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Silver No.15
ART
I am not an Object

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I am not an Object

反逆精神溢れる絵画表現

Oil, pigment, graphite, plaster statue, linen, wooden panel
In her atelier

 
何度も何度も油絵具を塗り重ねたことによる、デコボコと物質感を帯びた異形なポートレート。これは、絵画の領域を拡大し続ける作風で注目を浴びる気鋭の画家、水戸部七絵による作品だ。象徴的な厚塗りは幅40~50cmにも達し、重量は1トンを超えることさえある。しかし、あくまでもこれは「絵画だ」と水戸部は主張する。なぜ彼女は絵画表現にこだわるのか?そして作品に込めた思いとは何なのだろうか?
 
「もともと私は、絵画原理主義と呼ばれる絵画表現の線引きに厳格な分野で作品を作っていました。そんなマニアックな世界で作品発表を続けていると、その世界で評価される絵画のパターンがわかるようになってきて。日本の絵画表現は、写実的な表現や印象派で時の流れが止まっていて、それがとても退屈で反発したくなってきたんです。だから、厚塗りや異物を混ぜたり、石像や楽器をくっ付けるなどの実験的な表現をしています。これは絵画原理主義の分野においては絶対的にタブー。でも、そうやって上の世代の表現や影響を自己解釈した上で、その反発として自分達の世代が新たな作品を作らないといけないと思っています。絵画の世界にいるからこそ感じる不満を、絵画を用いて表現する自虐的アプローチなのです」。
 
 

リスペクトと皮肉の共存

 
自虐性は、描く対象人物を決めるときにも一貫していると水戸部は話す。例えば、彼女は自身のコンプレックスから金髪や鼻の高い人しか描かない。具体的な対象として、マイケル・ジャクソンやデヴィッド・ボウイなどのアイコニックな人物が挙げられる。
 
「単純に綺麗な見た目の人ではなく、栄枯盛衰の人生を送っている人を描くようにしています。整形をして崩れていく様や、スキャンダルに塗れながらいくつもの波がある彼らの人生に芸術的な美しさを感じるんです。もちろんリスペクトが前提にありますが、皮肉も込めているのです。キリストの宗教画やイコン(アイコンの語源)は、そのままキリストを描いて失礼にならないよう、あえてひねりを効かせたり、下手に描いたりさえする作風があります。私は描く対象人物に特別な崇拝心を持っているわけではないのですが、その対象人物を崇拝していたり、熱狂的なファンである人達がいるからこそ、現代のイコンとして描いているつもりです。否定的な意見は必ずあると思いますが、何においてもそういう意見こそ吸収していかないと、盲目的になって何も感じられなくなってしまうのではないでしょうか」。
 
 

アートマーケットへのカウンター

 
絵画という権威的な芸術分野にカウンターの姿勢を貫く水戸部の芸術表現。その矛先は、資本主義のもとに成り立つアートマーケットにも向けられている。
 
「絵画は流通させやすいからこそ、投機目的にされることも多くて。そのシステムの中にある絵画や作家を“ゾンビフォーマリズム(投資家や金持ちに好まれる絵を描くこと。また、そのようなムーブメントが若者やコレクターに感染拡大していったこと)”と呼ぶんです。昔の宮廷画家が王族のために肖像画を描いていた構造と同じですよね。そんなマーケットにあえて私も飛び込むことにしたんです。私の絵がすごく厚いのは、絵の具の匂いや重さ、物質的な要素を加えることで、投機としての絵画保存や飾っておくことが難しくなるという抵抗の一つでもあります。コレクターや私が生きている間は一生乾かないと思いますし、そうすることでただの投機や置物では終わらない永続的な絵画を目指しています。『こういう芸術もあるんだよ』ということを発信できたらなと思っています。絵は誰でも見られるし描けるからこそ、テーマや表面的なビジュアルは子供にも伝わるような分かりやすいものにしたい。そこから段々と、『これは資本主義に抵抗している表現だ』とか、『芸術はこういう構造で成り立っているんだ』といった作品の背景や文脈、本質的な部分を突き詰めて考えていくきっかけになればと思っています」。
 
 
水戸部七絵
小学生の時に見たゴッホの『ひまわり』に感銘を受け、絵画の道に進むことを志す。しかし芸術大学は入学3日で退学を申し出て、枠組みに縛られないスタンスで活動を行う。現在は千葉県の九十九里浜に近い場所に300平米のアトリエを構え、常に100個以上の作品制作を行っている。
 
 
 

Photo Ryosuke Hoshina Interview & Text Yutaro Okamoto

 

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Silver N°15 Spring 2022

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