アートなのか、工芸なのか?工芸の高い技術を持ちながらも、アートとも言えるアプローチをする日本の若き才能たち。アートとクラフト、この2つの視点を持ちながら活動するアーティストたちにクリエイティブディレクター南の視点は注がれている。今回紹介するのは漆皮アーティストの市川陽子。
「これ実は皮なんです。皮に漆を塗っているんですよ。漆皮(しっぴ)という飛鳥時代からある伝統的な技法なんですけど、今はほとんどやっている人がいないんですね。市川さんはその漆皮(しっぴ)という技法を独自の視点と新しい感覚で作品にしているアーティストです。もちろん全部手で作っていて、漆皮をキャンバスに見立てて作品にしてしまうという感覚がすごいですよね。メイン写真のこれは彼女にとってはキャンバスでもあり、テーブルの天板でもあるという作品です。素材は豚の皮なんですけど、漆を塗って、乾かして、また塗っての工程を1ヶ月以上繰り返し完成させるんです。それで面白いのはこの作品は経年変化していくということ。漆そのものはほとんど変化しないんですが、皮がエイジングすることによって漆と融合して不思議な経年変化を起こすんですよね。それで皮で作られているんだっていうことがよりわかるし、やっぱり漆器とも違うんですよね。僕がこれをアートだなと思う理由の一つは自然のものを扱うがゆえに作家が意図しない偶然性があるところ。要は皮自体の表情は彼女が作り出せないわけですよ。でも、どの部分をどこに使って、どう配置して、どんな加工をしてというのはとても職人的なクラフトマンシップなんです。
また彼女は豚か牛の皮を使うことが多いんですけど、そこにもテーマがあって、人間が生活する、食べることにおいて食肉加工されて副産物として生まれたものを使うんです。ゴミになってしまうような部分を使うという社会の循環、サスティナビリティ的なマインドもあって深いですよね。ファッションアイテムで使われる皮は傷がついていたら使えないけれど、彼女は傷や端くれもあえて、そのまま活かして作品にする。そうすることによって皮が生き物だってことがわかるし、その計算的ではない自然の産物による美しい佇まいが魅力ですね」。
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