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Art and Time Photography & Art
時間に対して向き合った写真とアート作品を知る

古今東西、数々の作家が「時間」をテーマに作品を発表してきた。人々の生活において重要なものである時間。時間に追われて生きるのか、時間を操って生きるのか。様々な感情を巡らせるこのテーマに対して作家が作品を発表することは必然的といえる。
一瞬の出来事を収める写真もまさにそうで、ストレートフォトグラフィーは、切り撮られたその瞬間を観ることで感情が揺さぶられるもの。アートもコンセプチュアルに時間を題材にした作品は多い。そういった時間と密接な作品を鑑賞することは、時間と向き合うきっかけにも繋がるはずだろう。PART6では、そんな時間を捉えたストレートフォトグラフィーとアートを紹介する。

Art and Time Photography & Art
時間に対して向き合った写真とアート作品を知る

古今東西、数々の作家が「時間」をテーマに作品を発表してきた。人々の生活において重要なものである時間。時間に追われて生きるのか、時間を操って生きるのか。様々な感情を巡らせるこのテーマに対して作家が作品を発表することは必然的といえる。
一瞬の出来事を収める写真もまさにそうで、ストレートフォトグラフィーは、切り撮られたその瞬間を観ることで感情が揺さぶられるもの。アートもコンセプチュアルに時間を題材にした作品は多い。そういった時間と密接な作品を鑑賞することは、時間と向き合うきっかけにも繋がるはずだろう。PART6では、そんな時間を捉えたストレートフォトグラフィーとアートを紹介する。

Carpenter Center, Richmond,1993  Hiroshi Sugimoto
gelatin silver print
© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

 
 
 さて、これまで時間にまつわる絵画や恒久展示作品を取り上げてきたが、ここからは時間が作品にとって大きな要素となる写真と映像に関して触れてみたい。まずは杉本博司の『劇場』と題されたシリーズからで、このモノクロ写真はどれも一様に画面の中央に真っ白なスクリーンが“入れ子”のような構図で収まっていて、その光によって劇場の景観や客席が照らされているというものだ。
 
 なぜこのシリーズが時間を感じさせるのかというと、映画が一本上映されている間中、客席の後方に三脚を立て、最初から最後まできっちりとカメラのシャッターを開き、長時間露光することによって撮影された特殊な作品であるからだ。数時間に及ぶスクリーンから放たれる光を、カメラの機械の眼によって捉えることで、肉眼では見えなかった劇場の風景が浮かび上がるという、いわば時間の流れがひとつの作品に凝縮されているわけだ。
 
 一般的に、写真というのは一瞬を切り取るものとして知られていて、絶え間なく流れていく時間があってシャッターが切られた瞬間だけが写真として記録される。一方、杉本のこの『劇場』にいたっては、瞬間どころか流れていく時間の束のようなものを撮影している。しかも、これらの写真には映画が上映されている時間の経過だけではなく、映画を見ていた観客たちが共有した場の空気感も記録されていることも忘れてはならない。それとともに映画館の光を放つ白いスクリーンは、時間や記憶や記録などが凝縮されていると考えれば、杉本の『劇場』というのは、実に摩訶不思議な世界を写し出していることになるのだ。

Empire,1964  Andy Warhol
16mm film, black and white, silent, 8 hours 5 minutes at 16
framesper second
©2020 The Andy Warhol Museum, Pittsburgh, PA, a museum of Carnegie Institute. All rights reserved. Film still courtesy of The Andy Warhol Museum

 
 
 映像と時間の関係といえば、『エンパイア』という8時間にも及ぶ作品のことを思い起こす。1964年に制作されたモノクロの無声映画で、これを制作したのがアンディ・ウォーホルだ。おそらく、ウォーホルの映画作品の中でも最も知られたもののひとつだと思うが、その内容はというとニューヨークのエンパイア・ステート・ビルディングを、一続きのスローモーションで8時間5分の間、定点の長回しでひらすら映し続けるというものだ。ぼくはこれを見る機会が何度かあったものの、これまで全部を通してちゃんと見たことがない。なぜなら、ストーリーもなく、とにかく映っているのはモノクロの動かぬエンパイアの建物だけであり、全部を通しで見続けるのは正直言ってかなりの苦行だったのだ。
 
