Born in California in 1955. | Visual artist and contemporary composer known for his experimental musical |
expression that uses multiple turntables to create sound collages. |
芸術表現でも時間がテーマとなっている作品は多く、例を出すと本誌の表紙に写るダリの「記憶の固執」など枚挙にいとまがない。時間という壮大かつ身近な存在は、時代を超えて私たちを考えさせるテーマなのだろう。そんな時間をテーマにした作品の中でも、私が実際に観て最も衝撃を受けた作品がこの2010年に発表されたクリスチャン・マークレーの「The Clock」だ。今から9年前に行なわれた横浜トリエンナーレ2011でも展示され、そこでこの作品に出会った。
映像作品であるThe Clockは、古今東西の映画やTV番組などに写る時計のシーンをほぼ1分感覚で繋ぎ合わせ、1つの映像にまとめたもの。2時23分を表した映像が変わり、その次の映像に写し出された時計は2時24分と続いている。その上、現実世界とリアルタイムで繋がるよう展示公開され、2時25分に見れば映像の時計の針も2時25分を指しているシーンが映されているというもの。それが24時間組まれていて、すべてを観るには24時間かかる作品となっている。膨大な映像の中から時計が写るシーンを探し出し、様々な時間を繋げたこの作品は気の遠くなるような作業だったはず。実際にこの作品には、制作期間だけで2年半を要したようだ。
「最初の1年は本当にこの計画が実現するのかわからず、リスキーな挑戦だった。昼夜を問わず時計のシーンが写っていそうな映像をアシスタントたちと協力して探し続けていた」。そんな過酷な作品制作についてマークレーはこう話す。「これは、若い頃であれば作ることができなかった作品だと思う。歳を重ねていくと、時間の経過を早く感じるようになる。常に僕たちには十分な時間の余裕はないんだ。それは誰もが共感のできることだと思う。この作品は、時間について向き合うきっかけになる、瞑想ともいえる作品なんだ」。そして制作背景についてこう話す。「動画編集をすることは楽しかったよ。コラージュを作るような感覚と同じで、違うのは動きがあることと、音もあるということだけ。この作品には、時間の経過を表現するために、何千もの映画の断片を使った。このような作品を作る時、僕は関係のないもの同士にある繋がりを見つけることを心がけている。この作品も、1つ1つのシーンの繋がりも無関係なようで、何かの繋がりがあるようにも思えるはずだ」。確かに、この作品はただ単に隣り合わせの時間のシーンを繋いだだけではなく、シームレスな1つの作品のように観ることができる。このような編集技術は、かねてからマークレーが行ってきたレコードとターンテーブルを使用した実験的な音楽表現やコラージュ作品の経験値によるものだろう。1991年には、今は無き汐留の東京パーンで100台のターンテーブルを使用したパフォーマンスも行ったことがある。The Clockのサウンドトラック作りも、映像に連続性を与えるのに必要な存在だったようだ。そして、この作品を通してマークレーが伝えたかったことは何か。「この動画は24時間ループしているから、流し続けていたら毎日深夜には同じシーンを観る事になる。映像は同じだが観ている側の状況は変わっているはずだ。視聴者は日に日に歳を重ねていくし、同じ1日を過ごしていないうえに悩みを抱える日もあるだろう。このインスタレーションは、一種のパフォーマンスであり、観客はそれに参加しているんだ。観客の時間とスクリーンの時間が混ざり合っている。この作品を見続けるべきか、離れるべきか。自分はあと何時間余裕があるのか?と自問自答をする必要もある。スクリーン上に表れる時間とリアルタイムは同じだから、映像を見ながらその日の予定などを考えることになる」。また、この作品は、映像作品だがインターネットでは一部のレビューなどでしか観ることができない。オンラインで公開しない理由をマークレーはこう語る。「COVID-19によって自宅待機を余儀なくされたことで、多くの人たちから“The Clock”をオンラインで公開する気はないか?と尋ねられた。でも、僕はこの作品を公開する気はない。なぜなら、さっきも言ったようにこの作品は、時間を共有することで作品と観客を結びつけるもの。インスタレーションだから、同じ展示空間に人々が集まって、大きなサウンドシステムとともに体験してほしいからね。自宅のパソコンでは、気が散ることが多くて、同じ体験はできないはずだ」。
すべての人に対し、平等に流れている時間。だが、この映像に写されたシーンのように、人それぞれに流れる時間の存在は違う。事件の最中で時計を見る瞬間は、緊迫した時間だろうし、家族や恋人と過ごしているシーンの時計が示す時間は、非常にゆったりとしたものであるはずだ。我々も今回のステイホーム期間に、時間の流れ方を意識した人は多いのではないだろうか。そういった様々な時間との向き合い方を、この作品を観ることで多角的に考えさせられた。
1955年アメリカ・カリフォルニア州生まれ。現代音楽化。美術家。複数のレコードプレイヤーを用いた実験的な音楽表現やコラージュを得意としたアート表現が特徴。新型コロナウイルス感染症の影響で延期中だが、東京のギャラリー小柳で新作のコラージュシリーズの展示も予定している。