり、ワインを飲んだり。自分が良い空気感を保った状態で書くというのはすごく大事にしています」。
 
より良い作品を書くために新城が今、新たに挑戦しはじめたことがあるという。染料や素材の研究だ。これまで、市販されていた墨をブレンドして使っていたのだが、エルメスのムービーでもあったように、藍を使って書いたことがきっかけで、染料や素材に対してももっと研究をしていきたいと思うようになったという。
 
「今、墨を自分で作りはじめたんです。煤(すす)と膠(にかわ)を混ぜ合わせて古来の墨に近いノンケミカルな墨を作っています。まだ試行錯誤中なんですが、その墨がすごく良い。生きているんです。膠は、動物の骨や皮から作られたいわゆる接着剤なんですが、動物性だから扱い方によっては直ぐに腐敗していくんです。書いた後、経年変化で表面の割れも出てくる。表現する素材と慎重に、丁寧に向き合うことで生きているもので書いているという実感があります。この濃淡だったり生々しい感じ。これがすごく良いから、Silverではこの墨で書いた作品を見てもらいたい」。
 
その言葉に対し、今回はどの文字を載せてくれるかと聞く。
 
「今、よく書いている文字の1つ、『無』かな。宮古もそうですけど、なにもないようで、そこに全てあるんですよ。字はみんなのものかもしれないけれど、その時の自分の字を書くことを大切にしています。今はひたすら自分の中の『無』を探しています」。
 
 
新城大地郎
1992年、沖縄県宮古島に生まれる。禅僧でもあり民俗学者の祖父を持ち、幼い頃から禅や仏教美術に親しみながら書道を始める。文化や歴史に敬意を払いながら、書を通して新たな表現を模索し続ける。
 
 
 

Photo Alexandra Scarangella Interview & Text Takayasu Yamada
This article is included in

Silver N°14 Winter 2021-22

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