 16ミリフィルムで撮影された禅問答のような、つまり“なにを言わんとしているか、はたからよくわからない”この映像は、まず全面が白の画面から始まり、太陽が沈むとエンパイアの姿が現れる。外壁の投光照明が点き、6時間半かけてビルの照明が少しずつ明滅していく。そして次のリールから最後のリールまでは投光照明が消されるため、あとは殆ど真っ暗な画面が続いていくという内容だ。ちなみに、撮影時は24フレーム/秒だったのが、上映の時に16フレーム/秒で行なったことで、実際に長さの6時間36分よりも長くなったというのだが、これもまた時間というものを強烈に意識させるアート作品であることはいうまでもない。

The Clock, 2010   Christian Marclay
Single-channel video, 24 hours
© Christian Marclay, Courtesy White Cube, London and Paula Cooper Gallery, New York

 
 
 さて、アートにおける時間が生み出す価値ということを踏まえて絶対に外せないのが、クリスチャン・マークレーの「The Clock」という壮大な映像作品ということになる。本誌にも巻頭で紹介されているが、これは世界中の映画やドラマの時計が出てくるシーンをほぼ1分間隔で、時刻順にその時間の長さの分だけ並べて継なげたものであり、とにかく時間というテーマを語る上で、2010年に初公開されて以来、話題を振りまいてきたこの作品は重要でありキーとなる作品であろう。
 
 マークレーと彼が雇ったスタッフたちは、「The Clock」を制作するにあたり、数千の映画を観たという。時計の映っているシーンはないかと血眼になって探し、おそらくキリのいい時間であれば素材はわりとあったはずだが、中途半端な時間はそう簡単には見つからなかったのではないだろうか。そのため、マークレーはこの制作のためだけに2年半という歳月を費やすこととなり、どうにかこの気の遠くなるような作業は終わりを迎え完成に至った。
 
 「The Clock」の素材となった映像クリップは、有名なハリウッド映画からアジアのインディペンデント映画まで、世界中の作品から網羅されている。フル上映であれば24時間かかる作品なので、開始時間は必ず真夜中の0時から始めなければならない。この作品を体験する観客は、コラージュのように繋ぎ合わさったそれぞれのシーンの記号や暗示と向き合いながら、同時に自分が今見ている時間を常に意識することとなる。一定の時間の間に、同じ役者が全く違う年齢で何度か登場したりするのもこの作品の面白さで、過去の記憶、作品の時間、そして現実の時間と何層にも重なる時間を感じることになるという際立った作品なのだ。
 
 さて、ここまで時間や時が生み出す価値のことを様々なアート作品や映像作品を通して書き綴ってみたが、振りかえってみて思うことは、これらのアート作品や映像は人々を頭に「時間という概念を意識させる」ということに尽きるかもしれない。ゆえに、ほんの短い間見ただけで「はい、わかった、終わり」ではなく、とにかく長い時間をかけてじっくりと向きあう必要があるのだろうし、また、自身が成長していくにつれ、同じ作品であってもまったく異なって見えてくるのかもしれない。時間は人のためにつくられているが、人が時間のためにつくられているわけではない。しかもだ、時間というのはすべての人間に平等であるわけだから、その使い方が大きくそれぞれの人生を左右していくのである。「この地上で過ごせる時間には限りがある。本当に大事なことを一生懸命できる機会は、結局のところ二回か三回くらいしかないものだ」、56歳で惜しまれながらこの世を去ったスティーブ・ジョブズが我々に残してくれた言葉である。
 
 
 
河内タカ
高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジへ留学。卒業後はニューヨークに拠点を移し、アートや写真に関する展覧会のキュレーションや写真集の編集を数多く手がける。30年間米国に暮らした後に帰国。2016年には自身の体験を通したアートや写真のことを綴った著書『アートの入り口』と2019年に『芸術家たち』を刊行。現在は京都に本社を置く便利堂の海外事業部に席を置きながら、ライターとしても様々な媒体に寄稿をしている。
 
 
 

Text Taka Kawachi Edit Takayasu Yamada

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